9月

◆質問箱◆ 「妙齢」は40~50代に対しても使えますか?

 今回は8月の『Column5 「妙齢」は男女ともに使えるか否か』へ、野栗さんよりご質問をいただきましたので、それにお答えしようと思います。


Q、こんにちは。「妙齢」ですが、最近はベテランの域にはいった女性(40-50代?)を指して使っているのをネットの投稿で何度か見ました。その中に自称、高校国語教師という人がいたので😲となっております。

個人的に「妙齢」って20代前半までだよねー、と思っていたので、違和感拭えずにおります。私が誤解しているのならいいのですが……。



A、「『妙齢』がどれくらいの年齢の方に当てはまるか」というご質問ですね。


 結論から申し上げますと、人によって捉え方に違いが出る言葉かなと思います。

 さっそく辞書を引用して比較してみましょう。

 まずは『新明解国語辞典 第八版』から。


*****

【妙齢】『新明解国語辞典 第八版』

[壮年以上の人や男性から見た]女性の結婚適齢期の称。[古くは男性にも言った]

*****


 どうやら「結婚適齢期」がキーワードのようです。辞書で調べてみます。


*****

【結婚適齢期】『大辞泉』

結婚するのにふさわしいとされる年ごろ。適齢期。

*****


 このように書いてあります。

 しかし、具体的な年齢は書いていません。思うに、現代では「結婚適齢期」は「それぞれ違う」と考えるのが普通の考えであるため、あえて年齢を書いていないのだと思われます。


 念のためネットでも調べてみました。

 すると「30歳前後」としているものがありましたが、やはりそれは個人によって違うこともあり、どれも結論としては「結婚適齢期に決まりはない」と示していました。

 ということは、「結婚適齢期(=人それぞれ結婚が適齢と思う年齢)」の人たちは皆「妙齢」ということになります。


 別の辞書も引いてみましょう。次は『三省堂国語辞典 第八版』です。


*****

【妙齢】『三省堂国語辞典 第八版』

①[女性の]若い年ごろ。(お)としごろ。

②[女性の]年は重ねたが、まだまだ若いと言える年ごろ。

*****


 こちらの方が分かりやすいかもしれませんね。

 ①は元々の意味で、②は今の時代に合わせた語釈のように思います。

 上記で「結婚適齢期」が人ぞれぞれ違うことを書きましたが、『三省堂国語辞典 第八版』にもあるように、今は年を重ねても「若い」と言える人は多くいます。

 それを考えると、②の使い方が現代では合うのではないでしょうか。


 もう一冊辞書を引いてみましょう。


*****

【妙齢】『三省堂 現代新国語辞典 第六版』

①若くて美しい年ごろ。「——の美人」(中略)

②年齢相応の魅力をたたえていること。「五十歳ぐらいの――の女性が私を出迎えた」

[用法]女性について言う。②は、近年の用法。

*****


『三省堂 現代新国語辞典 第六版』では、②の例文に「五十歳ぐらいの妙齢の女性が私を出迎えた」がありますね。これを見ると、五十歳ぐらいの女性でも、「妙齢」を使えるということが分かります。


 ただ、『三省堂国語辞典』の辞書編纂者である飯間浩明氏が、年齢に関する言葉の話について、X(旧:Twitter)で次のようなことを述べています。


(下記の引用にある〔続く〕という表記は、飯間氏が複数のツイートをまとめる「スレッド」を利用しており、話が続いていることを読み手に分かりやすくするために表記しているものです。途中「(中略)という表記がありますが、これは「間のツイートを引用せずに省略しています」という意味です)


*****

26日(←作者補足*2020年8月26日と思われます)のテレビで「中年は何歳から」という辞書の引き比べをやっていました。辞書によって40歳前後~60代前半まで幅があるという結果。それはいいんだけど、出典の記述が間違いだらけで、最新版も見てなくて、実にいい加減だと思いました。ところが話はそれで終わりませんでした。〔続く〕


(中略)


「中年は何歳から何歳まで」というのは、国語辞典によって記述が違う。つまりは、確定できない情報です。テレビ番組でのセクハラの材料程度にしかならないなら、はたして辞書にそんな情報必要か、と考え込みました。むしろ、このように確定できないと記したほうが親切です。〔続く〕


「中年は何歳から」「老人は何歳から」「おばさんは何歳から」……などは、しばしば話題になります。その話題の行き着く先は、えてして、該当する年齢層の人をいじったり、からかったりすることだっりする。要するに年齢差別に辞書が使われるわけです。その点をよく考えてみたいと思った一件でした。

*****


 飯間氏が「『中年は何歳から何歳まで』というのは、国語辞典によって記述が違う。つまりは、確定できない情報です」というように、「妙齢」も同じことが言えます。

 私は今回、上記で挙げた辞書以外にも『明鏡国語辞典 第三版』『広辞苑 第六版』『学研 現代国語辞典 改訂 第六版』『新選国語辞典 第十版』『旺文社 標準国語辞典 第八版』『角川必携国語辞典』を引いてみましたが、どれも年齢がはっきりと分かるような書き方はされていませんでした。


 それはやはり、人によって感覚が違うことにも理由があるからではないかと思います。


 一つ言えることは、野栗さんが「最近はベテランの域にはいった女性(40-50代?)を指して使っているのをネットの投稿で何度か見ました」とおっしゃったこの使い方は、はっきりと間違いとは言えないということです。


「妙齢」や「中年」など、ある年齢層を表すような言葉は、はっきりとした年齢を区切ることが難しいです。逆に、はっきりとした年齢を言わないからこそ、書き手(使い手)や読み手に委ねられる部分もあるかなと思います。


 質問への回答は以上です。

 もしかすると明確な答えを知りたかったかも分かりませんが、言葉はなかなか簡単に捉えられないものです。それをご理解いただけますと幸いです。


 ご質問ありがとうございました。

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