聖竜の怒り


「着いた。ここが竜舎だ」

 レイたちは、竜舎の前に着いた。竜舎は、城の敷地内にあり、竜騎士団の訓練場のすぐ近くにある。

 建物の高さは二十メートルほどだろうか、かなり大きく造られている。

「(大きいわね)」

 心の中でレイはそんなことを思っていた。

「開けるぞ」

「ええ」

 竜舎の扉が開かれた。


「!」

 竜舎の中の光景は、息を飲むほど様々な色の聖竜たちで溢れていた。

「グワアァアア!」

 レイたちが中に入ると、一頭の聖竜の怒号が鳴り響いた。鼓膜が破れそうになるほどの絶叫だ。

 そのあまりの大きさに、反射的に耳を塞ぐ。

「……あの子が、団長さんが言っていた聖竜?」

 レイは、先ほど大声で鳴いた、少しくすみのある灰色の鱗に黄金色に光る瞳を持った聖竜を指差した。

「ああ。そうだ。グレイと呼ばれている」

 グレイと呼ばれた聖竜は、レイたちを鋭く睨んでいる。

「相当、怒っているわね」

「なんて言っているか分かるか?」

「あそこまで我を忘れていると、さすがに聞き取れない」

 さすがに彼女でも言葉を聞くのは難しいようだ。


「リリィ」

 カインがそう言うと、彼の召還陣からリリィが現れた。

「リリィ。グレイのことをレイ殿に伝えてくれないか?」

 その言葉を聞いて、リリィは頷く。

「彼っていつもどんな感じなの?」

 レイはリリィの傍に行き、普段のグレイの様子を尋ねた。

「グレイは、自分が一番でないと気が済まない性格です。向上心があるのはいいのですが。すぐに周りが見えなくなってしまうところが玉に瑕です」

「なるほどね」

「彼があそこまで荒れているのは、今回の戦いで惨敗だったからでしょう。治療を拒んでいるようです」

 治療を拒んでいる、その言葉聞いたレイがグレイに向き合い話しかけた。

「ねぇ。貴方、死にたいの?」

「こんな傷、自力で治せる!」

 彼女の言葉にグレイは吠えた。今にもレイに飛びつきそうな勢いだ。

「馬鹿じゃないの。治せていないから今も傷だらけなんじゃない」

「うるさい!お前みたいな奴に何が分かる!」

 グレイは唸る。しかしレイはそんな威嚇に物ともしない。

「……今の貴方は、ここにいる聖竜の誰よりも弱いわよ」

 レイは一呼吸置き、グレイに言葉を掛けた。それは彼への挑発とも取れる言葉だ。

「何?」

「貴方は、ただの意地を張っている子どもだって言っているの」

「この俺が?」

「ええ。とっても」

「レイ殿。あまりグレイを煽ると……」

 一触即発した空気に耐えられなくなったカインが割って入る。

「大丈夫よ。あの傷じゃ、まともに動けないから」

「俺は、ガキじゃねぇ!」

 グレイが再び吠える。彼の鋭い眼光から苛立ちが見える。

「子供じゃなかったら、素直に助けてもらうものよ」

「……っ」

 彼女の言い分に、グレイは言葉を詰まらせた。強がりなグレイは、レイの言葉を受けて葛藤しているようにも見えた。


「貴方が強くなりたいって気持ちは素敵なことだと思うわ。だけど、強さって力だけがすべてって訳じゃないのよ」

 レイは荒れている彼を諭すように話しかける。

 グレイは、彼女の言葉に耳を傾けている。少し落ち着きを取り戻してきているようだ。

「それ以外に何があるんだよ」

「守る強さよ」

 レイは、彼の目をまっすぐ見つめて言い切った。

「守るのは弱い奴のすることだ」

「そんなことはないわ。守ることも立派な強さよ。貴方には、守りたいものはないの?」

「……そんなものはない。相手を負かすくらいの強い力が無ければ、俺には生きる意味もない」

 彼女の質問に、グレイは、目を逸らした。

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