【第一部】第三十一章 稲姫と琥珀の出会い

――団子屋の軒下――



「おや? 新しいお客さんにゃ?」


 泣いている稲姫いなひめの顔をのぞき込み声をかけてきたのは琥珀コハクだった。


 オレンジ色のボブカット髪をした少女であり、猫耳としっぽが生えている。着物の袖丈そでたけすそを短く整えており、見た目すごく快活かいかつそうだ。

 

 稲姫はビクッとしながら、初めて見る琥珀に驚き、隣に座る神楽カグラに視線で助けを求める。


「琥珀。戻ってきてたのか」

「さっき戻ってきたところにゃ」


 神楽と琥珀が親しげに会話している。稲姫は少し疎外感そがいかんを感じ、下を向く。


「稲姫。こっちは琥珀。俺の仲間だよ」

「よろしくにゃ♪」


 カエデと同じように、握手を求められ、稲姫も手を出して応じる。


「よ、よろしくでありんす」



――これが、稲姫と琥珀の出会いだった。



「なるほどにゃあ……そいつ、許せないにゃ」


 琥珀の分のだんごも注文し食べ終えると、稲姫がここに来た経緯を神楽が琥珀に話して聞かせる。話を聞き終えた琥珀は、たいそう怒っていた。


「そいつらは『神の力を集めている』とも言ってたそうなんだ。俺達としても無視できない」


 他人事ではない、とあらためて神楽は言う。


「それで長老に今から話しに行くところさ。――その前にちょっと腹ごしらえをしてるけど」


 琥珀はふむふむとうなずき――


「じゃあ、うちも付いてくにゃ」

 


 断る理由もないので、神楽は琥珀も加えて、だんご屋を出て長老の家を目指した。


 

「おお。神楽、今日はどうしたのじゃ?」

「長老はおられますか?」

 

 村里の奥にある大きな屋敷、長老宅につくと、神楽は「ごめんください」と戸を叩く。中から族長の奥さんが出てきて神楽達を出迎えた。


「奥におるぞ。話があるんじゃろ? 入りんしゃい」


 奥さんに案内され、神楽と稲姫、琥珀は屋敷内を進む。中庭には"ししおどし"やこいの泳ぐ池があり、稲姫が物珍ものめずらしそうに眺めていた。やがて、一同は大広間のふすま前まで来て奥さんが襖をノックする。


「お前さん。神楽と琥珀、それとお客さんがお見えですよ」

れろ」


 襖の奥から威厳いげんある声がかかり、奥さんが襖を開ける。


「よく来たな。とりあえず入れ」



――長老に声をかけられ、神楽達は稲姫が巻き込まれた事件について相談するため、大広間へと入るのだった。


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