2限目 軽音楽


 Dear my friend.

 what's your favorite music?




 *****


 夏休み明けの気怠さが抜けきらないまま通常授業が始まる。タスクを消費していくかのように授業を受け、毎日がどこかつまらない。どうやって息をしていたのか、今まで何を見てきたのかと思えてしまうほどモノクロの世界に身を投じている気がする。


 特に部活に入ってもいないので、だいたい毎日同じ生活になる。咲希とは選択教科が同じなので、毎日ずっと一緒にいる。受ける授業が同じなので授業の聞き漏れや課題の確認をお互いにしやすく、咲希がいるだけで安心感はある。最悪なんとかなるだろうと。


 いつも、咲希・遥香・早織と行動することが多い。お昼も一緒に食べるし、帰りも一緒のことが多い。放課後に遊びに行くこともあるし、見たい映画があれば休みの日に遊びに行くこともある。遥香はバレー部に入っており一緒に帰ったり、遊びに行けることは少ないが、それでもテスト期間中は割とずっと一緒にいる。


「咲希、噂で聞いたんやけどNIKKUって文化祭予選勝ち取ったんやって?」


 お昼休憩中、いつものように机を合わせて集まる。ご飯を食べながら雑談に花を咲かせていた中、遥香が咲希に話を振る。


「せやでー、みんな頑張ってたみたいやから良かったわ」


 どこか得意げに笑い咲希は嬉しそうな表情を浮かべる。

 うちの北高は軽音楽活動が盛んで数多くのバンドが活動をしている。そのなかでも、今話題にあがったNIKKUは今一番人気と実力のあるバンドと言われている。


 軽音楽活動は基本的に校内で行われており、休み時間や放課後に学校のどこかでミニライブなどをしている。実力や人気があるバンドはアマチュアバンドとして校外のイベントに参加したりもしているらしい。


 そして、数あるバンドの中でもNIKKUは人気があり校内ライブをすれば生徒たちが殺到するほどだった。圧倒的な演奏技術、ボーカルの歌唱力、そして何よりもオリジナリティ溢れた歌詞が持ち味と言われている。


 私は校内のバンドや軽音活動に正直言えば大した興味はない。音楽が溢れているのは楽しいけれど、特に心動かされるものがあるわけではない。


 そんな私だが、NIKKUのことは少し知っている。去年──高校1年生のとき、不運にも放送委員となってしまい否が応でも流行りの楽曲や校内の主要バンドについて知らなければならなかった。


 北高の放送委員は軽音部やバンドと並んで有名で、昼休みや放課後に話題のアーティストの楽曲を流したり、校内で活動している軽音部やバンドの楽曲を紹介したりしている。たまにバンドのメンバーがゲスト出演することもあり、さながらラジオ番組のようなものをしている。


 放送委員は拘束時間が長いうえ、体育祭や文化祭などといった主要行事でも仕事が多い。そのため1年生の入学したての頃、委員会メンバーを決めるにあたり新入生は基本的にやりたがらない。北高に来る生徒は活発な軽音活動に参加したいという人が多く、実際に音楽をするわけではない放送委員はあまり人気がない。


 しかし、2年生以降となれば好きなバンドが出来たり、実際に軽音活動をしたが自分には向いていなかった音楽好きなどが放送委員を目指すため人気の委員会となる。


 今思ってもローテーション制だったとはいえ、ほかの委員会よりも圧倒的に活動時間と量が多く大変だった。でも、私と一緒に委員活動をしてくれた同級生が良い人で、大変だったけど楽しくもある1年だった。去年も今年も同じクラスではなく、委員会もしていない今は会うことすらない。


「安芸はー?」


 NIKKUの名前に去年の放送委員のことを思い出し、何故か少しセンチメンタルな気分になっていた。そんな私に咲希が声をかけていた。


「え?」


「せやから、放課後ライブ行こって話やん。聞いてた?」


「ごめん、ぼーっとしてた。別にええけど」


 咲希はNIKKUのボーカル・一輝かずきと付き合っている。NIKKUはメンバーの頭文字をとって名付けられている。直樹なおき一輝いっき浩二こうじけい上田うえだの5人バンドで何故か上田だけ苗字だった。一輝も本当は「かずき」なのだがアダ名が「いっき」だから、バンド内でもそう呼ばれているという。


 NIKKUのメンバーは私達と同じ高2だが、1年生の頃からNIKKUの音楽は人気を博していた。


 こういう話も去年、放送委員の時に知った。それに咲希が一輝と付き合っているから、そういうバンドの話もよく聞く。


 バンドの花形であるボーカルの一輝は、とにかくモテる。しかし、咲希も可愛いからか特に女子ファンが咲希に嫌がらせをすることとか、一輝に猛烈にアピールしてくる人とかもいないらしい。


 私とは縁遠い世界だなーと、いつも咲希から話を聞く度に思っている。


「今日は夏休み明けの新曲お披露目会やから、早めに行かんとな」


 私からの返事を聞いた咲希は笑顔でそう言い、楽しそうな表情をうかべる。たぶんファンの誰よりもNIKKUのことを知っているであろう咲希は、純粋にNIKKUの活躍を楽しみにしている。そういう夢中になれるものがあるのは少し羨ましいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る