滴(したた)る

 店先で甘い香りを漂わせる桃をつい買ってしまった。

 よく熟れたその皮は柔らかで薄い。ナイフを使わずともそっと指先でつまめばつるりと向けて、すべらかな果肉をあらわにする。

 豪快にかぶりつく君の腕をあふれた果汁がしたたり落ちる。あわてたように肘をぺろりと舐めた舌がなまめかしくて、つい目を逸らしてしまった。

 食べる?と差し出された果実に思い切ってかぶりつく。甘くて香しくてみずみずしくて。それでいて、核心に迫るとかすかに苦い。

 まるでこの恋のようだ。

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