第二章 ~『シルバータイガー』~
草原を進んだアリアは、城門から離れ、周囲に誰もいないことを確認する。
(魔物狩りは久しぶりですね)
実はアリアが魔物と戦うのはこれが初めてではない。ハインリヒ公爵に領内の魔物を駆除するようにと闘いを強要されたことがあった。
これは彼が面倒事を押し付けたいがためであるが、もう一つ、別の狙いもあった。
それは魔物を討伐することで、魔術師の最大魔力量が増加するからだ。より多くの人を治療するためには、それに見合うだけの魔力がいる。だからこそ長時間労働のために、魔物との無茶な闘いを強要されたのである。
(魔力は衰えていませんね)
アリアの肉体から魔力が湯気のように放たれる。身に纏った魔力は回復魔術のエネルギー源になるだけでなく、肉体を頑丈にし、身体能力を向上させてくれる。
この膨大な魔力量こそが、アリアの自信の源であった。どんな魔物が相手でも最低限逃げることくらいはできる確信があるからこそ、魔物退治をしようと覚悟したのだ。
(では森へ向かうとしましょうか)
見晴らしの良い草原に魔物の姿はない。森の中に潜んでいるはずだと信じ、鬱蒼とした森を進む。
天に向かって伸びる背の高い木々の葉から漏れた日光に照らされる。虫の鳴き声や草木の揺れる音が耳に届いていた。
(この森にいる魔物は、ランクFのゴブリンが中心だとガイドブックに書いてありましたね)
魔物にはランクが割り振られており、FからSまで存在する。Fは最弱のランクであるが、アリアにはブランクがある。油断せずに進もうと決めた折、一匹のゴブリンが茂みから飛び出してきた。
緑肌の小鬼は王国にもよく出没した。王国のゴブリンより角が長いが、それ以外は特筆すべき変化もない。
(ゴブリン相手なら私が戦っても勝てますが、折角ですからね)
アリアは革袋から銀の魔石を取り出す。これは魔物が命を失うと残す、魂の結晶であり、魔物を倒した証明にも利用されている。
魔物は命を落としても、死骸を残さず、魔石だけが残る。そのため回復魔術が効かない……わけではない。
魔物の魂の情報は魔石に刻まれているため、アリアの回復魔術で肉体を復元することができるからだ。
アリアは銀の魔石に魔力を注ぎ込む。魔力が肉体を再生し、その姿が生前のものを再現する。
生み出されたのは銀の体毛に覆われた虎の魔物だ。シルバータイガー、ランクBの強力な力を持つ種族である。
「ギン様、お久しぶりですね♪」
アリアはギンと呼ばれたシルバータイガーのモフモフとした体毛に身体を埋める。アリアが蘇生した魔物は召喚獣となり、彼女に絶対服従の忠実な従僕となる。
ただ主従関係の縛りがなくとも、ギンもアリアに懐いており、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「さぁ、ギン様、お願いします」
アリアに命じられ、ギンはゴブリンに飛び掛かると、その牙を突き刺した。一撃でゴブリンは絶命し、魔力が魔素となって霧散する。
残されたのは緑の魔石だけ。アリアの最大魔力量も僅かに増加したため、ゴブリンを倒したのだと実感する。
アリアは魔石を拾い上げ、ジッと見つめる。ゴブリンを倒した罪悪感がないわけではない。しかしこれで魔物被害に遭う人が減ったことも事実だ。
(それに私の回復魔術ならいつでも蘇生できますからね)
緑の魔石を革袋に仕舞うと、ギンに礼を伝えるために、ギュッと抱き着く。モフモフとした感触を感じながら、頑張った召喚獣の頭を撫でるのだった。
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