遠き世界の侵略戦争

Judo master

第1話 キリアン マクシミリアン

第一章


「おい、あの新入、戦績が5年を超えているらしいな!?」


「まだ、十五歳くらいだろ?

 少年志願兵が、生き残るなんてせいぜい二年くらいだろ?

 逃げ回っていたのか?」


「それはないな、シンレッド部隊配属は、歴戦を重ねた選りすぐりだぜ。

 あんな可愛い顔してても、アイツ、どこかがぶっ壊れているんだぜ!」


そんな雑音は慣れっこになったが、急に上官から話しかけられた時には、

少し、ビックリした。


「新入り、名前は?」 


「キリアン マクシミリアンです。」


声の主は、僕の所属する小隊のリーダー、ミコト テンマさんだ。


 「キリアン、君は戦闘特化型兵士とリストには記載があるが、

  そこのシールド発生デバイス、使ったことあるか?持ってこい。」


 「ハイ、隊長、これでよろしいでしょうか?」


 「キリアン、これはナノ拘束フィールド発生器だ。

  お前、戦歴五年にもなって、シールド類は素人同然だよな。

  それから、軍の呼称は紛らわしいから、ミコトさんでいいよ。」


 「ミコトさん、すいません、シールドは、不得意なんです。」


 「お前、よく生き残ってこれたな?

  でも、市街地防衛に出てくる攻撃用無人ドローンや、

  人工知能だけで動くオートボット兵士と違って、

  最前線にいる敵兵士は、バイオマシーン兵、

  つまり生物の脳を残したまま機械と融合させた兵士だ。」


 「ミコトさん、そいつらそんなに強いんですか?」


 「そうだな、オートボット相手なら通用する人間の不確定要素を含む

  攻撃、つまり、人工知能の予測を超えた攻撃も、バイオマシーン兵士

  は読み切ってしまう。

  だから、防御シールド技術なしでは、まともな戦闘にならない。

  そういうわけだ、シールド防御を徹底的に学べ、

  死にたくないならな!」


  そう、僕は、生き残るために、この世界の闘い方を学ぶしか

  今はない。


  今、この世界、地球は、エイリアンの侵略を受けて絶滅の危機に

 瀕している。しかし、映画のような単純な構図、地球人対宇宙人

 ではない。今、バトルフィールド地球では、三つ巴の殺し合いが

 行われている。


  地球から全てのエイリアンを追い出すことを旗に掲げる

ヒューグランド軍と、エイリアンと手を組み、その統治下で

人類の存続を目指すドミニオン軍と、複数のエイリアンが連合して、

文明を築いた知的生命体を見つけるとその傘下におさめていく

ギャラガン連邦である。この戦いのせいで、100億人いた人類は、

今や10分の一にまで減少したが、不思議なことに戦いは北半球

のみで起きている。南半球は、ほぼ無傷に近い。


 だから、多くの民間人は、オーストラリア大陸へと避難して、我々兵士が、北半球で戦いを繰り広げている状況だ。この戦いがエイリアンと人類とのよくあるドラマ設定なら、話は簡単なのだが、エイリアンにもいい種

族がいると信じるドミニオンの存在が、この戦争を複雑にしている。


 つまり、ある戦場では、エイリアン同士の戦闘、あるエリアでは

人間同士が殺し合っている。僕が属するヒューグランドにとって、

全てのエイリアンは悪である、ゆえにこの地球から追い出すまで

戦いは終わらないという思想らしい。


  アジアからやってきてシンレッドに同時入隊した同じ年の青年兵士

ミチオは、面白い話をしてくれた。日本では、ヒューグランドみたいな

尊王攘夷軍は負けたのだけど、と愚痴っていた。同じような歴史があったのだろう。ドミニオン軍の理屈は、ある意味真っ当だ。宇宙には無数の

知的文明国家が存在していて、例え、その半分が侵略独裁種族だとしても、半分は平和共存を願っているという考えであり、ここでもミチオが、大昔の日本では、ドミニオンみたいな開国派が成功したんだよね、今回

もドミニオンが正しいのだろうかと悲しげに語る。

  

  ミチオは、ヒューグランドのエリート兵士であり、あらゆる武器を

使いこなし、体術もヤワラとアイキとかいう不思議な技を習得している

猛者だが、軍の方針に迷いを感じている様子が見られる。


  ギャラガン連邦の戦い方には疑問が残る。いうことを聞かない地球人抹殺なら、今、光子爆弾級の大量殺戮兵器やゲノムポイズンのような、ある種族だけを絶滅させるバイオ兵器をオーストラリアで使えば、容易く地球など手に入るはずだし、それを使う気配がない。そもそも、北半球だけが戦場なんて、理屈がおかしい。


 そんなことを考えていると、ミコトさんが、


 「キリアン、今日は、俺の戦いを見て、敵のシールドをブレイクする

  方法と、自分のシールドのバラエティー展開を学べ!」


 僕の小隊のリーダーであるミコトさんは、年齢は僕より五歳ほど上の

女性である。この時代では、多くのベテラン兵士は死に絶え、能力ある少年兵や女性兵は珍しくなく、その中でもミコトは超一流の兵士である。


 「キリアン、いいか、俺たちのシールドは、バイオマシーン兵士には、

  一度しか有効ではない。一度だけ、相手のディスラプタービームや

  物理攻撃は防いでくれる。しかし、相手は即座にシールド波長を

  計測し、次の攻撃ではシールドと俺たちは同時に貫かれる。


   だから、シールドの波長と使用エネルギーを相手の攻撃を受けた

  瞬間に、多様に変えて対応する必要がある。

  以前、こちらもオートマチックに波長とエネルギーを変えるシステム

  を導入して対応しようと試みたが、相手のテクノロジーのほうが上

  で、こちらの変更をすぐに読まれてしまう。むしろ、我々兵士が

  各々ランダムに変更したほうが読まれない。


  ミコトさんが何気なく言った

    

  「シールドは一度しか通用しない。」という言葉に胸が痛んだ。


  僕たちの戦場への移動は、軍艦でも飛行機でもない。転送ポッドに

乗って、昔、パリと呼ばれた地域へ飛ぶ。大量の兵士を乗せた船や飛行機の移動で、多くの優秀な兵士がたった一台の飛行ドローンで撃沈され命が奪われたこともあり、そのため、今では、人間の兵士は、ナノテクノロジー技術の最先端、携帯型転送ポッドで世界中の戦場に隠している転送ナノチップ上に瞬時に移動できる。


  今回のメンバーは、ミコトさんがリーダーで、その同期のテクノロジーの専門技官エレノアさんと、頼れる戦闘のプロのミチオ、そして、僕の四人グループである。こちらが転送して移動すると、その現地にあるナノチップを指輪にはめて、帰還する際にその指輪を壊すと帰還できる。


  たとえ、相手が偶然にしろこのナノチップを見つけても、転送に

関する情報とそのエネルギーをチャージされていないチップは、誰かが

見つけても単なる金属の破片にしか見えない。


  転送後、旧パリ市街地を凱旋門方向へ向かうと、崩壊した凱旋門の奥に巨大なドミニオンの要塞基地を見つけた。今回のメインの作戦は、その要塞にシールドエネルギーを供給しているシールド発生施設を四カ所同時に破壊することだ。シールドのなくなった要塞を衛星からの一撃で粉砕する計画だ。その前段階として、ミコト小隊ともう一隊は、シールド施設へ電力供給している七つの電力発電施設の停止工作を行う。


  破壊工作ではない。破壊すると敵の目を引きすぎるし、後々に我々

の組織拠点を旧パリに築くのに電力発電施設は必要であるという本隊の

判断である。発電所は、シールド供給施設と違って、警備は人工知能の

飛行ドローンが中心で、あとは発電管理技術者が大半である。

 

  精鋭のバイオマシーン兵士はまずいない。ただ、バイオマシーン兵士ほどの脅威ではないが、高い戦闘力のドローン兵士が確実にいる。僕たち

の任務は、このドローン兵士を無力化することである。


  僕は、ドローン兵士を見た途端、抑えきれない衝動から飛び出し

 かけたが、ミコトリーダーから、制止され、


  「キリアン、まずはシールドブレイクを見て学べ!」   


  戦闘経験が僕よりも豊富なミチオにとっては、あまり興奮するものではなかったが、僕にとっては、ミコトさんの戦いは、特別なものだった。以前、僕は、このタイプの戦闘を行い、相手の攻撃を自信を持って作ったシールドで防ぎきれずに、体を貫かれたことがあった。


 今の僕は、その悔しさだけで再び生きているのだ。

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