第二章 ~『門番と割り込み』~
魔物狩りを終えた頃には、草原に夕日が差し掛かっていた。ギンは出番を終えたため、魔石に戻っており、いまは一人だ。パートナーが隣にいないことに寂しさを覚えながら城門へ向かうと、そこには長蛇の列ができていた。
(魔物狩りをしていた人だけでなく、行商人や旅人も混ざっていそうですね)
帝都は人の出入りが多い。特に門限ギリギリの時刻になれば、行列ができても不思議ではない。もう少し早く帰ってくるべきだったと後悔していると、列に和装の男たちの集団が割り込んでくる。
「おい、割り込むなよ」
勇気ある男性が声をあげる。それに呼応するように、他の者たちも続く。
(いいですよー、もっと言ってやってください)
アリアも心の中で応援する。だが列に割り込んだ者たちは、その声を鼻で笑う。
「ふん、我らは第七皇子様の家臣だぞ。その我らに歯向かうというのか?」
第七皇子、そのたった一言で非難していた者たちは黙り込む。緊張で喉を鳴らすものまでいるほどだ。
「ふん、知っての通り、我ら第七皇子様の家臣団は、魔物討伐に大きな貢献をしている。見ろ! 此度の討伐でもオークを三体も討伐した」
その証拠となる魔石を提示すると、感嘆の声が広がる。だがアリアの反応は違った。
(え? たった三体?)
アリアは今回の討伐で、オークを九体、ゴブリンを二十五体、討伐している。彼らとは比べ物にならないほどの成果だ。
(私がオークをあなたたちの三倍倒したと言えば、私に列の順番を譲ってくれるのでしょうか……もちろん、そんな非常識な真似はしませんが)
魔物狩りの功績を盾に、列順を奪うようなことはしたくない。酷い人たちだと呆れながら、自分の番がやってくるのを待つ。
門番がアリアの顔を覚えていたのか、ハッとした表情を浮かべる。
「無事でよかったな」
「ふふ、なにせ私ですから」
「お友達も無傷だったようだし、最近は女の子の方が強いのかもな」
修行に出ていたリンが無事に戻ってきたと知り安堵する。彼女ならば魔物相手に後れを取ることはないだろうが、それでも心配はするものだ。
「それで魔物は倒せたのか?」
「はい。十分すぎるほどに」
「なら討伐報酬を受け取らないとな。この先を進んだところにある冒険者組合で貰えるから忘れないようにな」
「ご親切にありがとうございます♪」
冒険者組合は王国にも存在した。魔物討伐報酬の受領だけでなく、魔石も買い取ってくれる。帝都で生きていくなら欠かせない存在だ。
「礼儀正しくて、本当に良い子だな。あいつらに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
「それは私が嫌ですね」
「ははは、だよな。とにかくあいつらには気を付けろよ。第七皇子の家臣どもは、目的のためなら非道も厭わないクズの集まりだからな」
行列に割り込んでくる時点で人間性には期待していなかったが、聞けば聞くほど、印象が悪化していく。
このまま関わりのない生涯を過ごしたいものだ。切実にそう思えた。
「では私は行きますね」
「おう、達者でな」
門番に礼を告げて、アリアは駆けだす。目的地は冒険者組合。討伐報酬がどれくらいの金額になるかの期待に胸が膨らむのだった。
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