第11話 ヒロインたち

 皆にとってはいつもの変哲もない1日。ただ俺はそうもいかなくて。






「おはよっ、安佐川君」


 今日も登校してきて、いつも通りカラメル……じゃなくて久遠さんが話しかけてきた。

 昨日、告白してくれたんだよな。この俺に。


「お、おはよう」

 なんて話していいか分からず、戸惑ってしまう。


「気にしなくていーよ。いつも通り接してくれれば」


「そ、そうか」


「返事は、ほんと好きな時でいいよ? 待たされすぎるのも嫌だけどね?」


「わ、わかった」

 未だにこの状況は、夢ではないかと思うぐらいの非日常で。

 こんな俺を好きになってくれる人がいて。


「私の心に嘘はないから。じゃ、またあとで話そ!」

 

 俺は一体どうしたらいいのか。

 初めての出来事で戸惑って分からない。

 






「おはよう斗真君、昨日はありがとう」

 色々深く考えていると、瑞希が登校してきた。


「ああ、瑞希か。全然大丈夫だよ」


「それよりどうかした? 何か考えているようだったけど」


 俺は瑞希に聞くことにした。。



「瑞希はさ、俺のことをどう思う?」


「え、えと良い人だと思いますよ」


「そ、そうか。じゃあ俺に彼女ができるとしたら?」

 素直に褒められて、少し驚いたが続けて質問する


「別にぜんぜんおかしくないと思う……よ? あれ、もしかして?」


「いや違うんだ、仮にの話」

 久遠さんに告白されたことは流石に言えない。


「ならよかったです」


「よかった?」

 何がだろう?


「斗真君に彼女が出来るのは、ちょっと嫌ですから」



「全く、異性の気持ちは分からん……」

 なんで瑞希も“そんな顔”するんだよ。

 本当に異性の気持ちを理解するのは難しい。

 




 


 今日からは、体育祭まであと2週間ということもあり、練習などの時間が授業に代わってある。俺にとっては勉強しなくていいので、神展開と言える。



「おっ、祐樹。リレーの練習か?」

気合を入れて、靴紐を結んでいる祐樹を見かけた。


「昼飯前だからあんまり走りたくないけどな。やっぱ練習しとかないとダメっしょ?」


「頑張れよ」

 やっぱり祐樹は凄いな、などと思っていると


 


「やっほ」

 と後ろから急に話しかけられる。


「うわっ、びっくりした……なんだ久遠さんか。久遠さんもリレー出るんだっけ?」


「そうだよ。まぁ今日は、とりあえず生徒会種目についての説明を聞かないとだからね。唐沢さんが連れてきてって言ってた」


 あれ? と俺はここで一つの違和感を感じた。


「あぁ、分かった」

 これが気のせいだといいんだけどなと思いつつ、とりあえずスルーする。


「てか、距離感もっと詰めたいんだけどさ、いいかな?」


「それ、って例えば?」


「せっかく告白したんだからさ、名前ぐらい呼んでほしいよね。特に好きな人にはさ」


「え、とじゃあこれからは真緒、でいいか?」

 前も急になったと思いつつ、確認も込めて名前で呼ぶ。


 というと、久遠さんは黙ってしまった。




「「………………」」



「あのさ、安佐川君。そうやってすぐに呼ぶの、ほんと反則」

 


「いや、まぁそういうなら呼ばないといけないかなって」


 羞恥心を捨てることが重要だと前の件で学びました、はい。



「うーん、斗真?」

 と今度は、真緒が名前で呼ぶ。


「なんだ?」


「いや、違うなぁ。もっと、あだ名とかそういうのがいいのかな……」


 何やら凄い迷っている様子だった。


「普通に呼び捨てでいいよ」


「いやさ、それは取られてるといいますか。こっちの事情があるからさ」


 どうやら色々な事情がまたあるらしい。

 女の子はよく分からないが大変だな、などと思っていると、


「あっ、じゃこれは? あー君とか!」

 名案だ! と発明家のように言う真緒。


「なんかめっちゃ恥ずかしいな……なんかバカップルみたいで」

 と、思わず言ってしまった。


「あはは、いや告白した人にそれ言う!? いいじゃん可愛くてさ」


「いやそうか? まぁ、別にめっちゃ嫌ではないけど、恥ずかしいというか」





「なかなか来ないと思ったら、何、イチャイチャしてるのかな?」


 ひえっ、鬼。




「唐沢さんごめんごめん。ちょっと色々話過ぎちゃった」


「まあ、久遠さんに頼んだ私にも責任はあるし。じゃあこれ。これは先輩が作った今年の競技の説明のプリントだから読んでね」


 と、プリントだけ渡されて、カラメルは去っていった。


「いやそれだけなら、別に呼ばなくてもよかったんじゃ?」


「まぁ、いいじゃん。えーと、生徒会種目は、二人で進んでいく感じだね。最初は、テニスのミニラリーして、段ボールを飛び越えたり、ネットをくぐるとかの障害物競走みたいなのがあって……二人三脚して……うん?」


「なんだこれ? 最後はシークレット!?」

 競技内容が色々書かれている中、最後だけ“お楽しみ!”と書かれていた。


「あー君大丈夫? いけそ?」


「うーん足引っ張るかも……てか本当にあー君って呼ぶな、恥ずかしい」


「えぇ、いい呼び方だと思ったのになぁ。まっ、それは取っておくとして、とりあえずは安佐川君でいいか」


「結局そこに落ち着くんかい。俺は名前で呼ぶのに」


「まあ、安佐川君なら人目も気にしなくてもいいでしょ? でも、2人の時は」


 小悪魔のように真緒は笑って、



「あー君って、呼ぶかもね? じゃ、私もリレーの練習してくるね」





「さっきのは反則だろ……」

 と独り言を呟きながら、ぼーっと練習を見ていると


「斗真君。何じろじろ見てるんですか。えっち、です」

 走り終わって、休憩していた瑞希が寄ってきた。


「それやめなさい。てか誤解だ、俺は何も悪くない。瑞希もリレー出るんだな」


「出てみようかなって。思ったからね」


「いいじゃん。そういや他に誰が出るんだ?」


「久遠さんとカラメルさんと、あと東雲しののめさんかな」

 ちなみに東雲さんは、バスケ部の女子でそこそこ運動の出来る女子だ。


「斗真君が助けてくれたから、ね。私は新しい世界を知りたいし、頑張りたい」


「そう、か」


 すっかり変わってしまった瑞希。

 もう俺なんか、いらないのではないかと思えるぐらいで。

 けど。瑞希は俺を大切に思っていてくれて。

 

「だから、ずっと見守っててね?」









 体育祭練習を終え、昼食の時間。 今日からは真緒を加えての昼休みだ。


「皆よろしく。久遠真緒です! 気軽に好きなように呼んでね」

 

 久遠さんは今の状況をどう思ってるのだろうか。

 親友とかは欲しいけどとは言ってたけど……昔の事件のこともある。

 あ、あと俺の告白の件、もあるよな……


「よろしく、久遠さん。俺のこともなんでも自由に呼んでくれ」


「ありがとう円谷君!」


「私も好きなように呼んでくれれば」


「ありがとう、桜葉さん! もっと可愛い呼び方の方がいいかな? ミズちゃんとか」



「いいんじゃないか」


 瑞希や祐樹とも見る限り上手くやっていけそうで、とりあえずひと安心した。


「安佐川君は、そうだなぁ。あー君とかいいんじゃない?」


「グフッ」

 思わず、食べていたご飯が喉に詰まる。


「ごめんごめん。ついふざけちゃった」

 そういいながら、俺だけ気づくようにピースサインをする真緒。

 本当に心臓に悪いよ……


「唐沢さんはやっぱりカラメルちゃんかな? いや、芽瑠ちゃんの方がいいかな?」

 

「……」

 カラメルはどこか心ここにあらず、といった感じだった。


「カラメルどうした? さっきからずっとぼーっとしてるというか、黙ってるというか」


「あぁいやなんでもない! ちょっと疲れたな、って思ってただけだよ」


「まぁ、確かに疲れたね。それでどんな呼び方がいい?」


「久遠さんの好きなのでいいよ」


「じゃあ、芽瑠ちゃんで」


「わかった」



 



 昼食後、俺はカラメルに話しかけた。

 理由は一つ。カラメルが変だからだ。

 いつもは良く話しかけてきたりするくせに……





「カラメル、今日なんか変だぞ。俺を避けてるような、っていうか」


「何? それじゃあ、斗真が私を必要としてるみたいじゃん」


「必要、だよ。友達じゃないのか?」

 何言ってんだよ、お前は。


「それは、そうだけど。別に何もないよ」



俺は、暗い雰囲気を変えようと話を変える。



「ま、まぁとりあえず今週末、楽しみだな」


「あ、それ急に予定入っちゃったからまた今度ね。ごめん」


 そういってごまかし続けるカラメル。


「お前は何が言いたいんだ? いい子ぶってさ、本音は何だ?」


「人間誰しも秘密はあるでしょ。そんなこと言ったのは斗真じゃん」


「それは、そうだけど」

 確かにそれはそうなんだが……


「どうせ、皆私のことなんて大事にしてないし! 関係ない斗真は黙っててよ!」


「大事に決まってるだろ、バカ!」


「うるさいうるさいうるさい! 私の気持ちなんか誰も分からないくせに!」


 止まりたくても止まれない。

 俺は、止まれずに



「そこまで言われると、しゃーないな。知るか、バカ。絶交だ」

 と言ってしまった。


 

 

 本当はこんな事言いたくないのに。






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