Column6 戦いの「火蓋が切って落とされた」?

 ——戦いの火蓋が切って落とされた。


 とある映像作品を見ていたところ、偶然「戦いの火蓋が切って落とされた」というナレーションが耳に入りました。

 しかし「戦いの火蓋が切って落とされた」というのは本来誤りで、正しくは「戦いの火蓋を切る」といいます。「火蓋を切る」の意味は「戦いや競争を始める」(『明鏡国語辞典 第三版』より)です。


 この作品には原作の小説があって、そちらは分かりやすくかつよく練られた文章で書かれています。ゆえに「戦いの火蓋が切って落とされた」という表現が使われていたのが驚きだったのですが(映像作品のチェックをする人は違うので仕方がないのですが)、それくらい広く使われているということかもしれません。


「火蓋が切って落とされた」というのは、「幕を切って落とす」という言葉と混同したものだと言われています。「幕を切って落とす」の意味は「はなばなしく物事を始める」(『明鏡国語辞典 第三版』より)です。「歌舞伎で、開演の際、幕の上部を外して一気に落とすことから」この言葉が生まれました。


 二つの言葉の意味を並べてみると違うことが分かりますが、「火蓋を切る」と「幕を切って落とす」には、「切る」という言葉があって、それが人々のなかで繋がってしまったのかなと素人なりに思います。


 ちなみに、「火蓋が切って落とされた」という表現が広まりつつあるのか、『三省堂国語辞典 第八版』にはこの表現も容認されているようでした。

 しかし、私がいつも使っている『明鏡国語辞典 第三版』には「誤り」と記してあり、『新明解国語辞典 第八版』に至っては「火蓋が切って落とされた」の表現すらも載っていませんでした。

 一般の人が会話のなかで使うのであれば気にしないのかもしれませんが、しっかりとした文章にはそぐわないということかもしれません。


 皆さんは、「火蓋が切って落とされた」についてどう思うでしょうか。

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