36 vs聖水大熊-1


 ――火連陣コンティニュアスファイア!――


 スヴァさんの紡いだ祝詞によって現出した消えることの無い火が、一直線に火炎放射の様に熊に放たれた。

 熊の視界から外れるようにその火の右側を走りつつ、熊の様子を伺う。


 俺たちの方を睨みつけていた大熊は目の前に迫りくる炎に対し、灰白色を纏った爪を叩き付けた。

 熊の爪に当たった部分の炎は消えたが、それ以外の部分がまだ残っているのを確認して、さらに近づく。


 2本の剣に魔力を流しながら走り、残った炎の更に一部が熊の左半身にぶつかった後、すぐさま熊と相対するよう正面に動き、両の剣を振り上げる。

 狙いは先ほど炎の一部を消した右の手。

 未だ振り下ろされた状態にあるその手首の位置を叩き斬る様に、クロスさせて振り下ろす。


 その振り下ろしは邪魔されることなく熊の右手首に吸い込まれていき、――


「――イズホ、左後ろに跳べ!!」


 聞こえてきた声に疑問を挟むことなく、そのまま左後ろに跳ぶ。

 瞬間、俺のいた場所には熊の火を纏ったままの左手が振り下ろされていた。


「助かった!」

「ええで!」


 熊に矢を飛ばしながら指示をくれたスヴァさんに感謝を伝え、体勢を立て直す。

 今の熊の状態は右手に浅い傷が1つと、左半身に今も燃え続けている炎を纏っていた。ダメージなどないかのように炎を纏っているが、今もなお火による直接的なダメージと火傷の状態異常のダメージによってHPが削られていってるはずだ。


「グゥォォッッ!」


 だが、その炎は熊が何かをすることで消えてしまった。

 何をしたんだ?


 疑問に思ったが、その答えを考える暇もなく熊が俺の方に走ってきた。

 今更だがこの熊、常に二足歩行だな。

 そんなどうでもいい事を頭に浮かべつつ、振り下ろされた熊の両手を、魔力を纏った剣をクロスさせた状態で受け止める。


 剣と爪がぶつかり合い、キーンと澄んだ音が響き渡る。かと思ったが、剣はその爪を斬り、そのまま振り抜けた。

 よく見ていなかったがどうやら熊は素の状態の爪を振り下ろしたらしい。それで俺の剣に負けたんだな。


「――っっ!!」


 だが、爪は斬れたがその手は残ったままなので、その振り下ろしの動作はそのまま俺の頭に降りかかった。

 熊の手に押しつぶされ、と言うか殴られスヴァさんの近くまで飛ばされた。


「大丈夫か?」

「なんとか、大丈夫だ」


 熊に矢を射かけながらのスヴァさんの安否確認に返答しつつ、適当に中級HP回復薬を2本飲む。

 痛いなぁ。まさか殴りの一発でHPの5割が削れるとは。いや、二発か。


「スヴァさん、ここからの案ってあるか? 正直このまま行っても削り切れる気がしない」

「そうやなぁ。取り敢えず鑑定してみるんはどうや? イズホの方にヘイトが行くかもしれへんけど」


 鑑定と聞いて心の奥底でブラッドウォーカーの恐怖が軽く再来しかけたが、それを鎮め素早く考える。


 確かに、鑑定をするという発想はなかった、というかこのエリアに入った時点でのボスの名称が判ったからそれで満足してしまっていた。

 ブラッドウォーカーの時は自分から鑑定したというのに。しかもその説明に書かれてたことを特に意識せずにやってたし。


 取り敢えず仕切り直しとして、鑑定して時間を稼ぎながら道筋を組み立てていくか。


「分かった。鑑定してみるから、俺に熊の攻撃が来そうならできるだけその前に止めてくれ。

 止められなかったとしても、まぁ大丈夫。自分で回避できる分には回避するから」

「分かったわ。ほな、そういうことで」


 具体的に方針が変わったわけではないが、鑑定すればいつかは変わるだろう。

 スヴァさんは再び矢を熊目掛け射始めたので、俺も熊を鑑定するか。


――――――――――


名称:無し

種族:聖水大熊ジャイアントベア

職業:森の主

状態:Active

Lv.57


ヴィデュールという国のある森の北側の更に一部の主。

聖力を水属性に変化させた聖水属性の扱いに長けてはいるが、それを術として現出させるのを得意とする種族ではない。ただ、聖水属性を身体に纏わせることは得意である。


――――――――――


「グオォォォッッ!!」


 鑑定した瞬間熊が一際大きな咆哮をし、俺たちの方に走ってくるがスヴァさんが今まで射っていた矢よりも攻撃力の高い、狼の爪で作られた矢尻をつけたものを射掛け、熊の気を引こうとする。

 その様子を見ながらスヴァさんの邪魔にならない様、この熊の寝床広場の周囲を左回りに走る。鑑定の結果から導き出せるものはないかと考えながら。


「イズホ! 狼の矢尻のは結構な数持って来とるけど、それもいつまで続くか分からんで!」

「解ってる!!」


 言外に熊のヘイトが移動する気配はないと言われてしまったので、急いで対策を考える。


 この説明から考えるにこの熊は水属性という事だろう。つまりは俺と同じで土属性が苦手なはず。でも俺たちのどちらも土術は取得してないから、これは無理。

 残りの情報は術が苦手な事と聖力のみか。術が苦手は初耳だが、聖力を使うことはアセヴィルに聞いていた。

 うーん、聖力、聖水属性、何かないか……? 熊の弱点・・となるような……。


 ! そう、そうだよ。弱点のあるやつは弱点を突かないと倒せない。まぁ弱点あっても弱点以外で倒せることもあるだろうけど。

 あの時、魔王国大使館でアセヴィルはなんて言った?


 ――相手が聖力を行使できる。


 この後は?


 ――お前も魔力を使えるから、相手にとってもそこは弱点だが。


 これだ。

 一番簡単、かは分からないがこれが、俺たちが通ることのできるであろう細い細い道だ。

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