褒美

 

「……完全には信じていない。というのが本音だ」

「そうですか」

「だが、君が嘘を言っているようにも見えない」

 そう言って、レイにウインクをしたセルビオス。意外に子供心がある王のようだ。


「それに、カインとセレイムへ来たということは、カインの聖竜に乗ったということなのだろう?」

「はい」

「あの竜が、パートナー以外乗せたというのは、初めてのことだ」

「そうなの?」

 レイはすぐ隣にいたカインに聞いた。

「ああ。言っていなかったが、リリィが俺以外を背に乗せたのはレイ殿が初めてだ」

 カインは力強く頷いた。

「そのことが直接な証拠にはならないが、君には何か力があるというのは伝わるよ」

 彼女に、優しく微笑むセルビオス。

「レイ殿。改めて言わせてもらう。カインと、竜の間にいた竜騎士たちを助けてくれて、本当にありがとう」

 彼はその言葉と共に、深々と頭を下げた。

「頭を上げてください。私のような者に頭を下げる必要はないです」

 レイは、セルビオスの行動に焦る。

「私の国を助けてくれたのだ。頭を下げるだけでは足らんよ」


「セルビス、あまりレイを困らせてくれるな」

 焦る彼女に、助け舟を出したフェン。

「そなたが人を守るとは、昔では考えられんな」

「レイは特別だ」

「ほう?特別か」

 セルビオスは意味深長な顔をする。

「何か勘違いしているようだが、私も暗闇の森で、この子に助けられた身なのだ。レイがまだ魔法も使えぬ子供の頃に出会った。今となっては、家族同然だ」

「そんな小さい頃から森に……」

 フェンを見ていたセルビオスの視線は、レイに移る。

「はい」

「苦労したろう」

「いえ。森での暮らしは、むしろ快適なくらいです」

 レイはまっすぐ彼を見て言い切った。

 彼女の芯の通った発言に、彼は驚いたという顔をした。

 だが、すぐにいつもの優しい表情に戻る。

「そうか、そうか。失礼なことを言った」

「気になさらないでください」

「ありがとう」

 レイを見るセルビオスの顔は、孫を見る祖父のようだ。


「……セルビス」

「なんだ?」

 フェンがセルビオスに話しかけた。

「レイの活躍に、何か褒美をくれて貰わねば、釣り合いが取れないと思うのだが?」

「ちょっと、フェン!何を言ってるのよ」

 何か良からぬことを企んでいるフェンを止めようとするレイ。

「確かにそうだな。レイ殿、褒美は何が良い?」

「い、いえ。私は何も要りません」

「お前は欲がない。宝石の一つや二つねだればいのに」

 彼女の返答にフェンは、つまらん、という顔をする。

「宝石なんて、いらないわよ」

「本当に、何もいらぬのか?」

 フェンとの会話に、セルビオスが入る。

「はい、褒美は要りません。ただ、一つだけ願いを聞いていただけますか?」

「もちろん。構わんよ」

「今回のカイン団長を助けた件、竜の間にいる負傷者を治した件について、私が関与していたということを伏せていただきたいのです」

「……何故だ?君はこの国に貢献したのだぞ」

 レイの申し出に、国王の顔に戻るセルビオス。


「私が関与していたことを公表すれば、少なからず、この力を利用しようとする者が現われるでしょう」

「あり得るだろうな。(ほう。そこまで見通しているのか)」

「それに、今回の件は私の暮らす場所で死なれるのは、居心地が悪いので助けたまでです」

「ふむ。セレイム王国の騎士だから助けたと言う訳ではなく、そうでなかったとしても君はその者たちを助けたと、そう言いたいのだね」

「はい。私はこの国のために行動したわけではありません」

「だが、竜の間の件に関しても同じことを言えるのか?」

「竜の間の件に関しては、カイン団長に頼まれましたが、私はそれに応えたつもりはありません」

「ほう。ではなぜ助けたのだ」

「私が手を貸したのは、聖竜、リリィに頼まれたからです」

「つまりカインを助けたのは、自分の生活を守るため。また騎士たちを助けたのは、聖竜から頼まれたために手を貸しただけ、国のためではない。だから褒美もいらない。そういうことか?」

 セルビオスはレイの言い分を簡潔にまとめた。

「はい。」


「君が力を貸してくれるのは今回限りということかね」

「そういうことになります」

「そうか。それは、惜しいことだ」

 セルビオスは、眉をハの字にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る