第2話訳有り少年を拾う
「何だか気味悪いなぁ。変なもの出ないといいな。」
言ってる内容と違って、ワクワクな表情のグラン。
「へ!?変なものって何!?」
ニヒヒと笑うグランの袖をぐっと掴む。
「例えば人喰い熊だったり、人喰い大蛇だったり…」
「喰われる前提!?」
「今日、ここ来るまでに、破れた服や血の跡がやたら多かったからさ」
「やめてよグラン!そういうの言霊って言って本当に…」
言いかけて全身の血がサアァーと引く感覚になった。
「…なんかいる」
「おいっミナミ!いきなり走り出すな!周囲をよく見てからにしろ!おい!」
全身がドクドクいってる感じがする。
しばらく走って、血の臭いに気分が悪くなった。
茂みの中から小さい足先が見えた。
よく見ると所々に傷や出血が見えた。
10歳くらいの少年が、ぐったりして倒れている。
「ボク!大丈夫!?ボク!!」
本来ならキラキラと輝いているであろう金色の髪は、血がべったりとついて輝きを失っている。
顔は真っ青で、まるで蝋人形のよう。
声かけに反応はなかったけど、胸が微弱に上下していた。
「よかった!息がある。グラン、私の背中に乗せて!」
「ミナミ、ここは“グラン、背負って“だろ?女性にそんな事はさせないよ。」
こんな状況なのに、やけに落ち着いてる彼は、まるで荷物を担ぐ様に少年を“あらよっと“と背に乗せ小屋に向かって歩きだした。
「まぁたやっかいなもんを拾ってきたねぇ。小娘。」
小屋に戻ると老女が縦に深い皺をもっと深くして私を見た。
「だって倒れてたんだよ!?息があるし、すごい怪我だし。」
「ま、これも決まっていた事だしね。みすみすあいつの思惑に乗るのも腹立たしいが…ほら、邪魔だよ退きな。」
足元でのびーーっとくつろいでた黒猫に声をかけて追い払った。
ん?あいつ?思惑?私の頭に?が沢山出たところに
『ババアつべこべ言わず、薬を持ってこい。そこの小僧の命、儚くなってきてるぞ。』
追い払われた黒猫が、私の足元にすり寄ってそう言った。
「くーちゃん!ババアって言っちゃダメって言ってるでしょ!二人揃うと口の悪さが2乗になる。」
「そんなことよりミナミ、この少年どうするんだ?」
「あ、私のベットに寝かせて。おばあちゃん、塗り薬!お湯も沸かさなきゃ!」
ブチブチ文句を言いながらも、薬品部屋に薬を取りに行く老女。
言葉を話す黒猫は!また伸びをひとつして暖炉の前に寝そべる。
「楽しそうでなにより。」
グランは愉快そうに口角を上げ、ミナミのベットへ向かう。少年を担ぎながら。
それから少年は一週間も寝たままだった。
幸い、酷い裂傷も老女の薬のお陰で塞がってきていた。
私は毎日甲斐甲斐しく看病をした。
弟ってこんな感じなのかなぁとか思いながら。
その間も老女のおつかいやら家事やらで忙しく通常の生活を送った。
グランは少年をベットな寝かせたら、
「またなぁ」と帰って行った。
あの暗い森を抜けて帰るんだから、グランって案外腕が立つのかな?
「お前ら、何者だ」
少年の目が覚めての第一声。
私の周りには口の悪い人(猫)しかあつまらないのか?
森で血まみれで倒れていた事、ここ一週間寝ていた事を伝えると、
「……世話になった。」とポツリ呟くと毛布にくるまって動かなくなった。
「お腹空いてない?寝ている間、スープを少しずつ飲ませていたけど。水は飲める?痛みはどう?」
尋ねても毛布の小山は動かなかった。
「少し放っておいておやり。」と老女。
ベット脇のサイドテーブルに、スープと水を置いて私達は部屋から出ていった。
それから数日。毎日運んでいった食事の皿は空っぽになっていたので、ちゃんと食べてくれていたみたい。
でも部屋に入ると相変わらずの毛布の小山。
部屋に籠りっきりは病気になるわよね。うん。
私は意を決して毛布をむんずとつかんでおもいっきり剥いだ。
「な!何をする!」慌てる少年。
「お風呂に入るわよ。何日そのままで居るつもり?さぁ、歩けないんだったら抱っこするわよ。」
クンクンと時分の服の臭いを嗅いだ少年は、苦い顔をして、
「…自分で歩ける」とスタスタ部屋を出ていく。
ーーと思ったら、真っ赤な顔をして戻ってきた。
「風呂はどっちだ…」
お風呂に誘導し、少年の服を脱がそうとしたら
「何をする!年頃の娘が!」
と怒られた。
「こんなにバッチくなるまで、お風呂にも入らず部屋からも出てこなかったバツ!さあ大人しくされるがままになさい!」
ギャーギャーと抵抗されたけど、つるんと服を剥いてお湯の張ってあるタライにザボッと入れた。
石鹸を泡立てて、髪や背中をあらっていると、始めカチカチに固まってた体が、徐々に柔らかくなり、「ホウッ…」と艶めかしいタメ息をついて身を任せたように目を瞑った。
………子供の癖に色っぽいタメ息ね。
何だかイケない事をしている感じになったけど、清潔一番!身体清潔保持大事!ガシガシ洗った。
ちょっと私の顔、赤くなってたけど…。
『ほぉ、見られるようになったなぁ、小僧。』
窓際で日向ぼっこをしていたくーちゃんが目を細めて言った。
「ーーくっ!この屈辱…。気持ちの良さに負けてしまった…。」
顔を真っ赤にして小刻みに震える少年。ほんと悔しそう。
……ますます背徳的な気持ちになるわ…。
「さて、身綺麗になったところで、ご飯にしましょう!」
テーブルには質素ながらも普段より品数多めで料理を並べる。
「さ!少年!沢山食べて大きくなるんだよ~。」
「……もう充分大きいんだが…」
ボソッと呟く少年。
拗ねてるみたいで、何だか可愛い。
「そういえば、名前は?ずっと少年じゃ味気ないし。」
私の問いに無言でよく噛まないと喉がつまりそうなパンをガツガツ食べる少年。
ま、何やら訳ありの様だし、深くは探らないほうがいいかな。
「また玉ねぎのスープかい!?キライだって言ってるだろ。まったく。」
老女の文句をさらっとかわし、少年におかわりのスープを出す。
「本当に大きくさせようとしてふのか?」
困惑気味の少年。
気にするな!
その日から少年が毛布の小山になる事はなくなった。
少しずつ家の手伝いもしてくれるようになった。
でも、子供らしからぬ一線を引いた対応に、少し寂しい気持ちになったりもしたけど、深くは気にしないようにした。
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