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フォシアが夜会などに参加した後、異性から手紙や贈りものを送られるのはよくあることだった。フォシアはすべて親や乳母、そして姉に相談しながら、礼を失しない程度にそれらに対応した。ほとんどはどれも、婉曲に断るものだ。
だからアイザックという男から高価な宝飾品を贈られてきたときも、丁重に送り返すといういつもの行動を迷わなかった。
傲岸さに満ちた小太りの男とその眼差しを思い出したとき、フォシアはかすかに恐怖と嫌悪すら感じた。
婉曲に、あるいは露骨に欲望の目を向けてくる男は多かったが、あなたの首元を飾りますようにとそえられた大ぶりな首飾りを見るからに、アイザックは少々露骨すぎるほうだった。この首飾りをまともにするには襟ぐりをだいぶ露出する必要がある。
(……誰も、私のことなんて見ていない)
うつろで乾いたものが胸の中に広がっていく。
異性はみな、フォシアという人間の外側を見るばかりで、内側を見ようとはしない。
きれいな外套と同じだ、とフォシアは思う。
少し人目を引く美しい外套。けれどその外套は誰が着ようと同じで、外套を脱いでしまえばあとは見向きもされない。先日まで婚約者であった男すら同じなのだ。
――ただ一人違うのは、ヴィートだけだった。
断ることには慣れていた。体面を何より重視する社交界において、まともな相手ならばたいていは婉曲な断りを入れれば引いてくれる。時に少々食い下がる者もいたが、周りの目が向くようになると引いていった。
アイザックは、そのどちらとも違った。
何度送り返しても、贈りものを止めない。その行為だけ見れば熱心さの表れと言えないこともなかったが、フォシアはむしろアイザックという男の傲慢さをますます疎ましく感じるのだった。
装飾品や、衣装などはどれも一目で高価とわかるものだったが、それだけだった。むしろ狙ったかのように、ことごとくフォシアに似合わない色や形ばかりで、ただ一つ共通していることといえば露出の多い衣装やそれを必要とするもの、そして下品とさえいえるほど派手な色や形を着せたがっているということだった。
アイザックという男の行動はそれだけでは終わらなかった。
機械のように態度をかえないフォシアに焦れたのか、アイザックは半ば強引に、フォシアの家を訪れるようになった。
その頃には、フォシアもアイザックという男の危険性について知るようになっていた。
――あの大富豪にして大神官エイブラの息子。それをかさにきて、数々の女性と浮き名を流し、何人もの女性を泣かせているらしい。その中には、フォシアも知っている家名の令嬢もいた。
ただの色恋沙汰なら笑いながらささやかれる噂で済む。だがアイザックという男にまとわりつく噂はどうやら非難の色が濃く、嘘か本当かわからぬまでも、かなり強引な手段で令嬢たちに近づいて関係を持ったという内容もあった。
両親や家人がかなり苦心してアイザックを追い返してくれたものの、男はなおも諦めなかった。
間もなく、甘やかされた御曹司特有の癇癪を何度も起こしたが、それでも聞き入れられないとわかると――事態を更に悪化させた。
アイザックは、絶大な権力を誇る父親エイブラに泣きついたのだった。
富豪エイブラ。そのありあまる財力と人脈で、名誉ある大神官という地位すら買った男。
エイブラという男もまた、息子アイザックと同じで数々の浮き名を流した。息子と違うのは、エイブラはもっと洗練された遊び方をしたということだった。色男との噂はあっても、痴情のもつれで問題を起こしたという噂は聞かない。
その洗練された色男も、息子に対しては溺愛する一人の親でしかなかったようだった。
アイザックはともかく、エイブラ本人からの接触となれば、中堅貴族でしかないフォシア側に拒絶するのは難しかった。
顔こそ息子に似たところがあったが、エイブラはもっと老獪だった。はじめは気さくで丁重な物腰で、アイザックとのことがなければ好感を抱けたかもしれないと思うほどだった。
だが好人物めいた様子でエイブラが口にしたことは、受け入れられるものではなかった。
『アイザックは完璧な息子ではありませんが、無礼がありましたら私からよく言って聞かせます。それに、あの子は情熱的で意思が強い性格でもありまして……。強く、ご令嬢のことを望んでおりましてな』
一見穏やかそうなエイブラの目がフォシアに向き、一瞬鋭く光る。
その光に、フォシアはぞくりと背が冷たくなるのを感じた。――束の間、吐き気がこみあげてくる。
異性から目を向けられるといつも感じるあの感覚。いつもより強いとさえ思えるような。
『愚息が熱をあげるのもよくわかります。ご令嬢は陽光の天使と謳われるにふさわしい方だ。親としてわかっていただけることと思いますが、私は息子にふさわしい、素晴らしい女性を望んでいるのです』
傍らの両親がにわかに動揺するのをフォシアは感じた。
『――フォシア嬢を、アイザックの伴侶にいただきたい』
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