再び竜の間へ


「貴女は、先ほどの治癒師様」

 中から現れたのは、竜騎士団副団長のレヴィンだった。

「治癒師様はやめて、レイでいいわ。中の人たちはもう大丈夫そう?」

「失礼しました、レイ殿。ええ。おかげさまで。皆、食事もできるほどの回復を見せています。本当にありがとうございました」

 彼は、深く頭を下げた。

「それならよかったわ」

「ところで、レイ殿の隣にいる方はどなたでいらっしゃいますか?」

 と頭を上げたレヴィンは人の姿になったフェン、もといレオンに視線を移す。

「彼のことは気にしないで」

「先ほどは、見かけなかったのですが」

「私のことはレオンと呼んでくれて構わない。セルビオス国王の知り合いだ」

 レイは、触れないよう流そうとしたが、レオンが自ら名乗り出た。

「そう、なのですか」

 信じられないという顔のレヴィン。

「ああ」


「お二人は、ここに何か御用で?」

「いえ。団長さんと食事の約束をしたから、ここで待っているの」

「あいつが貴女を食事に誘ったのですか?」

「正確には、私とレオンが誘われたのだけど」

「あのカインが……」

 レヴィンは、有り得ないといった反応だ。

「副団長さんも、一緒に行く?」

「いえ、私は結構です。まだ仕事があるので」

「そうなの?だったら団長さんも、仕事があるんじゃないの?」

「まぁ、今日くらいは、大目に見ますよ。明日からは、休んだ分働かせますので」

「副団長さんは、意外と優しいのね。もっと厳しい方だと思っていたわ」

「今日だけです」


 そんな会話をしていたら、カインが着替えを済ませ戻ってきた。

「すまない!待たせた!……レヴィンいたのか」

「団長殿は、仕事が残っているというのに、これから食事に行かれるようですね?」

 黒い笑みを浮かべるレヴィン。

「っ!レヴィン怒っている、のか?」

「いいえ?貴方が仕事を置いて食事に行くことに対して、怒ってなどいませんよ?」

「すまない!レイ殿たちが今日は街に泊まるそうで、助けてもらった礼に案内しようと思って」

「はぁ。明日からは、きっちり働いてもらうからな」

「ああ、必ず!」

 レヴィンにたじたじのカイン。団長の威厳はどこへやら。


「団長さん」

「なんだ?」

「街に行く前に、少し竜騎士の人たちの様子を見て行っていいかしら?」

 レイは、竜の間にいる騎士たちの様子が気になるようだ。

「ああ。構わない」

「ありがとう」

 カインに許可をもらって、彼女は再び竜の間へ入る。

 すると―

「治癒師様!」

「聖女様!」

 レイが入ってきたことに気付いた騎士たちが声を上げる。

「人気者だな。聖女様?」

「からかわないで頂戴。レオン」

 レオンがレイをからかう。


 竜の間に入るとすぐにレイの前に、一人の騎士が来た。

「助けていただきありがとうございます!このご恩は一生忘れません」

 助けたレイに感謝を伝えに来たようだ。

「そういうの要らないから」

「ですが、助けていただいたのに何もしないのは、騎士の名に恥じます」

「だったら、食事をとって、早く寝て、騎士として万全の状態にならないと、いけないんじゃないかしら」

 冷たくいい放つレイ。

 しかし、紡ぐ言葉はとても優しい。

「はい!……治癒師様。回復したら、俺とお付き合いしてください!」

 彼女の言葉が嬉しかったのか、突然、告白をした騎士。

「は?!」

 それを聞いていたカインが、思わず声を出した。

「え。無理です」

 レイは、冷静にその告白を切り捨てた。

「治癒師様は、恋人がおられるのですか」

「いないけど」

「でしたら!」

「そういうのに興味ないの。ごめんなさい」

「そんなぁ」

 玉砕した騎士。

 彼の、熱烈な想いは届かなかった。


「(そう、なのか……)」

 彼女の言葉に、どこかで誰かも落胆していた。

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