第22話:乙女心の行く先は02
眼が覚めた。
「…………」
状況を把握するのにしばしかかった。
「おはようございます兄さん」
鏡花がそう声をかけてきた。
「おはよ」
返して昨日のことを思い出す。
「じゃあ一緒に寝よ?」
そんなフレイヤの言葉が発端だ。私室と寝室は別。それがフレイヤ邸である。で、寝室にはキングサイズをもう二回り大きくしたベッドがデンと置かれていたのだ。
「男女七歳にして……って知ってるか?」
「いいじゃん。親子のスキンシップ」
晴れやかにフレイヤは言ってのけた。
「私も一緒に寝ます」
「あたしも! あたしも!」
そんなわけで俺こと金也、フレイヤ、鏡花、朱美が一緒のベッドで寝ることになったのだった。
「今考えても頭悪いな……」
嘆息。
「兄さんの寝顔は愛らしかったですよ?」
「恐縮だ」
他に言い様もない。
そこで、
「あー……」
他の重みに気づいた。左腕に朱美が抱きついているのだった。当人は無自覚なのかスカーと寝ている。
「こいつも何だかな……」
久しぶりに見た夢を想起させる。まだ小学生だった頃。虐められていた朱美を慰めてきた俺。心の支えがなければ朱美の精神は壊れたことだろう。人生に一人でも理解者がいれば救われる。俺はそれを実感と知っていて、その上で自分の理解者を保有してはいなかった。だから藁にもすがる思いを持つ彼女の藁になったのだ。結果、惚れられてしまったのだが……それについては割愛。
「兄さん。朱美を起こしてください。コーヒーが出来ているそうですから」
「てい」
デコピン。俺の特技の一つ。這い寄る乙女心を無下にする一手だ。激痛を走らせ、
「うぁいた!」
彼女を覚醒に導く。
「おはよう朱美」
「おはよう金ちゃん……?」
どうやら朱美の心象も俺と似たようなものらしい。
「そっか。そういえば一緒に寝たね」
そゆこと。
「さて、ダイニングに行こうぜ」
「その前に」
「何よ?」
「寝癖を直しましょう」
「お任せします」
恭しく言って俺は鏡花に任せた。使用人が肩代わりを提案したが、鏡花は断じて譲らなかった。
「さもあろうがな」
そして俺と鏡花と朱美はダイニングに顔を出す。ちなみにダイニングはシステムキッチンと繋がっている食事処で、昨日引っ越し蕎麦を食べた食堂とは別に設けられている。四人だけならダイニングでも問題ないとのフレイヤの判断からだ。
「おはよ、金也ちゃん」
「ああ、おはよう」
俺は席に座る。使用人がコーヒーを差し出してくる。ブラックだ。
「…………」
黙って飲む。薫り高い一品だ。さすがに大財閥の使用人ともなればコーヒーの淹れ方からして一流らしい。
「朝食にリクエストは?」
「無し」
「無いです」
「にゃー」
それぞれに不満を言わないトリオ。それから四人で四方山話をしながら朝食をとる。トーストと肉厚ベーコン、レタスサラダにカボチャのスープ。それらを食すと俺は私室に戻る。使用人の用意してくれた制服に袖を通し姿見で確認。
コンコンと間仕切りがノックされる。
「どうぞ」
俺の音声を認証してロックが外れる。
「兄さん?」
現れたのは鏡花。
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