姉ばかりを信じる祖父母も婚約者もいりません!
小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!
第1話 すべては姉のもの
家族の中で一番に
愛されるのは末娘だなんて大嘘だわ。私はいつだってそう思う。
「ほら、ロゼ。お姉様を見習ってしっかりなさい」
私にそう言ったのは祖母だ。祖母はなんでも優秀で美しい私の姉「ミルネ」のことが大好きだった。ミルネお姉様はすごく要領がいい。
それは私にとって良い意味ではない。
ミルネは完璧な縫い物を自慢げに祖母に渡しているが、それは私が昨晩まで作っていたものだ。
「おばあちゃん、それは私が……」
ミルネがわざとらしく首を傾げる。
「あら、ロゼ。これは私が三日三晩お祖母様のために縫い込んだものよ。ほらみて、このかわいいうさぎ。お祖母様と私の素敵な思い出なの」
ミルネはにっこりと微笑むとお祖母様に寄り添ってみせた。それから
「やだわ、ロゼったら。あなたがこんなにも不出来なものを作ってしまったから私の作ったものを自分が作ったなんて嘘までついて……」
ミルネがお祖母様に見えないようにクスッと笑ったのが見えた。私の手には明らかにボロボロの縫い物。これは昨晩、私のとすり替えられたものだ。きっとミルネが作ったんだろう。
作れなくて、私のを盗んだんだ。
「おやまぁ……」
「お祖母様、私のはそっちなの!」
「まだいうのかしら!」
ミルネは堂々と包帯だらけの手をお祖母様にみせつける。
「これを縫い上げるのにこんなに指を針で……それに比べてロゼの綺麗な手を見てよお祖母様。手抜きしていたのが明らかだわ」
私は思わず両手を後ろに隠す。ニンマリとミルネが笑ったのが見えた。
「おやおや、ロゼ。お姉さんが羨ましくてもね、嘘はいけないよ」
「で、でも……」
「さ、ロゼ。もう今日はおやすみ」
お祖母様は私を部屋に向かうように促した。私はボロ布を抱えて二人に背を向ける。お祖母様がミルネにお駄賃を上げるのを背に私の頬を涙がつたう。
どうして誰も信じてくれないんでしょう。姉ばかりが……
***
幼い頃の記憶を思い出して私は嫌な汗を拭った。
今日は私の婚約者、アルデーナ子爵がこの屋敷に訪れる日。私は精一杯のおしゃれをして祖父母もこの日をかなり楽しみにしている。
一方で、私よりも先に、しかもかなりの玉の輿に乗る婚約がきまった姉のミルネは退屈そうに紅茶を飲んでいた。
「あら、子爵家なんてかわいそうにね」と私の耳元でミルネは言った。
「ロゼ、アルデーナ子爵家のヒンス様がきてくださったようだよ」
祖母に言われて私は玄関まで出迎えにいった。
大きな馬車が停まっている。その前には多くの家臣たちがひざまづいている。あぁ、あの馬車の中に私の婚約者様がいるのね。ヒンス様は子爵家の出身でありながらも騎士団の一員として大きな役割を果たし、昇進間近と呼ばれている方。
しかも、そのルックスは学園でもかなり目立っていたそうだ。
馬車の扉が開くとすらりとした長い足、美しいプラチナブロンドは短く切り揃えられ、胸には多くの勲章が輝いていた。
爽やかな笑顔が私を捉える。
いや、私じゃない。
ヒンスの笑顔は私を通り抜けて、私の後ろにいる姉のミルネに降り注がれていた。
「えっ」
私が振り返ると、さっきまで興味なさそうにしてたミルネは美しい笑顔でヒンスに手を振っている。
「あぁ、あなたがミルネ嬢ですね、お会いできて光栄です」
ヒンスは私を無視して、ミルネの手の甲に口付けた。
「ヒンス様、ようこそ」
ミルネはヒンス様の手を取ると家の中へと招いた。私は彼に挨拶もできないまま、後を追うことしかできなかった。
私の悪夢は続いていたようだわ。
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