そうなるんですかね?
腰には絶え間なく襲い来る激痛。
にも関わらず必死に顔面を何度も擦り付けて来る愛猫(外見は超美少女めっちゃ可愛い)
いや、めっちゃ可愛いんだけど俺今腰からすげぇ音したの。そんでめっちゃ痛いの。動けないの。
「んなぁああん! ぷにゃぁあああん!」
「いだだだ待ってクロちゃんお願いだから待って本当今危ないだだだ!」
色々とツッコミどころしかない。
なんでクロちゃんこんな所に来ちゃったの?
ていうかよくここが分かったね? お外なんですけど? どうやって出たの?
それでも段々と土煙が落ち着いて来ると、徐々に何が起きたのか分かってきた。
「おじょ、おじょうさまぁあああ……」
半泣きでえぐえぐしながら地べたに這いつくばってこちらに手を伸ばしているリィーンさんがちょっと遠くに。
予想外過ぎるクロの登場に、攻撃態勢のまま硬直してしまっているご当主様。
そして、俺の腰を絞め殺さんばかりに抱き締めながら顔面を押し付けるクロ。
察するに、リィーンさんはきっと頑張ったんだろう。
いつも綺麗なメイド服がボロボロになってしまうくらいには。
俺の腰はもしかするともう駄目かもしれん。しかし、クロのした事だと思えばそれももう致し方なしである。
猫という愛すべき存在を前にすると、人間は下僕となるしかない。
それは誇らしく、そして栄誉ある事なのだ。
だがしかしそれはそれとして腰が死んでるどうしようくそ痛え。
だって聞いた事ない音したよ俺の腰。
「なぅああん! ぷなああぁん!」
クロがどちゃクソ可愛いからヨシ!
知らんわ俺の腰なんか。
何もうどうしたのそんなに必死になって、そんなに寂しかったの? 俺が居なくて?
着てる服の腹あたりがだんだん湿って来てるから多分これは涎だろう。
いつも帰宅したら大体こうやって飛びかかってきて必死にしがみつきながら俺の服を噛み噛みチパチパしつつ、うなうなぷなぷな鳴いてたっけ。
何この子もうどんだけ可愛いの。
あー可愛い、もう可愛い過ぎて可愛いから可愛いんだけど可愛いんだよなぁ。
「なうなぁん、ぷぁあん、ぬぁあん」
「クロちゃん鳴き声カオスだよ、落ち着こうな、よしよし」
「ぷぅん」
「はー可愛い」
ほら、そろそろ落ち着こうな、大丈夫だから。
「……ギンセンカ様、心の声と逆になってませんかそれ」
「あっ」
やべ、間違えちゃった。
「はは、ふっはは! くくく、はははははは! はーっはっはっはぐふっがはっ、げほっ、おえっ」
唐突な笑い声、しかも爆笑である。
びっくりして視線を向ければ、そこには腹を抱えて大爆笑なご当主様がゴロゴロ転がりながら悶えていた。
後半なんかむせて吐き気まで出ているくらいの爆笑である。
いや、待ってご当主様肋骨折れてるのに転がらないでやめて大惨事になる!!
ていうか口から血が出てんのに何してんの!? そりゃ
待って待ってこのままじゃ殺人犯じゃん!! 公爵家当主殺したとか極刑しか待ってないじゃん!! やだ!!
「はー、笑った笑った、久方振りぞ、ここまで笑ったのは」
「大変申し訳ございませんでした晒し首だけは勘弁して下さい」
「何の話をしている?」
「どうせしょうもない事だと思いますよ旦那様」
しょうもないとはなんだ切実な話してんだぞこっちは。
そう考えながら睥睨しようとリィーンさんに視線を向けた瞬間、彼女の背後に気配も無く佇む執事服の壮年の男性の姿を見てしまって、幽霊かと思った俺の心臓が驚きに止まりそうになった。
しかしそれはご当主様の傍にいつも居る執事さんだと気付き、ホッと胸を撫で下ろす。
この闘いの見届け人として居てくれていた人物だ。
「………………リィーン、貴様は客人にもそんなに態度をとっているのですか?」
「げっ、お父様!?」
あー、リィーンさんのお父さんですかなるほど、なんか顔がだんだん般若みたいになってってますけど、なになに、どうしたの?
「これは教育をし直さなければなりませんね?」
「待って下さい、これには訳が……!」
「問答無用です」
「いやあああぁぁぁぁぁ……!!」
えっと。
よく分からんけど、リィーンさんは引き摺られるように連行されて行きました。
………………待ってご当主様と二人きりにしないで!! いやクロも居るけど!!
「さて、それよりも決めなければならない事があるな」
「そうですね、つまり私は極刑でしょうか」
ぷなぷなと必死にしがみついてくるクロの頭をよぉーしよしよしと撫でながらご当主さまの言葉に答えるが、なんかキョトンとした顔をされてしまった。
ダンディなおっさんのキョトン顔って誰が得するんだろう。
あとクロの涎がじんわり染みてきてそれが外気に冷やされて地味に寒い。つめたい。
「何の話だねそれは」
「違うんですか?」
「娘がこれ程まで気に入っている存在を、どうして極刑に出来ようか」
苦笑混じりにそう言って緩く頭を搔くご当主さまの雰囲気が、完全に娘の我儘に振り回されるお父さんだった。
やったー! 無くなると思ってた首の所有権返ってきたー!
内心では大歓喜&クラッカーをパーンしてすらいるが、そんなテンションを見せたくない俺は、キリッとした真剣な顔で食い下がった。キリッ。
「しかし……!」
「今回の事は此方から願い出た事だ、貴様が気に病むのは間違っている」
「……かしこまりました」
ちなみに社会出るまで言質をコトジチって読んでました!
だってそう読めるから!
浮かれて脳内でそんな恥を思い返しながら、それでも外面には頑張って出さないように頭を下げる。
「それより、貴様がどんな手を使ってでも勝ちたいと思う程クロエを愛している事は分かった」
「ファッ!?」
余りにも突然投下された爆弾のような発言に変な声が出た。
「違うのか?」
「い、いえ、違わないですが、しかし」
「御託はいい、愛しているのかいないのか、ハッキリしているのはどちらだ」
「勿論愛してます」
家族としてだけどな!!
「つまり婿養子に来る覚悟はあるという事だな」
まあそうなりますよね!!
婿養子とか完全に玉の輿である。
だがそんな事よりも。
「クロと一緒に居られるのなら」
これが一番の俺の本音だ。
ただの補佐兼お目付け役なんて、どうしても限界があるのは少し前にも思った。
ずっと一緒に居られるのなら、俺はその方が良い。
その決意を察したのか、ご当主さまは、うむ、と大仰に頷いた。
「そうか、……慣習に則るなら公爵家の当主はクロエだが、前世返り同士の貴族の婚約、結婚となると異例だ」
「……前例は無いと?」
言われてみれば俺が調べた時、確かにその記録は無かったように思う。
とはいえ、他国の記録を調べるのなんて限界があるから、俺が見つけられなかっただけかもしれないが。
「聞いた事は無い、が、王城の記録に残っている物があるかもしれん、調べてみる価値はあるだろう」
「分かりました、許可申請をしてみます」
ダメ元でやってみよう。
別に無くてもいいけど、もし有った場合知っておいて損は無い。
「前例があるかどうかはともかく、……どちらが当主になるかは、話せるようになった時に話し合うのが一番良いのだがな」
「……はい」
頑張るけど、いつ話せるようになるかなぁ。話したいなぁ、クロと。
楽しみだなぁ、どんなお話してくれるんだろう。
「さて、これから忙しくなるな、婿殿」
「へァッ!?」
ニヤリ、と笑いながらご当主さまからそんな呼ばれ方をされてしまった俺の口から出たのは、今まで出た事無いタイプの奇声だった。
不意打ちで爆弾発言投下するのやめてもらって良いですかね!?
あとやっぱりめっちゃ腰が痛いです!!
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