第13話 北条璃の恐怖心
コンビニの裏にある開かれた扉の前に立つ。
「ここね」
北条は周囲を警戒しながら、ゆっくりと扉の奥へと足を運んだ。通った先には、薄暗い電灯が一つだけ、休憩用の椅子も一つ用意され、右端には監視カメラに写されたモニターが10個以上並んでいた。
そしてそのモニターが置かれている机の下に大きなコンピューターが一つ置かれている。
「これが、監視カメラのデータを管理しているパソコンね」
右ポケットからUSBメモリを取り出し、コンピューターに差し込んだ。
そしてすぐにパソコンを操作し、事件が起こった日の監視カメラのデータを探し始める。少し前に起きた出来事、すぐにデータを見つけ出すことができた。
「これね…」
すぐに事件当日の監視カメラのデータをUSBメモリにコピーする作業を開始する。ここまでの作業時間は約3分、順調な滑り出しだ。
だが油断はできない。時間は限られている。1秒でも早く、データをコピーし、この場から離れなくてはいけない。赤木くんが時間稼ぎをしているこの時間に余裕を持って、持って、持って。
「これで、よし…」
データのコピーに成功した。あとはこの場を安全に去るだけ。
今のところ、気配はない。
ゆっくりと出入り口へと足を運ぶ。扉の前に到着するとコソッと顔を出し、周りを見渡す。人影がないことを確認し、外に出ると……。
「そこで何をしている?」
男性の声が聞こえた。どこか聞き覚えのある声。私はゆっくりと右に振り向くと、そこには現生徒会長、西条斎が立ち塞がっていた。
「西条………さ…ん」
体が小刻みに震え出す。あの時の恐怖が鮮明に蘇る。私の体が彼を恐れている。
「ふん。北条、貴様はここで何をしている?」
「………」
「私に質問に対して、答えないつもりか?璃……」
怖い。ただ、その感情だけが彼女を支配した。彼を怒らせてはならない。彼の機嫌を損わせてはいけない。
「わ、私は、自分のために動いている最中です」
「ほほ、自分のためか。璃、お前は自分のために学校のルールを破ったのか?」
「…はぁはぁはぁ……そ、それは」
「くだらん。璃、貴様は何度俺の期待を裏切れば気がすむんだ。流石に思い知ったと思ったんんだがな、どうやら、体で覚えさせないと貴様にはわからんようだな」
ゆっくりと生徒会長が近づいてくる。
逃げないといけない。でも怖すぎて体が思うように動いてくれない。
北条はその場で立ち尽くす。
「逃げる勇気もないか。所詮は北条家の出来損ない。頭がいいことしか取り柄がない愚かな女。もう2度と、下手なことができないよう、お前にはもう一度、教育を…」
彼は拳を振りかざす。
動きを見ればわかる。彼は本気で殴る気だ。
避けないといけない。逃げないといけない。でも体が足が動かない。
無意識に目を閉じる。全てを受け入れるかのように。そしてふと、涙が流れる。その涙がなぜ流れたのか、彼女自身もわからなかった。
「…つまらん奴だ」
生徒会長が拳を北条に目掛けて、振るった瞬間……。
「何をしてる?」
また聞き覚えのある声が聞こえた。そういつも聞くあの男の声が……。
彼女は慎重に目を開ける、そこに広がっていた光景は、振るわれたであろう拳を片手で受け止める赤木くんの姿だった。
「貴様、何者だ?」
「それは、こっちが聞きたいけど、とりあえず、その拳をどけろ」
斎はすぐに空いてる片手でガラ空きな腹部にめがけて、反撃するがすぐに避けられる。1歩2歩、間合いを開けると、すぐにその間を埋めながら加速し、生徒会長にめがけて、パンチを繰り出す。
「なかなかやるな」
「あなたの方こそ、武術でも嗜んでいるのかな?」
「ふん、貴様もかなりの手練れのようだな」
生徒会長と赤木くんの二人の会話。それは異様な光景だった。
「赤木くん!!」
「北条?」
「私のことは気にしなくていいわ、さっさと逃げないさい!!」
「それはできないな。だってクラスメイトだし、助け合うのは当たり前だろう?」
「なるほど、そういうことか」
彼は納得した表情を見せる。
「貴様が、赤木奏馬だな…」
「うん?俺のことを知ってるのか?」
「ああ、知っている。天竺高等学校の一般特別枠で合格した天才、赤木奏馬。貴様達のことは生徒会がしっかりと把握している」
生徒会?あ、そういえばこの顔どこかで見たことがあると思ったら、現生徒会長、西条斎。まさか、こんなところでこうして対面することになるなんて、人生何が起こるかわからないな。
「一般特別枠!?」
その言葉に驚きの顔を見せる北条。
「へぇ〜それで?」
「特に何もないさ。しかし、そうか、なるほどな。そういうことか…いいだろう。今日、この目で見たことは見逃してやる」
「おっ、優しんだね」
「優しい?違うぞ。俺はお前たちのこの行動がどうつながっていくのかを期待しているだけだ。精々、この期待を裏切らないでくれよ」
「勝手に期待するな、生徒会長」
「ふん…」
生徒会長はゆっくりと歩み出す。そして北条の横を通り過ぎそうなところで足を止める。
「璃…お前にも協力するという文字があったことには感心した。精々、精進することだ」
そう言い残し、その場から去った。
生徒会長、西条斎。相当頭がキレるな。それに運動神経もいいときた。あれこそ、まさしく超人というのだろうな。それにどうやら、生徒会長と北条には何か関わりがあるようだし。けど今はそんなことを問い詰める時間も惜しい。
「大丈夫か?」
俺は北条に手を差し伸べると、はねのけられ、自力で立ち上がる北条。
「赤木くんの助けなんていらないわ。それより、赤木くんにはいろいろ聞きたいことがあるのだけれど?」
「俺も色々北条に聞きたいことがあるけど?」
お互いに牽制し合う。この牽制に意味はないが、今の俺たちには必要だろう。
「………」
「どうした?北条、黙り込んで…」
「つくづく思うのだけど、赤木くんって…」
「うん?」
「いえ、これを口にするのは失礼ね。今回の件、お互いに黙秘しましょう。決して聞かず、深追いせず…よ」
「そうだな。それがいい、北条の目的のためにもね」
「じゃあ、話を戻しましょう。赤木くん、確かあなたは管理人の足止めをしていたはずよね?管理人はどうしたの?」
「あ〜それは…」
「何かしたのね」
「いやいや、別に何かをしたわけじゃないけど…」
呆れた様子を見せ、北条はため息を漏らす。
「詳しく話しなさい」
「あ、はい」
この件を話すためには、ほんの数分前に巻き戻る。
近くのトイレに連れてかれ、俺はトレイで閉じこもった。もちろん、運んでくれた管理人もトレイの近くで待機していた。さてここからが問題だった。それはどうやって、このトレイから出るかだ。
普通に治ったと伝えて、その場を乗り切る方法が一番無難だが、問題はいつ言うかだ。もう少し時間を稼ぐ必要があるだろうし、けど長すぎると怪しまれる可能性もあるわけで、どうしたものか。
「おい、大丈夫か?もしまだ痛いなら近くの病院に連絡するが…」
病院に連絡されるのもまずい!!どうする、どうすれば、この場を乗り切れ……いや、少し新手な手段だが、やるか。
「す、すいません」
俺はゆっくりと扉を開ける。なるべく、下を向きながら、顔を見せないように。
「お腹は大丈夫か?」
「あ、はい。助かりました」
「無事ならよかった。これからは気おつけるんだぞ。もう7時も回っているし、早く寮に戻るんだ」
「はい。本当にありがとうございました」
管理人がそのままコンビニに戻ろとする。よし、今だ!!と思った瞬間。
「あ、奏馬くんじゃない…」
どこか聞き覚えのある声、その声は管理人にも聞こえたのか、管理人も振り向く。
そして声をかけてきたのはBクラスの東条綾音だった。
「と、東条さん!!」
「ふふ〜ん。驚いている驚いている…」
「あなたは、東条家の方!!」
管理人はなぜか驚きの顔を見せる。
……東条家?
「あ〜〜だめだよ、管理人さん。東条の名を言うのは、いくら学校側から保護されているとはいえ、タダじゃ済まねよ?」
「あ!?す、すいません!!」
管理人が東条さんに頭を下げた一体、何が起こっているんだ?
「うんうん。謝れる人は優秀だね。偉い偉い…そうだ、そういえば、学園長がコンビニの管理人に話があるって言ってたよ?早く行ったほうがいいんじゃない?」
「なっ!?あ、ありがとうございます。すぐに向かいます!!」
そのまま管理人は走り去っていった。
「私に感謝してくれてもいいんだよ?奏馬くん」
「…感謝なんてしないよ。だって、東条さんの助けがなくても、大丈夫だったからな」
「ふ〜ん。いいね、じゃあ、私は行くから」
「ああ…」
「あっ、そうだ。なるべく、早めに璃ちゃんのところへ行った方がいいかもよ?」
そんな一言を言い残し、その場から去って行った。
「そんな感じかな?」
「なるほどね。つまり、Bクラスが私たちに手を貸したということね」
「まぁ、そうなるかな」
「とにかく一旦ここから、離れましょう…そうね、なるべくゆっくり話したいから……うん。あなたの部屋に行くわよ」
「了解……え?今なんて?」
「何度も言わせないで、あなたの部屋に行くのよ」
「なるほど、俺の部屋にか……ってええええええええええ!!」
この後、北条は初めて俺の部屋に行くことになった。
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