リブート・マギカ ～失われた魔法を復活させて世界を統べる物語～

第015話 『状況分析』②

　だがそれゆえにこそ『野晒案山子（スケアクロウ）』は自分たちが魔法の力の片鱗を手に入れた最初期から警戒しており、辺境の村とはいえ正式な聖シーズ教会の末端組織、村にある教会の一人娘であるフィアを通してその調査は行っている。

　フィアも『野晒案山子（スケアクロウ）』の一員（メンバー）として加わり、迷宮攻略（ダンジョン・アタック）を開始して幾度かの『成長（レベルアップ）』を経た後のことだ。

　親の仕事に付き従う形で最寄りの迷宮都市であるヴァグラムへと赴き、教会関係者という立場を利用してその都市に常駐している『神聖騎士団（テンプル・ナイツ）』の団長および団員たちと会うことに成功している。

　そしてその場にはノーグ村村長の跡継ぎとして、カインも同席していた。

　辺境領とはいえ『迷宮都市（ヴァグラム）』に常駐する、聖シーズ教が誇る最強戦力の一員たちである。

　迷宮（ダンジョン）での魔物（モンスター）との戦闘を経て幾度かの『成長（レベルアップ）』を経ていることは間違いなく、その団長ともなれば組織の中でもそれなりに上位の強さを持っていて然るべきだ。

　どのようなカタチであれ、本物の力を行使する実行部隊の長というものは、ごく一部の例外を除けばお（・）飾（・）り（・）が務められるものではない。

　武を司る『騎士団』の一部隊を預かる団長となれば、わかりやすくもっとも武力に長けた者がその地位についていることが一般的だろう。

　もちろん武力だけで組織の長が務まるわけではないし、違うカタチをした力――カリスマや地位――などでその職責を十全にこなせる者もいるにはいる。

　だがそういう特殊な部隊は王都などの中枢近くで成立することがほとんどであり、わかりやすい力を期待される辺境区などを任せられるのは、基本に忠実（オーソドックス）な部隊であることがほとんどだ。

　それに長に足りない部分は副官が補えばいい。

　個々の武力だけを見れば、それが逆転している場合もあるだろう。

　それこそ『野晒案山子（スケアクロウ）』の党首（シロウ）と副官（カイン）のように。

　もっとも『野晒案山子』は組織としてはとても基本に忠実（オーソドックス）とはいえない存在ではあるのだが。

　だが『神聖騎士団（テンプル・ナイツ）』に直接会って得た感想は、フィアもカインも共通して『それほど強くない』だった。

　フィアはもちろん、カインとて相対した者の正確な強さを見抜けるというわけではない。

　だが迷宮（ダンジョン）で多くの魔物（モンスター）と接敵（エンカウント）し、戦闘して勝利を重ねてきた経験を土台（ベース）として、ある程度であれば判断がつくようにもなっている。

　それは別に戦闘態勢に入らなくとも、その佇（たたず）まいとでもいうべきものからなんとなく察することもできるのだ。

　迷宮（ダンジョン）で接敵（エンカウント）する強い魔物（モンスター）は、まだこちらに気付いていない常態であっても、強者としての威とでもいうべきものを放っているものだから。

　少なくとも一度でも『成長（レベルアップ）』を経た者であれば、その気になって観察すれば格の上下くらいはなんとなく見抜けるようになる。

格上があえて擬態でもしていない限りは、だが。

　だからこそ当時のカインとフィアは、己の強さを騎士たちに対して隠すことに腐心したのだから。

　その目で見ても団員はもちろん、団長や副官ですら強者と判断することはできなかった。

　たとえ神遺物（アーティファクト）ともいえる自分たちの魔導武装（マギカ・ウェポン）を装備していなくとも、完全武装した騎士たちを簡単に無力化することが可能だと判断できるほど、彼我の戦力差があるようにしか思えなかったのだ。

　根拠というわけではないが、きちんと団長や副長の方が団員たちよりは強く感じたし、ごく一部の例外を除いて迷宮都市（ヴァグラム）で活動している冒険者たちよりも、『神聖騎士団（テンプル・ナイツ）』の団員たちの方が強いとも思えた。

　そのごく一部、少数の逸脱した強者――冒険者ギルドから『超（S）級』などと分類されている冒険者たちですら、当時まだ十歳やそこらであるカインやフィアよりも弱いとしか判断できなかったのだが。

　確かに圧倒的な強者が弱者を装えば、それ以下の実力しか持たない者には見抜くことはできないかもしれない。

　実際にカインとフィアはそ（・）れ（・）を実行している。

　だがわかりやすく強さをアピールする立場である騎士や冒険者たちがそんなことをわざわざする必要はないだろうし、その後何度か迷宮都市（ヴァグラム）に出向いて確認を繰り返しても、その評価が変わることはなかったのだ。

　子供にしか見えないカインやフィアに対して、自身の実力を隠している可能性はほぼないとみて間違いあるまい。

　さすがに闇討ちで実力を測ったりする暴挙に出たりはしなかったが。

　フィアにしてみれば今より幼く、『成長（レベルアップ）』回数も少なかった自分たちと比べても遥かに弱い存在なのだ、『神聖騎士団（テンプル・ナイツ）』を擁する『聖シーズ教』という組織は。

　それが自分たちですら理解できていない『開かずの扉』を制御している可能性を述べられても、俄かには信じがたいというのは至極当然だといえるだろう。