大慈悲を以て殺す~「鬼滅の刃」と「忍者と極道」と「葉隠」

『鬼滅の刃』ブームもだいぶおさまってきたところでこのテーマである。

『鬼滅の刃』がヒットした理由は「マンガの読み方(コマ割りとか)がわからない子どもでも読めるように、全部セリフで説明した」とか色々考えられるのだが(笑)、従来の作品と一線を画す要素として

「相手の悲しい過去や事情を全て理解し、100%共感し、とことん同情した上で、でも(だからこそ)ためらわずに完全に殺す」

は外せないと思う。

従来のバトル物の作品(ジャンプ系少年マンガに限らず)において、敵とのバトル前あるいはバトル中に「同情できる悲しい過去や事情」が明かされる展開は少なくなかった。そんな時、多くの主人公たちは、拳や刃を鈍らせる。だが、炭治郎は刃を鈍らせない。涙を流しながらも、確実に首を落とすのだ(そういう主人公がそれまでも存在しなかったわけではない)。

現行作品で、同じコンセプトの作品も存在する。

『忍者と極道』

「忍者と極道は、日本の裏社会で三百年以上に渡り、抗争を続けて来た。『極道が裏で悪さカマせば、忍者が来て殺す』その宿命の中、帝都八忍の一人である少年・多仲忍者(しのは)と、極道の頂点に立ち、極道を虐げ続けた日本社会を破壊せんとする輝村極道(きわみ)は互いの正体を知ることなく出会い、アニメ『プリンセスシリーズ』(現実でいうプリキュア)を通じて親友となった……」

鬼滅同様、生首が景気良くポンポン飛び交うマンガだが、そういうマンガからしか摂れない栄養素があるので仕方ない。この主人公・忍者もまた

「相手の悲しい過去や事情を全て理解し、100%共感し、とことん同情した上で、でも(だからこそ)ためらわずに完全にブッ殺す」

キャラクターなのである。

実はこの思想の源泉は(少なくとも)江戸時代の武士向けの思想書『葉隠』にまで遡れる。

「武士道とは死ぬことと見つけたり」

という冒頭のみが有名な本書だが、実際の内容は

「おべっかでもワイロでも何でも使って出世して、とにかく殿様と直に口をきける身分になれ。そしたら殿様にとって耳の痛いことを言いまくって、切腹を賜れ。それが武士の最高の人生だ」

がメインテーマ。あと

「自分のことをバカにされてもヘラヘラ笑っていろ。ただし、殿様や御家(藩)のことをバカにされたら、即座にそいつを斬り殺して、ただちに切腹しろ(早とちりだった場合も切腹すればチャラだから)。こういう奴が十人もいれば、誰も殿様や御家の悪口を言わなくなる」

「赤穂浪士を世間はもてはやすが、仇討ちに二年半もかけて、その間に相手が病気で死んだらどうするつもりだったんだ」

とか、ゆかいなお話満載の痛快な本である。

本書に「大慈悲」という言葉が出てくる。

「大慈悲を起こし、人のためになるべきこと」

「僧侶は大慈悲を表に表し、内に大勇を秘めておらねば一人前ではない。武士は大勇を表に表し、大慈悲を内に秘めておらねば一人前でない」

そう、「大慈悲を以てブッ殺す」のが武士の仕事なのである。

最後に、『葉隠』の中で紹介されている「詠み人知らず」の歌を紹介しておく。

「慈悲の目に 憎しと思う人あらじ 科(とが・咎)のあるをば なほも哀れめ」

でもブッ殺す!

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