第一章 ~『懐かしの甘味処』~


 帝都に辿り着いたアリアたちは、その街並みに目を奪われていた。瓦屋根の長屋や商店が並び、和装の商人たちで街は賑わっている。


「懐かしいですねぇ」

「アリアは帝都を訪れたことがあるの?」

「数年前に何度か……でも以前よりも発展していますね」

「皇国はここ数年で大きな力を付けた国だもの。経済力は街並みに現れるから、変化を感じるのも当然ね」


 物資が豊富になれば人が増え、そして新しい建物が建てられる。そうやって街は発展していくのだ。


 二人は帝都の目抜き通りを、人混みの流れに乗りながら進んでいく。アリアの足取りに迷いはない。彼女の目指す場所は決まっていた。


「ここが私の来たかった場所です」


 アリアが連れてきたのは甘味処だ。抹茶とかき氷が名物なのか、看板には大きくイラストが描かれている。


 さっそく、店の中に入った二人はメニュー表をジッと見つめる。美味しそうな商品名がずらりと並んでいるため、どれを注文するべきかと頭を悩ませていた。


「アリアはこの店に来たことがあるの?」

「弟子がここの菓子を気に入っていたんです」

「お弟子さんがいたのね。さすが聖女様」

「そんなたいしたものではありませんよ。私が教えたのは魔術の基礎だけですから」


 使える魔術は生まれ持った適性によって決まる。そのため聖女のみが適性を持つ回復魔術を教授することはできない。


 だが魔術のエネルギー源である魔力のコントロールなら教えることができる。基礎的な修行が中心だったが、彼の今後の役に立てるはずだと信じていた。


「う~ん、駄目ね。どれも美味しそうで決められないわ」

「私は餡蜜にしようと思います」

「美味しいの?」

「味だけならカキ氷の方が上ですよ。でも弟子の好物だったんです。味だけでも懐かしさに浸りたくて……」

「アリアらしいわね。なら私も餡蜜にするわ」


 注文してから十分も経たずに、餡蜜が運ばれてくる。寒天や杏子、餡子が飾られ、上から黒蜜が掛かっている。甘い匂いが食欲をそそった。


 二人はさっそく舌鼓を打つ。互いの感想を確認しなくても、浮かんだ笑みで察することができるほどに美味だった。


「昔、食べた味のままですね……」


 弟子は元気にしているのだろうかと、感傷に浸っていると、人影が近づいてくる。人相の悪い男で、腰に刀を差していた。


「おい、あんた、王国の人間か?」

「そうですが……」

「俺は王国の人間に騙されたことがあってな。お前の金髪を見ただけで昔を思い出して不快になった」

「はぁ、そうですか……」

「だから慰謝料をよこせ」


 あまりに馬鹿げた難癖だ。きっと女だからと舐めているのだろう。きっぱりと断ろうとした時、また別の男性が近づいてくる。


「君のやっていることは皇国の恥さらしだ。即刻、止めたまえ」


 助けてくれたのは黒髪黒目の美丈夫だ。腰に刀を下げており、高身長で和装の上から分かるほどに筋肉質でもある。


(どこかで会ったことがある人でしょうか)


 威厳ある彼の顔にはどこか見覚えがあった。疑問を解消するように、彼は答える。


「私のことを知らないのか?」

「誰がお前のことなんて……あああっ!」

「気づいたようだな」

「シ、シン皇子――失礼しました!」


 人相の悪い男は逃げるように去っていく。店内の注目がシン皇子と呼ばれた男に集まっていた。


「やれやれ、お忍びで食事に来たのに台無しだ……それにしても、我が国の民が迷惑をかけたね――って、あれ?」

「久しぶりですね」

「師匠⁉」


 二人は偶然の再会を果たす。少年だった弟子は成長し、立派な好青年へと成長していたのだった。

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