第27話 魂の浄化1
「連絡をくれたら、近くまで迎えに行ったでしょ!」
魔塔に向かう前にリッツィ姉さんのところに寄るとめっちゃ怒られた。
しかしニッキーに体を奪われていた私には慣れた道のりである。
「まあまあ、そんなことより見てほしいものがあるんです」
「見てほしいもの?」
私が包みから木箱をだすのをリッツィ姉さんがじっと見ていた。
「フロー様のお母様の残されたものです」
木箱を差し出すとそれに手が触れたリッツィ姉さんはひどい静電気にあったように手を跳ねさせた。
「痛っ! 何これ、やだ、近づけないで、私めっちゃ拒否られてる!」
「え、そうなんですか? でも庭師のお爺ちゃんは持ってきましたよ」
「カザーレンの屋敷で雇われるには条件があるのよ。……魔力適合なんて、すっかり忘れていたわ。私は特に感じない体質だけどね」
「リッツィ姉さんは恋のハンターですからね。他人の魔力に敏感な体質だったら渡り歩けませんよ」
「うふふふ。しょうがないじゃない。みんなが私を求めるんだもの」
「まあ、でもこれでどうしてフロー様が私に執着するのかわかりました。ニッキーの魂を持ってる分、魔力適合があるんですね」
「うーん……それはどうなのかな。そもそも動物に魔力適合が関係あるかもわからないよ?」
「え」
「いくらなんでも魂が入っててもジャニスの体なのよ? 魔力の変質が起こるのはジャニスとだよ」
「……では、私とフロー様は適合者である可能性があるってことですか?」
「魔塔長に聞いてみてもいいけど、私はそうだと思うよ」
フロー様と私が適合者……。
それを聞いて、嬉しいと思ってしまった。
フロー様の側にいていい理由になるからだ。そんなふうに考えて、はっとする。……私、かなりヤバいのでは。
「ともかく、魔塔へ行きましょう。 ところで、フロー様は今日はいらっしゃらないのですか?」
「……実はフローはずっと出勤していないの」
「毎日遅くですけど屋敷にはお戻りですよ?」
「麻薬組織を根絶やしにするために、ジャニスのお兄さんと動いてるのよ。
多分、あなたと結婚するためだと思う……」
「まさか、私がフロー様の屋敷に行ってからもずっとですか?」
「そうなの」
それであんなに毎日遅くまで?
私と結婚するために……。
昼間に見向きもされない、デートに誘ってくれないと思っていた自分が恥ずかしい。
麻薬組織は広がり方が様々で、ただでさえ検挙は難しいのだ。
それを元をたどって根絶やしにするとなると相当な労力が必要なはずだ。
「けれど、アルベルト兄と組むなんて驚きです」
「あら。トリスタンもドラゴン退治から戻ってきて手伝ってるわよ」
「えええっ」
「ふふ、可愛い妹の為なんだって」
「う、嘘……」
私のために魔術師嫌いの兄が二人とも動くだなんて。
そんな話に感動していると魔塔に着いた。
「こちらへ」
先導されて奥の特別室みたいなところへ通される。
その先には魔塔長が一つの本を持って私を待っていた。
「よくきたね、お嬢さん。早速、魂の浄化を行うとしよう。」
「あの、その前に。グローリア=カザーレン様が残した手紙と本を見てもらえませんか?」
私が木箱を差し出すと、リッツィ姉さんと同じように魔塔長が顔をしかめた。
「これは私では開けられない。開けて見せてもらえるかの?」
「はい」
私は木箱を開け、手紙と本を見せた。
二人は簡単に私がそれを開けるのを息をのんでみていた。
「これです」
「グローリア様の手紙か……なんと書いてある? それも細工がしてあってわしらには読めん。お嬢さんが聞かせてもいいと判断したところだけでも読んでくれんか?」
「そ、そうなのですか……。特に問題はないかと」
箱を開けるだけではなく、手紙も私にしか読めなかったのか。
母が子を思いやる手紙だと判断したので、二人の前で読み上げた。
「なるほど、お嬢さんはフローサノベルドの魔力適合者であったか」
「私が、なのですか? ニッキーの魂がいるからではなく?」
再度ポルト様にも確認したがそもそも動物との間に魔力適合があるという話は聞いたことがないと言われた。
問題は本とノートの方だ。
なかなか難しい問題なので魔塔長の支持を仰ぎたい。
「……しかし、闇魔術の蘇生術とは。グローリア様も罪なことを」
嘆く魔塔長に不思議に思っていたことを聞いてみた。
「そもそも闇魔術師は精神鑑定がはいるのではないですか? 禁術なんて使えないように」
「グローリア様は侯爵と結婚した時に闇魔術師は辞めている。彼女はカザーレンを……夫と子供を守ることを選んでおる。以後精神鑑定は受けていないだろうし、その必要もなかった」
私が首をかしげていると魔塔長の説明にリッツィ姉さんが補足してくれた。
「もともと闇魔術師と言っても、グローリア様は器用だったけれど、あまり魔力もお持ちではなかったの。闇魔術師としての能力は低かったわ」
「では、グローリア様が禁術を成功できなかったのは……」
「この本が本物でも魔力量の多い、高位魔術師でないと成功はムリでしょうね」
「と、いうことは天才魔術師が蘇生魔術の術式を知ってしまっていたら……」
「お嬢さんの推察の通り、この本はフローサノベルド本人か魔力適合者しか読めないのじゃ。もしもフローサノベルドがこの本の存在を知っていたのなら……死んだ愛犬の魂の蘇生を行っていたとしてもおかしくない」
「フローサノベルドは限りなく黒に近いグレーね」
リッツィ姉さんのつぶやきに体がびくりと反応した。
それが本当に行われたとして、私はフロー様の罪を暴き、彼をどうしたのか。
今、私は自分の正義感に従って魔塔長にフロー様のお母様の秘密を晒した……。
しかしそれはフロー様にとってよかったのことなのかわからない。
「お嬢さん、この木箱はこちらで預からせてくれ。魔法を解いて内容を調べることにする。決してフローサノベルドを追い詰めるだけのものにしないことを誓う。わしはフローサノベルドもその両親も大切な弟子だと思っているからの」
魔塔長の声で顔を上げた。
彼は私の胸の内をわかっているようだった。
木箱を指示されたテーブルの上に置いて、後のことはお願いすることにした。
一通り二人と話してから、ようやく私はニッキーの魂を浄化させるための治療(?)を受けるため、診察台の上にあおむけに寝転んだ。
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