第145話 説明



「さて〜どこからお話しましょうか〜?」


テスタリカが私に抱き締められたままもたれ掛かる様にでろんとなる。正直に言って持ち辛いし割と重いのでやめて欲しい。


「とりあえず初めからにしましょうか〜事の始まりは〜ヴェルデニアの発生から始まります〜」


テスタリカは当時の事を懐かしむように目を瞑る。


「ヴェルデニアは本来なら〜発生する余地すら無い魔族でした〜何故発生したのかも〜何処で発生したのかも〜一切分からない〜不思議な存在なんですね〜」

「でもヴェルデニアが生まれた。それは誰かの手によって強制的に発生した存在だから」


スイの言葉にテスタリカは頷く事で肯定する。身体を起こしたテスタリカはスイの手から離れると立ち上がり周りを歩き始める。


「その通り〜生み出した存在として〜最も有力な存在は〜魔族の神クヴァレです〜何故生み出したかまでは〜分かりませんけどね〜」


少し困ったような表情を浮かべてにへっと笑うテスタリカ。魔族の神クヴァレは亜人族の神ドルグレイや人族の神アレイシアと違い何処にいるのかが全く分かっていない。直接問うことも出来ないのだ。知れる訳がない。


「まあそこは置いておきましょう〜ヴェルデニアは発生した瞬間から強い憎悪を抱えていました。それはもうあり得ないほどに」


真剣な表情を浮かべ言葉尻が伸びなくなったテスタリカにスイ以外の全員が驚く。スイは元からテスタリカが真面目な話の際には話し方が変わる事を知っているので特に変化は無い。


「その憎悪の対象は私達の王、ウラノリア様です。もしもクヴァレがウラノリア様を殺すためにヴェルデニアを作ったというのならば私はこの身を消してでもクヴァレに一矢報います」


テスタリカは少し興奮したのか魔力が身体から溢れ出して周囲に威圧感を撒き散らす程になっている。スイが制御して魔力のコントロールをしていなければ数人は気絶者が出ていた事だろう。


「ありがとうございます〜それでヴェルデニアはウラノリア様を殺すため力を付け始めました。それを察知してはいましたがウラノリア様への叛逆とは思っておらず不覚を取ってしまいました。そしてハーディスからの退避を余儀なくされた私達は信用出来る者達を引き連れ現在の異界とされている場所に閉じこもりました。異界の作成方法はグライスによる断裂結界です。負担が大きいので滅多に出来ることでは無いですが」


グライスによる断裂結界はかなりの力を消耗する。かなり小規模であればスイ一人でも疲労困憊状態になるだけで作れるだろうが迷いの森等の広大なものとなるとスイと同等の力を持つものが十人は欲しい所だ。恐らく逃げた全員で作ったものがあれらの異界なのだろう。ちなみに作ったせいで異界という素因が出来ているがこちらは特に異界を作る力は無い。


「断裂結界内で私達は話し合いました。どうすればあの魔神王の素因に対抗出来るのかと。試行錯誤の結果偶然発生したのがスイ様の今持つもの。制御の素因です。私達は発生した素因を持ち様々な場所で実験を繰り返し素因の強化をし続けました。いずれはそれがヴェルデニアを打ち払う力となると信じて一人、また一人とヴェルデニアによって殺されていきました」


テスタリカは悔しそうな表情を浮かべる。テスタリカは戦う力を殆ど持たない稀有な魔族だ。しかしその希少性から恐らく守られ続けていたのだろう。人工の魔族を生み出す、それにはテスタリカの協力は不可欠だ。当然テスタリカを守る為に亡くなった者も少なくないと思われる。


「そしてほぼ完成した時には逃げてから三十年の月日が経っていました。今からおよそ千年前ですね。私達は最後に迷いの森に到着していました。そこでヴェルデニアの率いる魔軍に囲まれたのです。ウラノリア様は迷いの森の中心部にスイ様の元となる制御の素因を見付からぬよう何重にも重ねた強力な結界に断裂結界まで混じらせる事で事実上の封印をしました。しかしただの封印ではありません」

「私を千年後に目覚めさせるために迷いの森に収束術式を組み込んだ。迷いの森の中心部に力が集まるように」

「はい。断裂結界以外の結界はその力の圧力に壊れて断裂結界越しに微量ずつ制御の素因に力が集まるように仕向けたのです」

「父様の素因があったのはその力の応用で死んだ時に私の近くに集まるようにしていた」


テスタリカはスイの言葉に一度頷くと部屋の隅に置いてあった小さな箱を持ってくる。小さな箱はどう見ても古く錆び付いている。


「その箱の中には勇敢に立ち向かい命を落とした者達の素因が収められています。スイ様にお持ち頂きたく思います」


スイがその錆び付いた箱を開くと色々な素因が混ざったからか虹色に輝く素因が入っていた。残念な事にスイとテスタリカとメリティ以外には見えていないようだが。


煌玉こうぎょく……」


スイがその虹色に輝く煌玉を受け取ると三十を優に超える素因が身体の中に入ってきた事で一瞬身体が硬直するがすぐに制御で抑える。


「皆の想いが伝わってきたよ。全てが終わった時にはハーディスに立派な墓でも作ってあげましょう」

「そうしてくださるときっと死した同胞達も喜ぶ事でしょう」


スイの身体の中に様々な人の想いが駆け巡る。それらが本当にウラノリアを慕いその娘であるスイを大切に思っていたかが良く分かる。この想いに応えようとスイは改めて思った。


「話を戻しましょうか。私はその後グライスを使い素因を切り離すことで追撃を逃れる事に成功しました。その際に帝都までやって来たのです。その頃はイルミア帝国と呼ばれる国の雛形すらありませんでしたが。それと残念な事に私はすぐにその場を離脱したのでウラノリア様の最後を見る事は叶いませんでした。どうやら自爆したようだというのは遠目から見て分かったのですが」


テスタリカはそう言って少し残念そうに顔を伏せる。


「まあここまではスイ様も分かってると思います。それで千年もの間ヴェルデニアによって私達が殺されなかったのはひとえにウラノリア様のおかげですね。恐らくあの自壊現象に巻き込まれた際かなりの負傷を負ったのだと思います。それと同時に自分の死という可能性を感じたことで恐怖したのだと私は思っています。離れずにその場に居ればヴェルデニアを殺せたかもしれないと思うと残念で仕方ないですがあの場には他の魔族も居ましたし何より魔神王の素因で回復を要求されると何も出来ません。居なくて正解だと思っています」

「つまりヴェルデニアは今怖がってる?」

「はい。ほぼ間違いなく。ウラノリア様の死後にヴェルデニアが来ることが極端に減りました。というか無くなりました。まだウラノリア様だけで他の魔王様は存命であるのにです。だからこそヴェルデニアは恐れているのでしょう。まあ今は少し活動が活発になってきたようなので恐怖からは抜け出してきているようです。トラウマにはなっているかもしれませんが」

「あんまり期待しないほうが良いかな」


ヴェルデニアが未だに怖がっているようなら良かったがそれはそれで厄介かもしれない。表舞台に出ずに素因を集める事で自己の安全を図るかもしれないからだ。もう遅いかもしれないが。


「そのせいでヴェルデニアの居場所が中々特定できません。どうやら移住し続けていたみたいなので。ただ最近の動きを見るにハーディスに戻っていると思います。すぐ移動するかもしれないので情報の確度はそれほど高くないのですけど」

「充分だよ。ありがとうテスタリカ」


さて、色々な情報を得たようで状況の説明しかされていないが別に構わない。テスタリカが王騎士であるリードさんとどうやって出会ったのかやイジェの眷属である同名のテスタリカなど聞きたい事はあるが別にそこまで興味もない。


「あっ、あとイジェですが〜今この帝国の王妃になっているので〜会うのは難しいかもですね〜」


……やっぱりちょっと聞きたいかもしれない。

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