絵は描けるが文が書けない人間が十万字書けるようになった覚書

八軒

文章でデッサンする話

 この文書は、絵はそこそこ(有償でイラスト受けたり pixiv のデイリーに稀に入ったりできる程度)描ける人間が小説を書こうとして丸一日かけて五百字も書けないというレベルから、とりあえず十万字かけるようになった覚書である。


 あくまで、俺個人の方法論なので他人の役に立つとは言ってない。


 文章が書けねぇ!を解決するだけで、面白い小説を書くことやストーリーを作ることは全く含んでいない。


 あと多分なんだが、言語優位タイプと視覚優位タイプでかなりアプローチが違う。


 俺はかなりの視覚優位タイプだ。昔、その手のテストをやったら異常なくらい偏ってたので、相当アレな方だ。


 小説の文章の相性が合うかは映像化できるかどうかがデカいし、ラノベでは軽くしろと言われがちな情景描写やこってりした戦闘シーンも、脳内映像再現で破綻しなければ全く負担にならず読んでいて楽しい。相性のいい作家だと難解な戦闘シーンでも動画のように動いてくれるので気持ちいい。


 アニメ化されたものを見て数年経つと「あれ? あのエピソードって原作で読んだのかアニメかどっちだ?」となることもある。


 キャラの見た目は死ぬほど覚えてるのに名前を覚えていなかったり。銀英伝で「アイスブルーの瞳」とか「蜂蜜色の髪」とかのあのしつこい記述に救われたタイプだ。


 どの本の何巻を買ったかも、タイトルや巻数ではなくて表紙で覚えている。会社では人の名前を覚えるのが異常に苦手でメモに頼っていた。


 つまり、記憶が全部映像寄りの情報になってしまうのだ。


 こういう人間の場合、小説をいくら読んでも文や単語としてはなかなか蓄積されない。「なんかカッコいい文あったと思うんだけどなぁ〜」とは思っても全く思い出せず、脳内に浮かぶのは勝手に映像化しておいた MV か MAD 映像ぽい何かだ。


 こういう人間が文章を書けるようにするにはどうするか。俺が行き着いたのは、結論から言うと



『文章の引き出しを作ることは諦めて、ひたすら文章によるデッサン力を鍛える。どうしても足りない時だけ調べて語彙を増やす』



 これです。

 文の書き方の手順はこう。


 ・頭の中で映像を作る

 ・それを脳内で何回も再生しながら文章に起こす


 書けないというのは、映像はあるのだけど文章に起こせないって状態。

 絵を描く人には伝わりやすいと思う。「書きたいイメージはあるのに画力が足りない!」ってやつ。


 それを解決するにはひたすら文章でのデッサンをする。


 文章を見て文章を書くのは、俺のようなタイプには極めて効率が悪い。二度手間過ぎて虚無な感じになってくる。(資料が文章しかない時には、それでもやる必要があるが)


 なので、脳内映像や動画や写真やイラストを見て文章に起こす。


 脳内映像の解像度が低い時には資料集めをする。この資料も科学技術や経済みたいな情報なら論文や文書でいいんだが、風景や動物の生態やマーシャルアーツとかなら動画も見ておいた方が圧倒的に楽。


 そのあと自分でも同じように動いておくと尚良い。家の中で棒もって振り回すの、絵描きならやったことあるだろぉ!?


 絵を描く時、資料を横に置いて描くじゃないっすか。アレと同じで、小説書いてる時に資料写真をドキュメントの中に貼ったり、絵を描く時のツール使って横に並べておく。(Google ドキュメントで執筆しているため)横に置いて見ながら書くとめちゃくちゃ楽。


 絵に関してはそこそこやってるので割と自信を持って言えるのだが、絵を手っ取り早く上手くなる方法はしっかり資料を見て描くことだ。

 個性とか後から勝手についてくる。見ないで想像だけで描いてるとすぐに画力の壁がくる。見る力を育てないと、空想も描けなくなる。


 見る力ってのは資料を見た時にそこからどれだけ解像度高く情報を得られるか、みたいな。


 同じリンゴを見て

 絵が下手な人「赤くて丸い」

 絵が上手い人「深い赤で艶やかで、緑味を帯びた黄色のまだらが縦方向に所々走っている。周辺部には環境の色が写り込んで青みを帯びている。影の中には照り返しがある。ハイライトはシャープだが表面に細かい凹凸があるので周辺がギザギザしている。フレネル効果により(略」


 これが見る力の差。まぁだから絵師の目……正確に言えば脳を食う必要があるわけ。


 絵が描けるなら、この見る力が程度の差はあれ元々育っているはずなので、これを文章書くのに活かさない手はあまりない。


 まーだからアレですよ、デッサン。

 完全にデッサン。


 見る→解釈→そこから欲しい情報を選んで言語化する


 初めから文章にする必要もない。それこそデッサンでアタリをつけるように


 赤い ハイライト 艶やか いい香り


 とか置きたい要素を先に書いてしまう。ここである程度、語彙力が決まる。つまり、見る力=書きたいモデルに対する解像度が高ければ高いほど、ここで選べるワードが増える。


 この語彙力は単純に言葉を知っているかどうかとは別のもの。


 見る力があれば「リンゴの艶やかさを出すのにハイライトは表現したいけど、ハイライトって言葉は使いたくないなー、調べるか」ってなるが、そもそも見る力がないとハイライトを書こうって発想にならない。

 欲しい情報は選んだけど相応しい言葉を知らない、表現が毎度同じになるって時には「しゃーねーなー」で類語調べたりする。


 あとは

 赤い ハイライト 艶やか いい香り

 とか並べたやつを文章なるように繋げる。これを繰り返してたら何とかなりました。雑!


 厄介な人称も、映像タイプの人間ならカメラワークに置き換えれば割とどうにかなると思う。


 文章デッサンではどうにもならない(と思った)ものもいくつかある。


 ・接続詞のレパートリー

 ・語尾のリズムのレパートリー


 みたいなやつ。こればっかは文章みて覚えないとなので、好きな作家の文章を「語尾だけ見るぞ!」で短期集中でやった。覚えが悪くても一点に絞れば何とかなる。


 以上。


 これはあくまで思ってることを文章にできるようにする方法でしかない。基礎画力はつくが、それで何をどう面白く書くかはまた別の話。


 ぶっちゃけ面白い話を書く方がはるかに難しいので……だから文章力よりストーリー、それはわかる。わかるんだけど、そもそも思いついても書けないとどうにもならないからなぁ。


 まぁ、やっとスタートラインに立てたなぁという感じです。

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