昭和四十一年、東京より。
げこげこ天秤
Epilogue
雨が降っている。
雨音に生まれ変わりがあるのだとしたら、それはきっとレコードのノイズなのだろう。周波数が異なるとしても、二つの魂が奏でる音は同じ。だから、喋り声がレコードのノイズに吸い込まれていくように、拳銃の乾いた音は、たちまち湿って水煙のなかへと霧散していった。
世界は
「……へへ……
君はまるで背中を叩かれた時と同じように笑った。けれど、もはや
ロキシー・ヘルナンデス。
日本で活動するCIA工作員。
殺される理由は彼女自身も分かっていた。
「
もし、雨音とレコードのノイズが同じ音を奏でる魂を持っているのだとすれば、ロキシーと
「ねぇ、ソーニャ。世界が違ったら、一緒にいられたのかな?」
「さあね」
「最期くらい気を遣えないの? ――共産主義者」
「最期くらい黙って逝ってよ。――資本主義者」
雨音が会話を何処かへ連れ去っていく。聞こえるはずのないレコードの音が、銃声を溶かしていく。代わりに、何処からともなく星の歌声のように響くグロッケン。二人を包み込む幻聴の名前は『星影のワルツ』。降り注ぐのが雨でなくて星であったなら、運命は違ったのだろうか。
「別れに……星影の……ぉ……ワルツを……歌……ぉぅ……」
最期に君は歌っていた。
君が大好きだった歌を。
*****
誰だ、こんな結末を用意したのはッ!?
許さない!!
そうか。そうですか。そっちがその気なら、私にも考えがありますよ。二人が死ななきゃいけない運命なんて、世界なんて、そんなの私が変えてやりますよ!!
だって私は――
『昭和四十一年、東京より。』
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