出発


 書斎の扉を開き出ると、エイミーが扉のすぐそばでレイたちを待っていた。

「エイミーさん。すみません、お待たせしました」

「いえ。レイ様たちのお見送りは、カイン様がしてくださるようなので、私はここで失礼致します」

 そう言うと、彼女は速やかにその場を立ち去った。

「え?」

 レイはエイミーの残していった言葉に、思わず声が漏れる。

 そんな彼女の背後から誰かが声を掛けた。

「父さんたちと話は済んだのか?」

「団長さん。ええ。見送りなんて、別にいいのに」

 声を掛けたのは、近くで彼女たちを待っていたカインだった。

「私が送りたいだけだ。気にするな」

 そうして、三人は正門へ向かった。


「レイ殿たちはいつ、こっちに戻ってくるんだ?」

 歩きながらカインはレイに話し掛けた。

「明日のお昼には王都に戻ると思うわ」

「そうか。戻ってきたら、王都を観光するといい。食べ歩きもいいぞ。出店の店主は優しい人が多いから、おまけをつけてくれるかもしれない」

 彼は楽しそうにレイたちに、城下町の魅力を伝える。

「それはいいわね」

「レイ。私はまた、ケルウの肉が食いたい」

 レオンが二人の会話に入る。

「そうね。明日は、ペガサス亭で夕食にしましょう」

「よし」

 彼は、嬉々とした目をした。

 まるで、プレゼントを楽しみにしている子どものようだ。

「レオン殿に、それほど気に入っていただけて、良かったです」

「また、上手い店があったら紹介してくれ」

「ええ。ぜひ」

 カインはレオンに対してはにかんだ。

 レオンもまた、彼に微笑み返した。


 話が落ち着いたところで、ちょうど正門前に着いたレイたち。

「本当にここまででいいのか?」

「ええ。ありがとう」

「いや、礼を言うのは私の方だ」

「もうそれは聞き飽きたわ」

 彼女は困ったように笑った。

「そうか」

 カインはレイに指摘され、照れ笑いした。

「じゃあ、私たちはこれで」

「ああ。また時間が取れたら遊びに来てくれ」

「ええ」

「ああ」

 カインと別れ、レイとレオンはアルバート邸を後にした。


 アルバート邸を出て、二人は今、城下町を歩いている。

「昨日は、街を見る余裕がなかったけど結構、賑わっているのね」

「そうだな。街の者たちが活き活きしているな」

 二人の言う通り、明るい時間の街は、夜とはまた違う賑わいを見せている。

 様々な店が立ち並び、呼び込む声があちこちから聞こえてくる。

「アクセサリー類の小物も売っているのね。王都に戻ってきたらゆっくり店を見て回ろうかしら」

「食べ歩きもできそうだ」

 レイとレオンは辺りを見回しながら言葉を交わす。

「ふふ。貴方は本当に食べるのが好きね」

 彼の食い意地の強さに、彼女は思わず笑みがこぼれる。

「今に始まったことじゃないだろう」

 二人は、そのまま城下町を抜けてセレイム王国の門を潜って、その場を後にし、暗闇の森へ向かった。

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