第44話 話すことに資格なんてない

「まさか朝井くんとこうくんが友達だったとは。世の中って広いようで狭いね」


 メイド喫茶に入り、先輩は、スイーツを食べていた。俺はというと甘いものを食べれるわけもなくドリンクを頼み、紅茶を飲んでいた。


「片山と先輩はどういう関係なんですか?」


「こうくんとは昔、よく遊んでた仲かな?ご近所さんだったから家の近くにある公園で週に何回か遊んでた。けど、私が中学の時に引っ越してね」


「そこから会わなくなったってことですか?」


 そう尋ねると先輩は、小さく頷いた。あまり思い出したくないことなのか片山とのことを話す先輩はどこか苦しそうで悲しそうに見えた。


「引っ越す前に私、こうくんに酷いことしちゃって……だから……ね?」


 さっき片山と白井先輩が久しぶりに会えたというのに気まずい感じがしたのはそういうことか。


「私は、こうくんと話す資格なんてないんだよ。だからもう嫌われたままでいいかな」


「話すことに資格なんてないと思います。先輩は、片山と話したいってさっき言いましたよね?それなら話すべきだと思います。この前、先輩には相談に乗ってもらいましたので次は俺が先輩の相談に乗ります」


「ありがとう……けど、いいの。こうくんと会えただけで私は嬉しいから。また会っても多分上手く話せないだろうし……。そんなことよりさ」


 白井先輩は、もうこの話をやめようと言いたげな表情で話題を変えるのだった。


 お節介なのはわかっている。けど、このままでいいとは思えない。何か俺に出来ることはないだろうか。


***


「屋上で見たら綺麗だろうに」


 自分達のクラスの教室で花火を見ながら美奈は、呟いた。屋上は、人が多くてこうして教室で見ることになったが教室は4階のため屋上とそこまで高さは変わらないだろうと美奈に突っ込みたくなった。


 ほとんどの生徒は屋上かグラウンドにいて、教室にいる生徒は俺と美奈ぐらいだった。メイド喫茶で使ったイスを借りて俺と美奈は花火を見ていた。


「悠斗くん、今度、私のお父さんに会いに行かない? 私、お父さんにちゃんと悠斗くんこと紹介したい。彼が私の新しい家族だって」


「わかった。美奈もオレのお母さんに紹介してもいい?」


「もちろん、悠斗くんを育ててくれたお母さんに挨拶したい。明日、バイトないからその時行く?あっ、悠斗くんがその日バイトあるなら他の日にするけど」


「明日は、バイトないし明日でいいよ」


 お墓参りは何度か行っていたが美奈を連れていったことはなかった。ちゃんと紹介して、彼女と付き合っていることを伝えたい。


「じゃあ、明日は───」


 美奈がそう言いかけたその時、廊下の方から足音がした。足音は近づき、そして遠ざかっていく。


「別に黙らなくてもよかったんじゃないか? 俺ら悪いことしてるわけじゃないんだし」


 教室を使うなと言われていないし、男女二人っきりでいるなとも言われてない。なのに美奈は足音が聞こえた瞬間話すのをやめた。


「何か咄嗟にバレたらダメみたいな気持ちになっちゃった。悪口言ってたら本人が後ろにいた的な感じ?」


 例えが凄いな。てか、それ、俺と初めて話した時に起こった出来事だろ。


「あっ、せっかく綺麗な花火上がってるのに写真撮ってないね」


「そうだな。写真撮るならオレと美奈、どっちが綺麗に撮れるか勝負してみないか?」


 家から持ってきた趣味で使っているカメラをカバンから出した。


「おっ、いいね。って悠斗くん、ガチのカメラ持ってきてるじゃん。じゃ、スマホとカメラどっちが上手く撮れるか勝負ね」


***


「やっぱり悠斗くん、撮るの上手すぎでしょ。これは私の負けだよ」


 美奈は、俺が撮った写真を見て負けだと確信した。だが、俺は、勝ったとは思っていない。美奈の撮った写真を見たが美奈も同じぐらい綺麗な写真が撮れていた。


「美奈、最初、花火撮ってるけど途中から俺を撮ってないか?」


「別にいいじゃん。悠斗くんが集中して撮ってる姿、カッコ良かったもん。これは写真に納めなくてはって思って撮っちゃった」


 いたずらそうに彼女は笑った。


「またそれをホーム画面にするなよ」


「わかってるって」


 これ、わかってないやつだな。俺は、そう思いつつ今、この時間が幸せだなと思っていると後ろからカシャッとシャッターが下りる音がした。


 俺と美奈は、互いに顔を見合わせ、後ろを振り返るとそこにはスマホをこちらに向ける中原さんがいた。


「伊織!? いるなら普通に声かけてよ。怖かったんだから」


「ごめんごめん。仲良さそうに話してたから。はい、2人の後ろ姿の写真。後で美奈に送っとくよ」


 隠し撮りしようとしていた中原さんに美奈は怒るかと思ったが嬉しそうに頷いた。


「悠斗くんも送ってもらう?」


「えっ、いや、俺は……。てか、そもそも中原さんの連絡先知らないし」


「あっ、ほんとだね。朝井くん、交換しようよ。てか、ここでグループ作ったらいいんじゃない?女子2人、男子1人はあれだから片山も入れるとして……」


 勝手に入れるのはどうかと思うが……。


「美奈、私に片山君の連絡先送っといて」


「うん、後で送るね」


「じゃ、私は帰るね。イチャイチャしてるところ邪魔してごめんね~」


 中原さんはそう言って教室を出ていった。すると美奈が嬉しそうにこっちを見てきた。


「イチャイチャだって。ねぇ、悠斗くんは、文化祭楽しかった?」


 高校初めての文化祭、楽しくないわけない。忘れられない思い出になったと思う。


「楽しかった。美奈は?」


「私も楽しかったよ。中学の時も文化祭的がやつがあったんだけどあの時の私は何をやっても楽しくなかったから……。だからね……こうやって悠斗くんと会えて、こうして文化祭を楽しめて私は幸せだよ」


 たまにする美奈の寂しそうな顔。俺は、なぜそんな顔をするのかはわからない。けど、今が幸せであると彼女が言うなら───。


 カシャッとシャッターを切り、急に写真を撮ったので美奈は、驚いていた。


「不意打ちはずるいよ。絶対変な顔してたって」


「ごめん、美奈。変な顔じゃないよ、多分、今日撮った中で一番いい笑顔だったたから」


***


「初めまして、悠斗くんの妹になりました、立川美奈です。あっ、えっと、悠斗くんとお付き合いしてます」


 文化祭の翌日、お墓の前に座り込む美奈は、緊張しながらもオレのお母さんに自己紹介していた。


「悠斗くんのお母さんってどんな人だったの?」


 後ろを振り返り、美奈は聞いてきた。


「お母さんは、何事も前向きで優しかったよ」


「悠斗くんと一緒だね」


***


「お父さん、こちらお付き合いしている朝井悠斗くんです。ほら、挨拶」


 自分で自己紹介するつもりが美奈に言われてしまう。


「は、初めまして……朝井悠斗です」


 そう言って隣を見ると美奈は嬉しそうに笑いかけた。


「緊張してる?」


「まぁ、少しは……。彼女の親に挨拶ってなんか緊張する」


「私も緊張した。後は、私のお母さんと幸司さんにも報告しないとね」


「そうだね」


 そう言って美奈に帰ろうかと言ったその時、ポケットに入れていたスマホが振動し、ポケットから出すと白井先輩からメールが来ていることに気付いた。


『朝井くん、お願いがあるんだけど。私、こうくんに謝りたい』












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