Column11 ③「~にもかかわらず」の表記について

(②からの続きです)


 何故、『毎日新聞』で「~にもかかわらず」をひらがな表記しているのかというと、「拘」の漢字に理由があるといいます。


『毎日ことばplus』には、円満字二郎さんの『漢字ときあかし辞典』から引用し、次のような説明をしています。


**********

「拘」は同じ訓読みの「関」に比べ「離れがたい」というニュアンスがあるのが異なるところ。そこから「拘わらず」という形で「制約があってもかまわずに」という意味を持たせることが多いということです。


例えば「家族の反対にもかかわらず」というのは、単に「家族の反対に関係なく」というニュアンスというよりは、「家族の反対に拘束力を感じるけれど、あえてそれをはねのける」という反発のエネルギーが感じられます。ですから漢字なら「反対にも拘わらず」が適切なのです。


もっとも、常用漢字表の「拘」に「かかわる」の訓はありません。したがって、常用漢字表を尊重する立場では「にもかかわらず」と平仮名書きにするのがベストということになります。常用漢字表にこだわらない場合でも「拘わる」は「こだわる」とも読めてしまうため、平仮名がベターといえます。

**********


 ここまでの説明を読むと、『毎日新聞』では「拘」の漢字のニュアンスを含め、「~にも関わらず」よりも「~にも拘わらず」の方が適切であると考えていることが分かるかと思います。


 念のため「そこから『拘わらず』という形で『制約があってもかまわずに』という意味を持たせる」について『角川新字源 改訂新版』で調べてみたところ、確かに「制約する」という意味がありました。


 その他にも「とどめる(とどむ)。とどめておく」や「とらえる(とらふ)。つかまえておく」という意味があり、度を越えると上記に引用した「拘束力」に繋がっていくのかなと想像します。


 さらに表記をひらがなにしている件も、「こだわる」との区別を考えていることを踏まえると納得できるかなと思います。(*新聞では「訓読みのこと」と「分かりやすさ」を考え、ひらがな表記をとっていますが「かかわる」→「拘わる」、「こだわる」→「拘る」として書き分ける方法もあります)


 一方で、『明鏡国語辞典 第三版』の「拘わらず・関わらず・係わらず」の見出しにもあった「❶…に関係なく」の意味であれば、「関わらず」を使ってよいと『毎日新聞』では記載されています。下記に引用いたします。


**********

なお、「天候にかかわらず投票に行く」という場合はどうでしょう。これは「晴れようが雨になろうが関係なく行く」という意味合いですので、逆接の意味とは違うと思われます。ですから「関係」の「関」の字を使ってよいと毎日新聞では判断しました。

**********


 逆接の意味とは違う……というのが理由のようです。

 そのため、「❶…に関係なく」の意味として「関わらず」の表記は使えても、「❷…であるのに、それでも」の際には使えない、としているんですね。


 さて、こうなってくると「~にも関わらず」は使えないのではないかな……と思ってきますよね。もちろん、上記の考えもきちんとした理由があって尊重できると思うのですが、一方で疑問もあります。


 ということで、次のColumnに続きます。


(続きます)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る