第43話 修学旅行②

「えっ、斗真……別れるって」


「別れるというよりは、正式には距離を離れよう、ってことかな。お互いの関係を見つめなおすというかさ……自分のことをもう一度考えてみてほしいんだ、カラメルには」


 カラメルには俺と離れて一度見直してほしい。


「そう、なんだ」


「言っておくけど、俺はカラメルの事が好きだ。でも少しカラメルには考えてほしいんだ、俺のわがままでごめん」


 単なる俺の“エゴ”であって、とても申し訳ないと思う。だけど、こうするしか俺は考えられなかった。


「じゃあいいじゃん。別れなくても」


「いや、俺らは距離を取るべきだと思うんだ。カラメルの“重い”愛情が悪い方向に作用する前に」


「……うん」

 カラメルはしぶしぶ納得してくれた。


「まぁ、カラメルが冷めて俺と違う奴に行くならしょうがない。それだけ俺は、覚悟している」


 これでお互いの恋愛が別方向に行くなら、俺とカラメルは合わなかったってことだろう。恋愛はやっぱり、難しい――




「ふわあぁぁ、よく寝たわマジで」


「おはよう、祐樹。ずっと熟睡してたな」


 バスは岡山駅に着き、ここから新幹線に乗る。新幹線も祐樹と隣だ。まぁ、新幹線になると貸し切り状態だし、バスと違って広かったりするので移動する生徒も多そうだ。


「いや眠くてな。新幹線では斗真の話相手になってやるよ」


「おお、助かる」


 ここで俺は、皆にカラメルの件を話すかどうか、という問題に悩まされる。現時点で知ってるのは、俺と東雲さんだけだが。

 ただ、祐樹に話すのは悪手かもしれない。祐樹はここで瑞希に告白しようとしている。それが台無しになる可能性もある。

 なら、真緒か? いや、振った相手に言ってどうするんだ。


 一方、カラメルの様子は……意外と平常だった。言ってみれば、前の友達との距離感になったのと同じ感じだ。ただ気まずさはあるが。まぁ、これは俺のせいだからな。しょうがない。

 東雲さんも色々とサポートしてくれるみたいだし、ここは言葉に甘えて任せよう。







 新幹線に乗る練習、という意味の分からない単語を思い出す。修学旅行で大人数という事で、新幹線が来た時にスムースに乗れるように流れを確認したり、並ぶ練習をする。ただ、そんな練習は無意味だと思う。やっぱり実際は違うしな。


「結局、練習とか何なんだろうな」

 俺は、前にいる祐樹に話しかける。


「あぁ、あれな。人も多いし、とりあえず乗る事ができたらいいよな。やっぱ、練習と本番は違うしな」


 練習と本番、というのは全く違う。緊張感、雰囲気、ミス……どれだけ練習で準備して学習したところで、本番でミスをすると台無しになってしまう。

 まさしく人生は、学習と発表の繰り返しだ。色んな事を体験したり、行動したり、学んだりする中で色々と自分を形成していく。それで色々と実践する。受験、大会、告白、就活……そこで自分というものを発表していき。認めてもらおうとする。



 そこでの成功、失敗を通してまた学習し、また挑戦していく。人生はその繰り返しだ。成功と失敗しかないこの世界は本当に大変だ。夢というものを持たすだけ持たせておいて、現実は厳しい。


 人間は、学ぼうとする意識がなくなると終わりだとよく言われる。なぜなら、人生には常に学習していけないといけないから。人間は、失敗を糧に成長していかないといけない。同じ失敗をしないように。




 新幹線に乗り、祐樹と座ったはいいものの、何だか祐樹はソワソワしている。まぁ、察しはつくけど。


「祐樹、瑞希と話したいんだろ。誘って2人で話したらどうだ?」


「な、なんで分かった!? い、いや俺は斗真の話相手になる、ぜ」


「いやなんか席移動してる奴、羨ましそうに見てたし。俺の事は気にしなくていいからさ」


「た、助かる!」


 どうやら祐樹の誘いは上手く行ったらしく、祐樹が座ってた席に真緒が来た。


「やっほ、あー君」


「すまんな真緒。友達想いなもので」


「いやいや、こっちとしても話し相手ができて嬉しいよ」


「どういうことだ?」


「いやー瑞希ちゃんもさーずっと寝ちゃってたからさ。暇だったんだよね」


「あー想像つくな。まぁ、寝てた仲としても上手く行ってくれるといいな」

 瑞希も何だか分からないが寝そうだよな。優等生だから、そう思うのだろうか。


「ところであー君」


「なんだ?」


 俺は油断していた。所詮くだらない事だろうと。ただ、真緒はそれを上回る爆弾発言をする。


「芽瑠ちゃんと別れたの?」


「っゲホッゲホッ……なんでそれを」

 あまりにも予想外の言葉に、飲んでいたお茶が変な所に入る。


「なんか途中から不穏な感じして、こっそり盗み聞きしました。ごめんね」


「ま、それは俺の責任だから気にしなくていいよ」



 すると、真緒は少し身体を寄せて


「ありがとうあー君。まぁそんなことよりあー君は、今、形式上彼女がいないわけだ?」

 と言った。


「まぁそうなるな」


「だったら私と付き合う?」


「そんな軽薄じゃねぇよ」

 俺は今もカラメルの事が好きだし。そりゃあ、思わない事もないといえば嘘になるんだけど。


「えへへ、そうだよねあー君は。まっ、でもチャンスかな」


 俺は、真緒にも意見を聞いてみようと思い、質問する。


「真緒はこの事についてどう思う?」


「うーん、難しい質問だねぇ。どっちの感情もよく分かるからなぁ、何とも言えないかもだな」


「そうか」

 それぞれの考えや価値観はどうしてもあるからな……


「まぁでも、“重い”っていうのはどうしても良いほうにはさ、なかなか作用しないからね。束縛とかヤンデレ化したらそれはもう、恐ろしい」


「そりゃあなぁ」

 それで事件になったら笑えない。


「でも好きな人を思い続けるとそうなっちゃうよね、とも思う。私もどちらかと言うとそっち側だし」


「真緒と付き合ってもこうなってたのかな?」

 俺はただの興味本位で真緒に聞く。


「どうだろーね。私はでもあー君を許容したいっていう気持ちだから、基本自由にさせてるかも。それで浮気してたら怒るけど」


「なるほど、な」

 本当に人それぞれだな、って思う。


「恋愛はパズルじゃないからねぇ。絶対にどこかで嫌なところが出てくるからさ。いくら理想の相手でも、好きな人でも、そうそう上手くいかないんだよ。上手く行ってる人は、どこかで我慢したか、分かり合って解決したか、許容したか。この三パターンなんだよね」


「難しいな」


「ほんとにね」



 まだまだ移動時間は続く――


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