REQUEST34 誕生日プレゼント―1

 ある日の昼下がり。

 俺はルルフィとティエーリの町を歩いていた。

 朝早く出発して取りかかっていた薬草採取の依頼が昼前に終わったので、午後からは彼女の買い出しに同行している。


 今日のように時間ができた時は、進んで荷物持ちを申し出ているんだ。

 店番はコノエとハクにしてもらっている。二人からアイスクリームを食べたいと言われているので、忘れないように買って帰らないとな。



「まずはどこへ行くんだ?」



 俺は後頭部で手を組みながら、隣のルルフィに尋ねる。



「雑貨店に向かいます。今日は心強い団長がいるので、ストックが少なくなってきた日用品を買い足したいんです。荷物持ち、よろしくお願いしますね」

「……お手柔らかに頼んます」



 不安そうな顔でそう言うと、ルルフィはにっこり笑った。



「え。どうして何も言ってくれないの!? めっちゃ素敵な笑顔だけどさ!?」

「さぁ、先を急ぎますよ。今日は行きたいところがたくさんありますので」

「…………仕方ない。いっちょ頑張るか」



 覚悟を決めて肩を回す。楽しそうなルルフィを見ていたら、なんだからやる気が出てきた。



「――団長? そんなところで立ち止まってどうしたんです?」



 ふと前方に視線を向ければ、後ろを振り返ったルルフィが首を傾げている。



「ああ、ごめん。今行くよ」



 俺は手を上げて答え、ルルフィのもとまで走った。

 それから二時間。いくつかの店を渡り歩いた俺たちは、大通りの途中で見つけた公園で一休みすることになった。

 荷物持ちの俺を気遣い、ルルフィが休憩しようと提案してくれたのだ。



「どうっすかなぁ……」



 ベンチに腰かけた俺は、空を見上げてぽつりと呟く。

 実は今日、俺には荷物持ちの他にもう一つ大事なミッションがあった。

 それは――



「もういっそ本人に訊いちまうか? いやでも、うーん」



 誕生日が明日に迫っているルルフィの欲しいものを探ること。

 しかし、今のところ有益な情報は得られていない。ルルフィは無駄な買い物をまったくしないのだ。


 洋服やアクセサリーが売っている洋装店ブティックに立ち寄ってみないかと声をかけたが、やんわり断られてしまった。

 何か欲しそうにしてたらこっそり買おうと目論んでいたが、完全に当てが外れてしまったのである……と、その時。



「団長どうぞ」



 俺の目の前に陶器のカップが差し出される。その中には暗褐色の液体――コーヒーが注がれていた。



「おう、ありがとな」



 カップを受け取り、俺は公園の隅に視線を向ける。

 そこには屋台がいくつか連なっていた。飲み物や軽食、お菓子が売られているらしい。子どもたちが楽しそうにメニューを眺めていた。



「砂糖は多めに入れてもらいましたので安心してください」

「……俺がブラックコーヒー苦手なの気づいてたのか」



 俺の問いには何も答えず、ルルフィはただ微笑みを湛えている。

 バレていたか。俺が無理してブラックコーヒーを飲んでいることを。



「……コノエには内緒で頼むぞ。あいつにバレたら死ぬほどいじられるから」

「承知しました。……あ、飲み終わったら私がカップを返却しに行きますね」

「そこまでしてもらうのは悪いって。二人で行こう」



 俺の隣に腰かけたルルフィと一緒に、しばらくコーヒータイムを楽しむ。



「…………」



 こっそりルルフィを見る。今日の服装はいつもの黒と白を基調としたエプロンドレスではなく、白いブラウスと落ち着いた赤色のロングスカートという装いだった。


 普段は後頭部で束ねている長い黒髪も下ろしていて、出かける前にこの姿で現れた時は不覚にもときめいてしまった。今はもう慣れたけど。



「どうしました? 私の顔に何かついていますか?」

「ああいや、ごめん。そういうわけじゃないんだ」

「?」

「久しぶりにルルフィの私服を見たからさ、ちょっと見惚れてた。……本当に綺麗になったよなぁ」



 俺は照れ隠しにコーヒーを飲み干す――甘い。多めに入っている砂糖のおかげか、まったく苦く感じなかった。

 ……あれ、変だな。返事がない。俺は意を決して、再びルルフィを見る。



「……っ」



 ルルフィは両手で顔を覆い隠し、身をよじりながら悶えていた。耳が真っ赤だ。

 そんな彼女を目の当たりにして、俺の方もまた恥ずかしさが込み上げてくる。


 しばらくの間。俺たちは顔を合わせることなく、言葉を交わすこともなく、ただベンチに隣り合って座っていた。




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