昔話


「だが、君とフェン殿は信頼関係はあったんだろう?契約は順当にできたはずだ。どうして契約を渋ったんだ?」

「確かに、信頼関係があれば契約は問題なくできる。でもそのあとは?契約獣にとって、契約者の言葉には絶対服従。背くことは許されない。私はそれが嫌だった。私の発する言葉で彼を縛ることが……」


「そこまで考えていたのか。確かに契約獣から見れば、そう捉えられるのか。君は、優しんだな。フェン殿が言っていたことが分かった気がする。君は、フェン殿を自分の言いなりにさせてしまうことを恐れたんだな」

 彼女の強い思いにカインはひどく感心した。

 キッチンに立つレイの背中を見つめる彼の目は、とても優しい。


「ちなみに、喧嘩って?」

「ただの口喧嘩よ。ずっと押し問答。お互いに自分の意見を曲げなかったの」

「二人ともそれだけ意志が強かったんだな」

「そうね。契約したのは、喧嘩から三ヶ月後」

「三ヶ月も?」

 カインは意外と長かったことに驚きを隠せない様子だ。

「そうなの。ずっと攻防戦、私は絶対に契約しないって言って、フェルは名前を付けてくれって。結局、私が折れたんだけど」

「フェン殿の粘り勝ちだな」

「ええ。フェンの意志に根負けしたわ」

 レイは、眉を八の字にした。

「でも、今となって契約したことに後悔はない。すごく賑やかで飽きないもの」

 そう言って、レイは窓から見えるフェンに視線を向けた。その視線は、とても暖かいものだ。

「(君はそんな顔もするのだな)」

 外を見つめるレイの横顔に見惚れる男が、一人いた。


「少し話過ぎたかしら。お腹すいたでしょ」

「あ、ああ。話に夢中ですっかり忘れていた。話を聞かせてくれてありがとう。私にも何か手伝えることはあるか?」

 レイの横顔を見つめていたカインが、正気を取り戻す。

「大丈夫よ。さっき釣った魚を使おうと思うんだけど、食べられる?」

 食べられないものが無いか聞くレイ。こういう気遣いができるのが、彼女の良いところだ。

「ああ、好き嫌いはない」

「そう、ならよかった。フェンたちは中に入れないから外で作りましょう。」

「今日、お外なの!」

 コハクは嬉しそうに尻尾を揺らす。

「楽しみだ。食材は私が運ぼう」

「ありがとう、助かるわ」


 下準備をした食材を持って、三人はフェンたちのいる庭に出た。

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