魔法使いと騎士
ある男は魔法が使えた。
それは話している相手の表情や仕草から、どのような感情なのかを読み取る魔法。
この魔法が発現したのは中学生の頃。それから男は人の顔色ばかり伺うようになった。
それ以前に虐められた経験がある男は、人から嫌われることを極度に嫌った。
どうすれば嫌われないか、そればかりを考えて行動するうち、男は本当の自分を見失ってしまった。自分が何を感じ、何をしたいのか。何も分からなくなってしまった。
男は誰からも嫌われなかったが、誰からも好かれなかった。本当の姿を見せればまた虐められる。嫌われてしまう。どこかそんな心持ちで相手と接するうちに、親しい仲の人間は離れていった。
男は疲れ切っていた。人に会う度に相手の心情を考え、行動することには相当な体力が必要であった。
魔法が発現して10年後、男は自身に呪いの魔法をかけて死んだ。
ある女は騎士であった。
どんな人間の剣も通さない鉄壁の鎧を身にまとい、日々を過ごした。
女はこの鎧を他人に自慢したことは無い。また、優れた鎧であることにも気づいていなかった。
この鎧のおかげで女は健康に暮らすことが出来たが、周りの人間はこの鎧を鬱陶しく思うことがあった。
女は産まれてから18年間、何人もの戦士の剣をものともしなかった。しかしそれが破られるのは一瞬であった。
女は目線を落とすと何本もの剣が自分の関節部分から肉体を抉っていることに気がついた。
目線を上げると信頼していた仲間達に囲まれていた。この状況を受け入れるのに女は数秒時間を有した。急いで抜こうと試みたが、何度試して見ても抜けない。
その後女は何も通すことのない分厚い鎧を上から纏った。この鎧は誰の剣も、声も通すことは無かった。
女の体を抉った剣は未だ抜けず、女の体を蝕み続けている。
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