第50話 モットーは、信頼と誠実

 冒険者ギルドのギルドマスターの部屋へ入ると、ギルドマスターのボイルさんがゲッソリした顔で迎えてくれた。


「やあ、どうも……」


「大丈夫ですか……?」


「大丈夫じゃないね……」


 ギルドマスターのボイルさんは、力なく答えた。

 冒険者への対応だけでなく、商人や貴族の使いから面会依頼が殺到しているそうだ。


 俺が謝る筋合いのことではないが、なんかスマン……。


「仲間たちの冒険者登録と素材の買い取りをお願いしたのですが……」


「今日は無理だよ……。明日の昼に来て欲しい。お昼なら冒険者たちが出払っているので、対応出来るよ」


 急ぐ話でもないので、明日で良いだろう。

 リクや柴山さんもうなずいている。

 今日は、早めに宿屋で休むとしよう。


「わかりました。じゃあ、今日は宿屋で体を休めます」


「宿屋の空きはないですよ」


「えっ!?」


「宿屋はどこも満員です。あぶれた冒険者が、街中で野営をしている始末です」


「キャパオーバーってことか……」


 人が増えすぎて領都ノースポールのキャパシティを越えてしまったのだ。

 テントは全員が入れる分だけあるから、俺たちも野営か?


「ですが、安心して下さい! ミッツさんたちには、宿泊場所を用意しておきました!」


「おお! さすがボイルさん! ありがとうございます!」


「まあ、知人の家に泊めてもらえるように、お願いしただけですけどね。その人も、『ミッツさんたちなら!』と快諾してくれました」


「ありがたいです! どちらへ行けば良いでしょう?」


「宿泊場所は、領主の館です」


「「「「えっ!?」」」」


 俺、リク、柴山さん、マリンさんの声が重なる。

 領主の館って、今、言ったか?

 俺は思わず聞き返した。


「今、領主の館って言いましたか? 領主って、ノースポール辺境伯様ですか?」


「そうです。場所はココたちが知っていますから、案内してもらってください。さあ! 私は忙しいのです! 仕事をさせて下さい!」


 俺たちは、冒険者ギルドから追い出された。

 猫獣人ココさんは、さっさと歩き出す。


「じゃあ、ついてくるニャ!」


「いや、ちょっと待って……ああ!」


 貴族の館に泊まるなど厄介ごとが起りそうな気がしてならない。

 この世界の貴族は、日本人には想像もつかないような大きな権力を持っているはずだ。


 正直、関わらない方が良いと思う。


 俺、リク、柴山さん、マリンさんは、この世界の基礎知識があるし、異世界の生活を体感しているので、領主ノースポール辺境伯と関わりを持つことを、非常に警戒した。


 だが、拠点から同行してきた連中は、まったくそんな気配はない。

 それどころか、ワクワクして、俺たちが猫獣人ココさんを止める前に、ついて行ってしまった。


「領主って貴族だろ? スゲエ!」

「貴族の館に泊まれるんだ!」

「期待感ハンパないね!」


 いや、脳天気すぎませんかね……。

 俺は、額に手をあて天をあおぐリクに相談した。


「どうするよ……。みんなノリノリだぜ……。行くか? 止めるか?」


「今さら止めるとか、さすがに言えないだろう。野営するとは言い出しづらいな……。それに野営する場所が空いているかどうか……」


「確かに、そうだな……。町の外は避けたい。柴山さんとマリンさんは、どう?」


 柴山さんとマリンさんも渋い表情だ。


「致し方ないでしょう。拠点から連れて来たみんなにとっては、初めての異世界旅……、それも戦闘の連続でしたから……。整った設備のある場所で、しっかり休ませるべきかと……。まあ、僕は貴族なんて偉い人には、関わりたくないですが……」


「私は、柴山さんの言う通りだと思う。逆に宿が見つかってラッキーだと思いましょう!」


 柴山さんとマリンさんは、やむなしと。

 そうだな。

 ちゃんと屋根のある場所で、仲間たちを休ませてあげたい。


 俺たちの話を聞いていた盾役のブラウニーさんが、俺の肩を叩いた。


「ミッツ殿。それほど心配しなくても大丈夫だろう。ノースポール辺境伯様は、評判の良い領主だ」


「そうなんですか?」


「うむ。私も何度かお目にかかったことがあるが、偉ぶったところのない誠実なお人だ。それに、ノースポール辺境伯家のモットーは『信頼と誠実』だ。民からの信頼も篤い」


「ほうほう! そんな方ならお世話になっても大丈夫そうですね!」


 俺たちは、また裏道を通って領主ノースポール辺境伯の館に向かった。

 ノースポール辺境伯の館は、町の南側にあった。

 盾役のブラウニーさんによると、王都に近いから、南側に領主の館を建てたらしい。


 俺、リク、柴山さん、マリンさんは、領主の館に圧倒されていた。


「いや、しかし、これは……! 立派な家だな! テーマパークかよ!」


「マジかよ! 辺境伯って無茶苦茶偉い人じゃないのか?」


「凄いですね! 館というより宮殿ですね!」


「はあああああ! 貴族凄い! 晩ご飯に期待!」


 領主ノースポール辺境伯の館は、丘の上に建っていた。


 夕日を浴びた館が美しい。

 石造りの四階建てで、とんがり屋根の尖塔がついている。


 敷地は広く、俺たちが立っている正門から石畳がずっと館まで続いているのだ。

 広大な敷地の周りは、金属製の柵で囲われていて、正門の前には鎧を着た門番が立っていた。


「ノースポール辺境伯家は、歴史のある貴族家ですから館も立派なのです。代々の当主が少しずつ館を改築したのでしょう」


「「「「ほえ~」」」」


 完全にお上りさんになった俺たちをよそに、猫獣人ココさんが門番に取り次ぎを頼んでいた。

 いよいよ、貴族の屋敷に突入だ!

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