白い朝
その日もけたたましい空襲警報のサイレンが鳴った。人々が慌ただしく、しかし慣れた様子で防空壕に駆け込む。いつも通りの朝だ。
ほどなくして聞こえる爆撃機の飛来音。今朝もまた適当に爆弾を落とし、街を壊すだけ壊して去っていくのだろう。俺はそんな風にたかをくくっていた。
しかしその日は違っていたのだ。爆撃機が投下したのは一抱えほどの樽が一つだけ。
街の地下全体に広がる巨大な防空壕の入口付近に落とされたその樽は、落下の衝撃であっけなく砕け散り、中味…おぞましい猛毒のガスを撒き散らした。
空気よりも重い毒の霧は地下の防空壕へと入り込み、人々の体を蝕んでいく。犠牲になったのは身体の小さな幼子たちだ。
もがき苦しむ子供たちを、俺たちはただ為す術もなく抱きしめることしかできなかった。この腕の中で泡を吹き痙攣し…そして冷たくこわばっていった彼らのことを、俺は死んでも忘れないだろう。
そして必ず復讐する。彼らの生命を、まるで虫ケラのように無造作に奪っていった独裁者どもに。
人々の悲嘆の声を吸い込んでゆく青い空を見上げ、固く心に誓った17歳の春。
俺は変わり果てた故郷を後にした。
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