【第一部】第一章 エクスプローラー


――ガタッ!


 大きな音を立て、アレンは跳ね起きる。周りを見渡すと、顔馴染みのクラスメイト達が驚いた顔でこちらを見ている。――どうやら講義中に居眠りをしていたみたいだ。


 教壇にいる中年男性――教官が静かにキレている。


――気まずい。だからと言って、軽く頭を下げる以外にやれることはない。アレンはそれだけ済ますと、手元の教科書をただ見つめる。


 こういう時は堂々とするのが一番だ。教官だってさっさと授業を再開したいのだ。――教室のあちこちからクラスメイトのしのび笑いが聞こえてくるけど、気にしない。



 あの夢――幻想的な光景の中で少女が語りかけてくる――は最近何度もみているが、あれは一体何なのだろうか……。


 そんな何度も繰り返してきた自問にアレンが没頭しはじめた頃、隣の女子――エリス。茶髪ツインテールの少女。少しつり目気味なのを気にしている――が焦った顔でこちらに何かジェスチャーをしている。


 訳が分からずアレンが問いかけようとした瞬間、答えの方から話しかけてきた。



「アレン君……? 私の講義は退屈かなぁ?」


 教官だった。わざわざ席にまで来るとは思わなかった。先程邪魔してしまったのは悪いと思うが、そこまで根に持つ様なことか?


 余談だが、後でエリスから聞いた話では、アレンが起きた後、教官は何度か設問を投げ掛けていたらしい。

 

 アレンが思考に没頭して気づかなかったところ、無視されたと思い込んだ教官は更にキレ、席まで注意しにきたのだと……。


「すみません。体調管理が不十分でした。気をつけます」


 素直に謝っておく。揉め事を起こしたい訳じゃないからな。


「はぁ……もういいからこの設問に答えて」


 この時点で初めて問いを投げ掛けられていたことに気付く。どれどれ……教室の前にあるスクリーンを見る。そこにはこう書かれていた。



――“エンハンスドデバイス”の機能について答えよ。


 エンハンスドデバイス――俗に“デバイス”と呼ばれる装置は“エクスプローラー”の必需品となっている。


 エクスプローラーはこの世界において“真理の探求”、“未開拓地域の発見”、“危険生物の駆除”など幅広い活動を行っている。


 危険が伴うことも多いため資格化され、年に一度の試験に合格する必要がある。


 デバイスはエクスプローラーの能力や経験、実績の記録管理を目的に作られたものだが、“エンハンスド”とついているように今のデバイスは進化しており更に凄い。


 今までに様々なエクスプローラーが経験して蓄積したデータから対象物の登録情報を検索し表示したり――モンスターが対象だったら危険度や特徴、弱点もわかる――使用したスキルの強度から練度を算出し表示することもできる。


 未知の発見に対しての報奨もデバイスの記録提供をもとに行われる。エクスプローラーとして欠かせないアイテムだ。



 ということを、アレンはつらつらと教官に回答した。教官は少し苦々しげに舌打ちし――


「はい。彼の言う通り、デバイスはその利便性だけでなく実績の証拠にもなることから、エクスプローラーの必需品となっています。これが支給されるのは、試験に合格し正規にエクスプローラーの資格を得た人だけです。皆さんも励むように」



 教官のその言葉を最後に、講義終了のチャイムが鳴り響いた。

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