第10話
「車を用意してもらいましたのでそれで行きましょう」
港にはランドクルーザーだろうか? 車には詳しくなくてわからないが用意されていて、俺達はそれに乗り込んだ。ちなみに、運転はティアさんだ。
「向かう場所は観光客用の施設で必要な物は全部そろうと思います。私が居なくてもDギアにある翻訳機能を使えばある程度はどうにかなると思います」
Dギアには翻訳機能が搭載されていてある程度なら通訳してくれる。文明の力は偉大なのだ。
「ちなみに、わかってると思いますが武器はちゃんと見られないように気を付けてくださいね? 私やエミリアさんの外見もありますし目立つのは避けたいので」
「わかってます、てか持たなくても大丈夫じゃ?」
「そこは何があるかわかりませんからね……」
物騒な話である。
「着きました、Dギアのマップ機能でわかると思いますけど、迷ったらここ集合でお願いしますね。あと、何かあった時のためにゲンジさんに車のスペアキー渡しておきますので、何かあったらお願いします」
「わかりましたぞ」
一応ゲーム内では俺もミコも運転していたが、このメンバーの現実での免許を持っているのはティアさんとゲンジさんだけなのだ。
「それではまずはショッピングです!」
「おー!」
やはり女性陣は買い物が好きなのだろう速攻でお店を回り始めた。言葉が通じず、黙りぎみのエミリアもレミィが気にしてるようで一緒に楽しんでいるようだ。
「バラット殿は、どう思いますか?」
「とってもほほえましい女子の買い物の荷物持ちって感じです」
はははとゲンジは笑ってみせた。実際そういうどう思う? ではないだろう。
「昨日日本で魔獣が現れ、大騒ぎだったのにこっちはそんなこと無かったかのように平和。まるで報道されていないようです」
「実際報道されても怪獣映画と同じ感じじゃないですか? 結局は他人事なんだと」
知られたところで結局は自分たちに被害が出ない限り何も変わらない、それが人間なんだと思う。
「そうなんでしょうけど、虚しいですな」
ゲンジさんは優しい人だ、でも世界は残酷なのだ。
「失敬、今は買い物を楽しみましょう」
「そうですね」
その後も様々な店を回って女性陣の荷物がとんでもない量になっていったのは言うまでもない。
「あの~お嬢様方、そろそろ車に戻りませんか?」
「まだ、全部回ってないし」
「すみません、もうちょっと!」
レミィも女の子だった。言葉は通じなくてもエミリアも思いっきり楽しんでいて、それはいいことだ。
「わたくしが一度車に荷物を置いてきますので、バラット殿は見ていてください」
「すみません、ゲンジさんお願いします」
そう言ってゲンジさんは大荷物を抱えて車に戻っていった。
「あら? ゲンジさんはどこかへ?」
「溢れたので荷物を一度車に」
「なるほど、あとでお礼いわないとですね」
ティアさんが歩いてきた。
「ティアさんはもういいんですか?」
「はい、一通りは。それに同年代の方たちとお買い物って初めての経験だったのでとても楽しいです」
「そうだったんですね、てっきりお姉さんだと思ってましたよ」
「あら? 私こう見えて二十四なんですよ?」
「同い年!?」
びっくりした、正直二十七くらいでお姉さんだと思ってた。
「だから別に敬語とかつかわなくていいんですよ?」
「それはティアさんもじゃないですか……」
ふふふとティアは笑ってみせた。聞いたところ俺とミコ、ティアさんが同い年でレミィが二十。ゲンジさんが二十八とのことだった。ちなみにエミリアは三百八十九とのことだった、やはりエルフが長寿なのはファンタジー通りらしい。
「話には聞いてましたが、日本の方は私たちのような亜人種に抵抗があまりないですよね」
「むしろ会いたいと思ってたくらいですよ」
実際非現実の存在である獣人やエルフが居てくれたらいいのにと思うほど憧れはあった。実際会ったら超美人で友達が居たら自慢できる、居たらだが。
「どうかしました?」
「なんでもないです!!」
そんな話をしていると屋台やファーストフード店の並んでいる場所だろうか? 何か騒ぎになっているような大声が聞こえてきた。
「なにか騒ぎですかね?」
「そうみたいです」
俺はインカムを取り出し耳に装着し、Dギアの翻訳を起動させた。
「なんでここに軍が?」
「なんか怪しい女が居たんだと」
「そういうのって普通警察じゃないか? なんで軍が来てるんだ?」
嫌な予感がしてきた。
「ティアさん、軍の方でなんか話は聞いてますか?」
「いえ、それどころか本日はレクティスの搬入もあってそれどころではないはずですけど」
「バラット、どうしたの?」
騒ぎを聞きつけたのか買い物をしていたミコ達も集まってきた。
「ちょっとヤな予感がね……」
「行ってみますか? もしかするともしかするかもしれません」
「私も行く」
「レミーアさんはエミリアさんと一緒に居てください。あと、ゲンジさんに連絡して合流を」
「レミィでいいですよ、わかりました。ゲンジさんと合流します」
ティアさんがそのあたりのことをエミリアに説明してくれて彼女も頷いて見せてくれた。
「じゃあちょっと見てくるね、いこう!」
俺、ティア、ミコの三人は騒ぎの方へと近づいて行った。野次馬をすり抜け、騒ぎの中心に近づくと次第に声が聞き取れるようになってきた。
「とにかく、一緒に来い!」
「ドゥラ!! バフォランテ!!」
翻訳機能を使っているのに機能していない? まさか……ティアを見やると。
「なんだ、近づくな。と言っています」
「異世界人、ってことはあの軍人は」
「偽物?」
「恐らく、私達もここに居るのは把握できていませんでしたが……」
「バフォランテ!! クエンエジョリアス!!」
マントにフードの声的に女性であろう異世界人はそう叫ぶと急に走り出した。
「おい待て! くそっ足を狙え」
足を狙え? まずいだろ!? 俺は銃を構える兵士の元に飛び込み一気に銃身を掴み下へ向けた。それと同時に銃は発砲され驚いた野次馬は逃げ出しあっという間に大騒ぎとなっていく。
「何だ貴様!? 邪魔するな!!」
「こんなところで急に撃つ馬鹿がいるかよ!」
「うるさい!」
もう一人がこっちに向けて銃を構えてくる。しかし次瞬間、兵士二人は膝から崩れ落ち動かなくなった。気を失ったらしい。
「流石の反応速度です、お陰で被害も最小限になりました」
そこにはティアが立っている、手にスタンガンを握りながら。しかも一撃ノックアウトの状況からしてめちゃくちゃ強力なのを。
「いつの間に……」
ティアに苦笑いしつつ握っていた銃を奪い取り、それを見てみると形状はM4に似ているが恐らくメールドライバーズに出てくる現行銃と見た目は似てるが別の高性能品M4αだと思う。
「確定、かな……どうします?」
「できれば保護したいです。私達の知らない情報を持っている可能性が高いですし、兵がこれだけとは思えません」
「しかも逃げた先が密林地帯、早く追わなきゃ見失う」
この区画は密林と隣り合わせで下手をするとあっという間に迷子になってしまう立地だった。
「急ごう」
俺は銃をミコに投げ渡した。
「はい!」
「了解~」
密林地帯に三人で突入するとすでに戦闘は始まっているらしく銃声が聞こえる。急がなければ手遅れになるかもしれない、バックから銃を取り出しながら音の方へと向かって行く。
「ミコ、いつも通りで」
「了解~」
「ティアさん、行きましょう」
「はい!」
姿勢を低くし、草に姿を隠し様子を窺いながら距離を詰めていく。
「できれば生きて捕獲したい、足か腕を狙え!」
やはり人数は把握できないが複数居るようだ。フードの女性もおそらく確実に追い込まれている。
「大人しく捕まれば痛い目見ずに済んだのによ!」
銃を構え一人の兵が女性の正面に飛び出す。女性はその瞬間右に飛び、フードがめくれ上がった。
「えっ!?」
その容姿は銀髪の髪をポニーテールに結び、その髪を際立たせる褐色の肌に鋭い目つき。そして何より、エミリアと同じ長い耳が見えた。
「ダークエルフです、まさか彼女らもこっちに来ていたとは」
ダークエルフ、エルフの近縁種として描かれることの多い言うなれば闇エルフだ。
「ウィドゥンバース!」
ダークエルフは飛び出して来た兵に向けて叫びながら手を振り抜いた。
「ぐはっ!?」
すると兵は急に吹き飛ばされ、木に激突した。
「ウィンドシュート、魔法です」
「あれが、初めて見た」
アニメやゲームではよくあるが実物を見るとやっぱ迫力、というか雰囲気が全然違う。
「構うな! 囲め!!」
兵たちは魔法に怯むことすらなくダークエルフを追い詰めていく。
「アイシィビオッツ!」
彼女の周囲に氷の槍が複数現れ、それが正面の兵に向けて飛んで行く。少しは痛いようだが槍は防具に阻まれ貫通しなかった。
「捕獲しろ!」
その瞬間に俺は彼女の正面に居る兵目掛けて飛び出し、背後に張り付き顎から頭部目掛けて拳銃をゼロ距離で撃ち込む。
「なんだ!?」
「落ち着け、新手だ! あっちは殺して構わん!」
急襲に驚いてはいるがすぐに状況を把握したらしく対応してくる、腐ってもプロということだろう。
「物騒なことで」
俺は動かなくなった盾の襟首を持ち上げ弾丸を防ぎながら拳銃で牽制をする。そうしていると一人、また一人と敵の頭がぐらつき崩れ落ちていく。
「気を付けろ! 敵もひっ……」
ミコはアサルトライフルで精確に奴らの耳の辺りを撃ち抜き確実に仕留めていく。俺とミコのいつもの作戦が見事に刺さっていく。
「くっ、何としても標的だけは確保しろっ!」
「こんにちは」
ティアは声に振り向いた兵の首をそのままナイフで切り伏せる。いつもはミコと二人だが、今回はティアという凄腕の前衛がもう一人いるのだ。
「さようなら」
こう見るとティアは結構怖いかもしれない。怒らせたくないなぁ……
「くっそっ!?」
ティアがダークエルフの安全を確保してくれている。その隙に盾を捨てて最後の兵の元にナイフを抜きながら飛び込む、すれ違いざまに首を確実に切り裂いた。初めて人を殺したはずなのに躊躇が全くなかった、切った感触すらゲームと一緒でここまでくると感覚がバグってしまう。命の重さがゲームと変わらなくなってしまうのは恐怖でしかない。
「とりあえず、周辺のやつらはこれで全部かな」
ダークエルフの彼女を見ると苦無のようなナイフを構えて警戒しているようだった。
「私にお任せを」
そう言うとティアは帽子を脱ぎ耳を見せて向こうの言葉でダークエルフと会話をし始めた。最初は警戒していたがティアと話しているうちに味方だと理解してくれたようで武器をしまってくれた。
「クエンダ! ボアクエンダ!!」
「ティアさんなんて?」
隠れていたミコも合流してティア達の会話を待っていると突然大声でダークエルフの彼女はティアに縋り付き、懇願するように叫んでいた。
「どうやら彼女の国のお姫様が囚われているようで、それをどうにか助けたいみたいなのです」
「倒した奴らの装備がゲームと同じなのをみるとたぶんヨハネですね」
「私達の作戦的に利害は一致している」
「そうですね、でもとりあえず場所を移しましょう。敵がまだ居るかもしれませんし」
実際確認できる敵は全員倒したがまだ隠れている可能性は十分あり得る。
「ねぇ、なんか聞こえない?」
「えっと……」
エンジン音が聞こえる、そして姿を見せたのは装甲車だった。
「嘘だろっ」
「逃げましょう!!」
あんなものがこんな密林で出てくるとは予想もしていなかった、今持っている武器で対抗できる代物ではない。
「皆さん伏せて!!」
不意に聞こえた声に俺達はその場に伏せた。次の瞬間何かが飛来し装甲車が爆音とともに燃え上がった。
「プランティオーゼ!」
更に地面から巨大な根が現れ燃える装甲車を転がして倒してしまったのだ。
「今のうちですぞ!」
声の方を見るとそこにはミサイルランチャーのジャベリンを担いだゲンジさんと手を正面に掲げて魔法を使っているエミリアの姿があった。
「ゲンジさんナイスタイミング!!」
ゲンジさんがジャベリンを投げ捨てすぐ後ろに止めてあった車の運転席に乗り込み俺達五人も急いで飛び込んだ。アクセルを踏み込み一気にその場から離れていく。
「このままザラタンまで撤退でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。助かりました」
「ゲンジさんよく場所わかりましたね」
「レミーア殿がドローンで探してくれたのです」
「レミィナイス!」
ミコが親指を立てると照れくさそうにレミィはしていた。
「この車にドローンが積んであったのでどうにかできました」
「ちなみにジャベリンも積んでありました」
「もしもの時のために用意しておいて正解でしたね」
リアルの世界は平和だと思ってたのだが、とんでもなく物騒だった。
「助かったから文句も言えませんよ」
どうにか笑い話にできるくらいには落ち着いてきた。
「追手も来ていないようですね」
「敵の用意してた車両は爆発したあれだけみたいでしたからとりあえずは大丈夫だと思います」
電子戦が得意と言っていただけあってレミィの情報収集能力はすごいようだ。
「エミリアさんもありがと! 助かりました」
たぶん言葉は通じてないが彼女はにこっと微笑んで返してくれた。
「とりあえず、詳しい話はザラタンでいたしましょう」
こうして俺達のドタバタショッピングは終了し、ザラタンへと戻っていくのだった。
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