【第一部】第二十一章 ラブレター?
アレン達三人は魔法を大幅強化することができた。これも、稲姫が来てくれたおかげだ。
そういう意味では、稲姫と再び会うきっかけになってくれたミハエルには感謝だな。――ただの成り行きだけど。
それからしばらくは平穏な日々が続いた。朝、アレンの布団にもぐり込んでいる稲姫を起こすのも日課になってしまった。エリスにバレたらヤバそうで、それを考えると悪寒が走るが……。
このところ、稲姫大好きっ子のクレアともよく話すようになっていた。おやつで餌付けされたのか、稲姫の方も、まんざらでもなさそうだ。黙ってスキンシップを受け入れている。
「いいなぁ。私も狐ちゃんみたいな子が欲しいなぁ。ねぇ、本当にもう一体出せないの?」
「無理だよ。この子だけ」
『そっか~』と、いつもの様に他愛もない会話をする。そう、この時までは平和だったのだ。
それからさらに数日が経ち、――事件は唐突に起きた。
◆
朝登校すると、いつもアレンと稲姫を待ち構えているクレアの姿がない。まぁ、たまにはこんなこともあるだろう。もしくは、『ついに飽きたか』と、それ程気にはしていなかったが――
教室に入り、クラスメイトとあいさつを交わしながら、自分の席につく。アレンはカバンから取り出した中身を机に入れようとするが――
――カサッ
机の中で何かが指に当たる。『ん? 何か忘れ物してたっけか?』といぶかしみ、アレンは机の中に入っている物を無造作に取り出した。
手紙の封筒だ。差出人はわからない。だが、可愛らしいハートマークのシールで封がしてある。
(――こ、これは……まさか!?)
『都市伝説として語り継がれている、“ラブレター”というものではないか!?』
い、いやいや……一旦落ち着こう。ガッつくのはみっともない。何はともあれ、一人になれる場所に行き、中身を確認しようじゃないか。
アレンは何気ない仕草を装い、封筒を上着のポケットに突っ込み立ち上がるが――
◆
「よう! もうすぐ始業だぞ? どこか行くのか?」
カールだった。『ギクッ!』という擬音が聞こえそうな程、アレンの体が飛び跳ねる。
「い、いや。ちょっとトイレにな」
カールに目線を合わせず返答する。それは長い付き合い故の勘だろうか? カールが目ざとくアレンの上着に目を向けた。
「何かあるのか?」
「い、いや、何もないぞ!?」
思わず、アレンは封筒を入れた上着のポケットを手でおさえてしまう。
「そっか~」
「ああ。じゃあ、これで――」
「せや!」
カールが急接近し、いつの間にか俺の上着からブツが奪われていた。
「あ、ちょっ! 待っ――」
アレンが手を伸ばすも、カールにうまくかわされてしまう。
「どれどれ? 何を隠してたんだ?」
カールはブツを目の前に持ってきて確認する。――と、動きが止まった。
「わ、悪かった……」
気まずそうにアレンに返そうと封筒を差し出してくる。
「いや、いいんだ――」
ほっとしながらも封筒を受け取ろうとアレンが手を差し伸ばした、その瞬間――
◆
「ん? これがどうかしたの?」
カールの手からブツが奪われた。――いつの間にか近くに来ていたエリスに!
封筒を手にして確認したエリスはワナワナと震えている。
「こ、これはなぁに?」
笑顔だけど、口元は引きつっており、うまく笑えていない。
「い、いや、なんと言えばいいか――」
カールが気まずそうに俺を見る。それを見たエリスも察したようだ。
「――そう。そういうこと……」
うつむきながらそう言い、エリスはアレンに封筒を差し出してくる。
「よ、良かったじゃない?」
手がプルプル震えている。とりあえず、アレンも封筒を受け取る。
「あ、ああ……」
同時、教官が教室に入ってきた。
「HR始めるぞ~」
◆
HRが始まり、アレン達はそれぞれの席に着席した。その後の一限目の講義も、いつもの様にこなしていく。――少なくとも、表面上は。
実際には、アレンは後方からの視線をずっと感じており、居心地は最悪だった。一限目が終わり休憩時間になると、アレンはイソイソと一人でトイレに向かうのだった。
個室に入り封筒を開ける。稲姫にはエリスのところに行ってもらっている。男子トイレには連れていけないので、いつもトイレに行く際は、エリスに少しの間、預かってもらっているのだ。怪しまれないように、なるべく早く戻らないと。
手紙にはこう書いてあった。
『貴方にお話ししたいことがあります。
放課後、一号棟校舎裏の木の下でお待ちしております。
お一人で来てください。――クレア』
「こ、これは……!」
手紙を持つアレンの手がぷるぷると震えた。
(ラブレターだ! しかもクレアだと!? 今朝、校舎の玄関にいなかったのは、そういうことだったのか!?)
それに、一号棟校舎裏の木の下と言えば、学校でも有名な
(こ、これはやはり、そういうことなのか?)
アレンは手紙を封筒に戻し、上着のポケットにしまった。
そして、何事もなかったかのように教室に戻り、その後の講義も平常心を心掛けながら無難にこなした。
――そして、放課後になる。
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