招かれた客人


 空気を変えるように、コハクがレイに話しかける。

「ねえ、レイ?僕おなかすいた~。レイのご飯が食べたい!」

 尻尾を揺らしながら期待の眼差しをレイに送るコハク。

「そうね。お昼過ぎてるものね。二人ともご飯は?」

 レイはカインとリリィに問いかけた。

「いや。食料は切らしてしまって」

 と、苦しそうな表情を見せたカイン。

「だったら、うちに食べにくる?」

「いいのか?」

「大したものは作れないけど、それでも良ければ」

「ああ、ぜひ!」

 カインは、コハクと同じように目を輝かせ、嬉しそうな顔をした。

「レイ。感謝します」

 カインに続いて、リリィも礼を言った。

「気にしないで」

 レイはリリィに優しく答えた。

 

 五人はレイの家へ向かうため、補整された道を歩く。

「この森に、道?もしかしてこの道は、レイ殿が……?」

「ええ」

 今、彼女たちが歩いているこの道は、以前レイが湖に辿り着けるように草を刈って造ったのだ。


 湖から家までの所要時間は歩いておよそ二十分。レイたちの住む家が見えてきた。

「本当にこの森に住んでいるんだな」

「ここは、人が来ないから静かで快適よ」

「街に下りたりしないのか?」

「必要な物を買うときにしか降りないわ。あとは、回復薬を売りに出す時くらい。どうぞ、入って」

「ありがとう、お邪魔する。……君は回復薬が作れるのか、すごいな」

 家の中に入りながら二人は会話を続ける。

 フェンとリリィは庭でくつろいでいる。


「すごいのは、私じゃなくてここの森に住む皆よ。薬になる薬草の組み合わせや、毒を持つ植物、狩りの仕方、魔法の使い方、いろいろな知識を教えてくれたのはこの森に住む彼らよ」

 レイはそう言って窓の外に視線をやる。

「レイ!今日は何を作るの?早く食べたい!」

 一緒に家に入っていたコハクが彼女に訴える。

「待ってて。今作るから。団長さんは、そこの椅子に座ってもらって構わないわ」

「はぁい」

「失礼する」

 カインは庭が見える場所にあるテーブルの椅子に腰かける。コハクもその近くで食事の準備を待つ。

 レイは、キッチンに立ち、昼食の準備に取り掛かる。


 今のレイとコハクのやり取りを見たカインは。

「本当に言葉が分かるんだな。私には黒ヒョウがただ鳴いているようにしか見えない」

「普通の人からしたら、私は黒ヒョウに向かって一人で喋っている変人に見えるわね」

 少し自虐を交えてレイが言った。

「すまない。そういうつもりで言ったんじゃないんだ」

 カインが少し気まずそうにした。

「わかってるわ。言ってみただけよ」

 レイは少し悪戯な表情を見せた。

「……君も冗談を言ったりするんだな」

 カインは彼女の意外な一面を見たと、少し驚いた様子だ。


「よかったら、これコーヒー。一応お客さんだし」

 と、レイは彼に暖かいコーヒーを出した。

「すまない、ありがたくいただく」

 彼は、一口コーヒーを飲む。

「……うまいな。王都で飲むコーヒーとはまた違って、苦みが少なくてコクがあって飲みやすいな。これはどこで仕入れたんだ?」

「この森で育っていたのを採ってきたのよ。お気に召したようで、よかったわ」

「この森で……。この森には、知らないことがたくさんあるな」

 カインはコーヒーをまた一口飲むと、レイに一つ質問をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る