27限目 解
Dear my friend.
I'm glad my words reached you. I'm glad we were able to reconnect with you.
*****
私の真剣な眼差しを受け、秋元の瞳も真っ直ぐと躊躇うことなく私を捕える。何度か見てきた秋元のそういう視線は強く、そして眩しい。目を背けていたいほどの強さを、今は全身で受け止める。
「あれは、俺とトシの賭けやってん」
凛と話す秋元は静かに淡々と、でもどこ懐かしくも悲しそうに真相を話し出す。
吉田の病気が1年生の3学期末──つまり去年の3月に判明し、吉田は休学して治療をしていた。
吉田と仲が良く相棒でもあった秋元は同級生の中で唯一、吉田の病気のことを知っており入院当初からお見舞いへと行っていた。秋元曰く、吉田がバンド解散を申し出たりして大喧嘩もしたなか、入院当初は毎日のようにお見舞いに行っていたという。
「色々あったというか……。トシの悪いとこで、白血病なってもうて、この先どうなるか分からんから色々諦めてたとかあってな」
吉田は先の見えない治療や予後を考えて、前向きに治療はしていたが色んなことを諦めるような行動が多くあったという。バンド活動も、学校生活も……そして恋愛も。
バンド活動は大喧嘩の末に継続することでお互いに同意したという。あの温厚で優しい吉田と大喧嘩というのが、想像できなさ過ぎて驚いた。吉田でも誰かと意見がぶつかって喧嘩することなんてあるんだ……。
「俺、トシが斎藤のこと好きなん知っててん。でも、トシは病気でこの先どうなるかも分からんからって諦めてたというか、斎藤に迷惑かけるわけにもいかんって感じやってん」
病気が発覚して我がことで精一杯のはずなのに、吉田はそんなことを考えていたらしい。
「俺はトシのそういうとこ気に食わんというか、嫌やってん。もっとワガママに生きていいと思うし、病気やからってなんでも諦めたり遠慮したりするもんでもないと思う。まぁ、できることと出来へんことはあるし……トシの性格考えたら、斎藤のことまで口出しするんもなーって感じやってん」
秋元らしい思いと言葉の数々に、秋元の性格とか生き様みたいなものを感じる。そんな性分だからこそ、周りに人は集まるし、同級生のなかでも一際目立って輝いているのだろう。
悶々としながらも秋元から何かを言うこともなく時は過ぎ、梅雨の頃になる。そこで秋元はひとつのものを見つけたという。
「それがコレな」
秋元はカバンの中から1冊のノートを取り出す。表紙には名前も何も書かれておらず、なんだろうと思い中を開けると一面に見慣れた吉田の文字が羅列していた。
放送委員の書類で、一緒に勉強したノートやプリント類で、そして病室のあの空間で見た様々な科目のプリントで……それらすべてで見てきた丁寧で少し小さい吉田のあの文字が並んでいる。しかもすべて英語で。
そして数行を空けながらも、「Dear my friend.」から始まる文章達がそこに記されている。それはA4ノートの半分以上に記され続け、吉田の様々な思いが書かれていた。
ざっと読んだだけでも、やりたかったことや学校での生活、秋元とのバンド活動、家族のこと、そして好きな人への思いなど……たくさんの感情がそこに込められていた。
明るい希望や暗い絶望、言いようのない葛藤、祈らずにはいられない望み、どうしたって寄せてしまう期待、責めてしまう自分自身、嫌でも呪ってしまいたくなる現状や運命……みたいなものが吐き出されるかのように綴られる。
穏やで優しく笑っていた吉田の中には、こんなにたくさんの感情と思いが渦巻いていた。
「これ、たぶんトシの日記みたいなやつ。なんで英語なんか、Dear my friendで始まってるんかは分からんけど……俺これ見た時、やっぱトシほっといたらアカンって思ってん」
吉田が綴ったfriendの相手は、秋元であり、家族であり、友達や学校であり、私でもあり、吉田自身やその状況でもあるようだった。
初めて知った吉田の内側に、私は何も言えなくなる。
ノートの存在と吉田の思いを知った秋元は、吉田に何度も諦めるな、もっとわがままに生きろということを伝えたという。
けれど、吉田はそれが出来たら苦労はしないと言うように頑なに首を横に振っていたという。
自分の気持ちに蓋をして目の前の現状を見据えた吉田は、やりたいことも、その気持ちも諦めていたという。生きることを諦めていた訳ではなく、その時やりたかったこと、過ごしたかった時間を諦めて「しゃーないやん」と言っていたらしい。
「トシの言いたいこともわかるけど、俺はそれは絶対アカンと思ってた。俺はトシと音楽もしたいし、学校での色んなこともしたいし、放課後とか休みの日も遊びに行ったりくだらんこと喋ったりしたい。勉強とか、学校行事とか、好きなやつのこととか、将来のこととか……あいつと色んなことしたかった」
吐き出すように話す秋元の声は凛とし、迷いも後悔もなにもない。自分の感情を、気持ちを、思いを素直に言葉にしているようだった。
秋元は吉田にたくさん自分の感情や思いを伝え続け、吉田がやりたいことを出来るためにはどうすればいいのかも考えて伝えていたという。
それでも吉田はこれが運命なのだと言うように、静かに現実を受けいれ、やりたいことをあっさりと諦めた。
「これは俺がどんなに言うても無理やなって思ったから、俺はトシに賭けをもちかけてん。あいつがこうなったんは運命やら、仕方の無いことなんやら言うから……そんな言うんやったら、お前の言う運命がどんなもんなんか見てみよって」
たくさんのことを諦めていた吉田は、自分の病気のことも現状もそれが運命で人の力ではどうしようもないことだと認識していた。
秋元はだからこそ、吉田の言う運命というものに全てを託してみた。
「俺が斎藤に直接じゃなく何かしらの方法でコンタクト図って、それに斎藤が気づいて俺と再会したら斎藤にちゃんと向き合えよって」
直接話すのではなく何らかの間接的な方法での接触を試み、もしそれで私が秋元のもとにたどり着けば、それは縁があったという運命だろうと。
「俺は斎藤のこと知っとったし、直接言うんは簡単やったんやけどな。トシが納得しなあかんし、俺もトシの言う運命とかそういうやつ、ちょっと気になってたしな」
にやりと笑い秋元は私を見る。
「秋元は最初から、そこが私の席やって知ってたんやな」
いつも自分が座る席を見て驚く。秋元とはクラスが違い、隣のクラスというわけでもないので合同授業とかも一緒にならない。同級生なのに圧倒的に接点が少なすぎる。
「まあな。机の上に手紙みたいなん書いて斎藤に伝えよって思いついたんやけど、さすがに斎藤のクラスに入って斎藤の席に書くんは無理やったからな。
選択教室やったら俺が使っててもおかしないし、色んな学年のやつも使うから匿名性が高いやろ」
同級生のなかでも秋元は顔が広く、友達も多い。色んな人とよくつるみ、話すこともあるのでどこからかの情報で私の選択授業や席を割り出したのだという。
「ほんま、よう気づいて、俺と会えたなぁ」
しみじみと秋元は私を見て、自分の今座っている席の机を見る。
秋元と出会えたのは本当に偶然だった。机越しのやりとりを始めた頃、私はメッセージの相手に「Who are you?」と聞いたが返答は「your friend」という抽象的なものでしか無かった。
あそこで名前や何らかの秋元に繋がる情報を提示することもできたのに、秋元はそれをしなかった。
「これがトシの言うてた運命とかそういうもんなんやろなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます