第002話 『数千年後の小さな萌芽』②
「了解!」
「…………」
常人では到底不可能な滞空時間とそれに比例した距離を以て大きく
「声出していこうか、ヴァン君」
「……ごめんなさい」
カインは美しい剣を使った突き技で右脚を、ヴァンはどういう理由か艶やかな黒に染まった拳を以て左脚を、それぞれ一撃した後に左右を交差させてそのまま距離を取る。
距離を取りつつ無言で動いたヴァンに対してカインが声出しを推奨し、それに対してヴァンと呼ばれた少年――青年? は素直に謝罪している。
それぞれの一撃で
シェリルも含めたこの前衛三人組は、
見事な剣を自在に振るう少年の名は、カイン・エル・ノーグ。
歳はシロウと同じ12歳。
この
シェリルと同じく金髪碧眼をした、超が付く美少年。
瞳も髪もその色はシェリルより薄いが、それゆえに儚げな美しさを醸し出している。
シロウもヴァンも11、12歳の男の子としては相当に整った容姿をしている。
女の子であるシェリルも、もう一人の女の子メンバーであるフィアも物語に出てくるような美少女といっても過言ではない。
辺境の村どころか、たとえ王都に出ても話題になるくらいの美少年、美少女による五人組。
だがそんな中でもこの常に冷静沈着でありながら、落ち着いた柔らかな雰囲気を纏う少年の美しさは突出している。
彼は
それが今では貴族だの王族だのというよりは、神話に語られる天使や神の御子といわれた方が納得するくらいに、輝かんばかりの美貌にまで至っている。
『
自称『
もっと幼い頃から、
その明晰な頭脳と、辺境とはいえ一つの村の長の跡継ぎという立場を十全に活用して、とてもではないが子供の遊びの範疇には収まらない『
11、12歳の子供たちが持つには過ぎた装備、資金を管理し、突出した戦闘力を保有した集団が辺境とはいえ誰に知られることもなく活動を続けていられるのは、ひとえにカインの子供離れした手腕によるところが大きい。
カイン本人はシロウの役に立つことを喜んでやっているだけなので苦ではないし、シロウたちはそういう部分は信頼してカインにすべて任せているのが現状だ。
とはいえ、子供の頃からの『餅は餅屋』を変える必要もなければ、そのつもりもないということらしい。
それはめんどくさいことを押し付けているともいえるし、信じていると言い換えることもまたできるだろう。
大切なのは本人たちがどう思っているかだ。
少なくともカインは喜んで請け負っているので、なにも問題はない。
そして前衛組のもう一人。
拳――体術を駆使して
歳はシロウとカインの一つ下で、11歳。
シェリルと同じく、『
だがその体躯は11歳にして大人を軽く凌駕するくらいに成長しており、その長身と引き絞られた筋肉も相まって、ヴァンの齢がまだ11歳だと思う者などまずいない。
燃えるような赤い髪と、鋭い琥珀の瞳をした美丈夫。
少し癖のある長めの髪と整った顔の無表情さが相まって、物言わずともどこか男の色気のようなものを漂わせる11歳男子である。
肌が褐色であることも、独特の
シェリルと違い身体の方も成長しきっているので、わざわざ歳を告げねば街のお姉さま方を骨抜きにすることもそう難しくはないだろう。
いや告げた方がより効果的かもしれない。
見た目に反して性格はいたって朴訥、かつ無口。
一方でシロウとカインに懐く前、もっと幼い頃から一つ年上のフィアに心を奪われてもいる、意外とおませさんでもある。
そのことを隠せていると思っているのは本人のみではあるあたりが子供なのだが。
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