26 金属音


 アセヴィルが助けてくれるというネックレスを貰った後、そのままいつも通りに大使館を出て貴族街と城下町の境界線を通り、街に出た。


 師匠の店まで大通りを通って行くとしたら、最低でも15分はかかってしまう。時間の短縮は出来ないものか。

 取り敢えず裏道を通ってみるか。1本、2本と道を曲がっていくにつれて地面や壁が汚れていく。


 そうして5分は裏道通りを歩き、地面が剥き出しの土になった時、何処からか金属を弾く様なキーンという音が聞こえてきた。

 俺が歩くたびにその音はでかくなっていき、近づいてくる。

 仕舞いには右耳のすぐ近くで音が鳴る様になってしまった。そこで歩くのを止めると音は止まった。


 どうしたもんか。明らかに俺を狙ってるよな。何かやったっけ?

 ……特にないな。どうする? 今は何も危険は迫ってないけど、いつこの音が危害を加えてくるのかわからんからな。


 今は止まってるけど走って逃げるか? いや、音は複数の方向から聞こえてきてた。耳元は1つだけだったが。

 剣を構えて相対するか? 街中では戦うことが原則できない様になっているらしいが、今はどうなっているのかわからない。それに騒ぎを起こして衛兵なんかを呼んでこの周辺を探してもらうこともできるかもしれない。


 どうする?



 ――よし、歩いて音が耳元で聞こえた時に振り返って剣を向き放って斬りかかるか。



     △▼△▼△


 そう覚悟を決めた後、再び歩き始め音を誘発する。

 初めは遠くから響く様な金属音だったが次第に近づいてきて、耳元ではないにしてもすぐ近くで音が鳴るようになった。

 このまま歩けばすぐにでも耳元で聞こえるようになるだろう。


「すぅぅー」


 深呼吸を1つ。

 今までよりも慎重に歩みを進める。さっきまでより集中しているからか、金属音が気持ち大きく聞こえる。


 一歩踏み出すたびに大きくなっていく金属音。

 音が近づいてくるたびに聞こえてくる間隔が大きくなっていく。

 一歩、一歩と行先も無しに歩いていく。


 ――キーン……キーン…………キーン…………――


 そこで一度、音が止まった。多分次の一歩を踏み出したら、耳元で一際大きな金属音が聞こえるだろう。

 手を剣がすぐ取れる位置にゆっくり動かし次の、最後の一歩を踏み出す。


 ――キーーーン!!――


 その音が聞こえた瞬間、両手に一本ずつ剣を持ち、右回りで振り返りそこに居るであろう存在に剣を叩きつける。

 俺の剣は確かに後ろにいた人物の肩を斬った。


「ぐっ! 我を斬るとは……。皆の者! 此奴の周りを囲めぇ!」


――――――――――


条件を満たしました。

特殊クエスト『――――の襲撃』が開始されました。

辺り一帯が戦闘区画に変更されました。


――――――――――


 クエストだったか。いやクエスト以外の何物でもなかったか。

 取り敢えずこの集団のリーダーらしき人物の発した言葉で出てきた奴らを観察してみる。

 俺を囲んでいるのは全部で5人か。全員目元が見えないぐらいにフードを被っているからその顔は見ることが出来ないが全員が全員、その手に二本の剣を持っている。


 剣を構えて警戒をするが、俺を囲んでいる5人はリーダーらしき人物の指示を待っているのか、一向に動かない。

 当の本人は俺に斬られた肩口の回復に専念しているのか、左手でおさえて微動だにしていない。


「あなたたちは何者ですか?」

「……」


 そう問いかけるも返事はなく、一部がリーダーに目を向けるだけ。

 こっちから仕掛けるか? いや、向こうは一切攻撃してきてない。俺が肩口に一撃入れただけで、一切敵意らしきものは見えてこない。 むしろ俺が敵意を見せた形になる、のか?

 囲い込まれてるからそう意味での敵意はあるかもだが、直接的に危害を加える意思はないか?


「ふん、仲間に危害を加えなかったことは感謝しよう。だが、それでもお前は今、我らの敵だ。

 大人しくしてもらおうか」


 いつの間にかリーダーが立ち上がって、俺から5メートル離れたところに移動していた。


「少し待ってください。そもそも俺に何の用ですか?」

「何用か、か。それを教えることは出来ぬ。ただ一つ、我らはガミズルクス様のお声一つで動くのみ」


 ガミズルクス? 聞いたことないな。

 まぁそもそもこの世界で本とか読んでないし読めてないから、知らないのも仕方ない。

 それにしても意外に会話できるな。これは引かせることができるか?


「じゃああれですか。貴方達はただの狗でそのガミズ何とか?の、――」


 いやこの言葉続けたら怒る未来しか見えないな。実際一部のみだが、武器構えてるもんな。

 やめよう。


「――いや、やっぱりなしで。じゃあ訊きますけど俺の何が目的なんですか? 俺との戦闘ですか?」

「ふむ。いや、お前との戦闘が目的ではない。ただ捕まえるのが目的なのだから。

 これ以上何も質問などはないか? 無ければ我らは命令を遂行する」


 ただ捕まえるのが目的? 本当にそうか?

 いやでも実際に向こうは危害を加えてこようとはしてないから、そうなのかもしれない。

 それに目的を教えないとか言っておいて、ご丁寧に教えてくれてるんだよな。まぁ俺が言葉を間違ったからなんだが。

 ……大人しく従うか。


「……はい。どうぞ」

「では、これより命令を遂行する。オラビア、対象の拘束を。ウァミラ、転移頸飾を取り外せ。最後にビフティス、これを奴の手首に嵌めろ」


 その言葉で俺を囲んでいた内のオラビアと呼ばれた特徴のないローブ姿が拘束し、ウァミラと呼ばれたローブの端が燃えている奴が俺の首元からネックレスを取り外した。

 最後にビフティスと呼ばれた蝋燭を周りに浮かせている奴が何かを俺の手首に取り付けた。

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