9. 猫とネズミの相性は……
『マスター! いい加減、起きてください! マスター!』
ぼんやりとした意識で、何かが僕の頬をペチペチと叩いていることに気がついた。聞こえてくる声はブランのものだ。どうやら僕を起こしているみたい。そこまで考えたところで、ようやく意識がはっきりとしてきた。「んあ」と我ながら妙な声を漏らしつつ、ゆっくりと目を開ける。
「おはよう、ブラン」
『おはようございます。でも寝過ぎですよ! 昨晩も夕飯を取らずに寝てしまったんですからね!』
「そうだったね。思った以上に疲れてたみたい」
洞穴の外をちらりと除くと、それなりに日が高い。どうやら結構長い間寝ていたようだ。それでブランも少し心配になったみたい。それに関してはちょっと申し訳なかったけど、機嫌も直っているようで僕としては一安心だ。
僕が目を醒ましたことに気付いたのか、洞穴の外に出ていたトラキチも戻ってきた。彼にもおはようと挨拶をすると「ニャ」と返事があった。賢い。
「お腹空いたなぁ」
『それはそうですよ。昨日は夕食を抜いたんですから、しっかり食べないと駄目ですからね』
何故かブランが世話焼き体質になっている。それをはいはいと聞き流して朝食だ。サンドイッチパックにしようかな。食料ポイント1で交換できる。それにコーヒーをつけよう。缶コーヒーだけど。
食事を取りながら、今後の方針について考える。
最優先は安全確保。トラキチがいるとはいえ、まだまだ戦力不足。そもそもトラキチがどれくらい戦えるかもわかっていないしね。できれば戦えるユニットを増やしたい。そのためには資源ポイントが必要だ。ポイント集めは継続して行う必要があるだろうね。
一応、僕の目的はディルダーナの開拓ということになっている。開拓を成功させたところで、僕が元の世界に戻れる保証はないけどね。でも、今のところ可能性がありそうなのはそれくらいだ。それに生活は便利な方がいいに決まっている。生活基盤を整えるのも優先事項のひとつだ。
となると、人里についても調査したいよね。開拓をするなら人手も必要だ。一人でできることには限界があるから。
「でも、この森の中に人なんか住んでるのかな?」
『正確なところはわかりませんが、住んでいるとは言われています』
ブランによれば、このディルダーナ大樹海はいずれの国にも組み込まれていない独立した地域らしい。大陸中央あたりにあって、西はヘイブルロウ聖王国、東はアルビス帝国という大国に挟まれている。
独立地域として存在する理由の一つが魔物の存在。樹海には数多くの魔物が生息しているんだけど、数十年に一度、爆発的な大増殖が発生するんだとか。そうなると、樹海からあふれ出た魔物が周辺諸国を荒らす。下手に大樹海を領有した場合、その被害に対する責任を追及されることになる。周辺各国がそれを嫌った結果、ディルダーナ大樹海は今日に至るまで、誰の支配も受けない独立地域として存在しているわけだ。
そんな独立地域であるディルダーナ大樹海に人が住んでいるのか。結論から言えば住んでいる。ただし、それは国から追われたあぶれ者や何らかの理由で身を隠す必要があった者たち、もしくはその子孫だ。善良な人も中にはいるだろうけど、盗賊団とか犯罪者といった関わり合いになりたくない人達も大勢いそうな感じだね。
そうなると安易な接触は避けたいかな。というわけで人里の探索に関しては優先度低めってところ。
とりあえず、こんな感じかな。まとめると、大きな目標は二つ。安全確保のために護衛ユニットを生産すること、開拓の一環として生活基盤を整えること。どちらにも資源ポイントが必要なので、結局はポイント集めを積極的にやっていけばいいってことかな。
「ところで、この子、まだ動かないんだけど。本当に生きているんだよね?」
僕が気にしているのは、昨日毒見によって仮死状態になったモルモット。一晩経てば元気になると聞いていたのに、今のところ復活する気配がないんだ。
率直に尋ねると、ブランはバサリとページを開いた。たぶん、これは驚いたときのリアクションだ。
『ああ、そうでした! 日付が変わったので復帰可能ですよ。すぐに起こしますね!』
ブランがそう言うや否や、ピクリともしなかったモルモットがもぞもぞと動き出した。どうやら、自動的に復活するわけではなくて、ブランによる復帰処理が必要だったみたいだ。
「きゅい!」
「良かった。元気そうだね」
手を差し伸べると、モルモットは駆け寄ってきた。特に、仮死による影響はなさそうだ。好感度が下がって嫌われちゃうかもしれないと思ったけど、そんなことはないみたいだね。せっかくだから、この子にも名前をつけてあげよう。
「そうだな。君の名前は……モルットにしよう! よろしくね、モルット!」
「きゅい!」
安直な名前かな。でも、わかりやすいって大事だよね。本人は気に入ってるみたいだから問題はないはず。
そうやってモルットとの交流を深めていたら、トラキチが近寄ってきて「ニャ」と鳴いた。トラキチとしては同僚への軽い挨拶だったんだろうけど、モルットはブルブルと震えて僕の服の中に潜り込んでしまった。くすぐったい。
「もう、駄目だよ。脅かしたら」
「ニャ……」
そんなつもりじゃないのにと拗ねるトラキチを宥めつつ……でも仕方が無いよねと思う。巨大な獣は慣れないと恐ろしく感じちゃうものだ。それに猫とねずみだし……相性はあんまりよくないかもしれない。まあ、トラキチは人懐っこい性格だから、モルットもすぐになれるよね。きっと。
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