第7話 弦楽合奏部

 クラブを決めた者は早々に入部届を提出し、クラブ活動に参加する。

 俺も弦楽合奏部の練習場に行った。

 自分の楽器を持っている者は持参することとあったので持って行ったが、集まった新1年生の半分以上は持っていない初心者だった。

「蒔島君も弦楽部なんだね。よろしく」

 おっとりとした雰囲気のやつが、ぽややんと笑って言った。

 同じクラスの百山春樹ももやまはるきだ。バイオリンケースを持っている事からして、初心者ではないらしい。

「ああ、よろしく」

 小声で挨拶した後、先輩が

「楽器を持ってきた人は、調弦と指慣らしをしておいてください。軽く1曲合わせます。

 持ってない人は備品がいくつかあるので今日は順番で使って、どの楽器にするか考えてみてください」

というので、手早く調弦を始める。

 この調弦ひとつとってもどれだけやってきたのか大体わかるもので、百山は、かなり長くやってきたようだった。

 調弦を済ますと、指慣らしの音階練習をする。ゆっくりと正確に、だんだん早く、それから別の運指で。ボーイングもゆっくり、早く、弱く、強く。それに、アップからダウン、またアップと弾きながら切れ目なく音を続けるように。

 こんなものかと思ったところでほかを見ると、適当に、曲を弾いたりしていた。

 が、ここで思わぬ人物を見つけてゲッと声を上げそうになった。三枝クリスがいた。

 ここの生徒だったのか。しかも同じクラブとは。まあ、向こうは今年で卒業だから秋までだが、毎回睨まれたりするのは勘弁してもらいたい。

 まさか後輩いじめとかないだろうな。

 戦々恐々としていると、百山がにっこりとして言った。

「蒔島君も長いみたいだね」

「あ?まあな。趣味程度だけど」

「じゃあ、合わせてみない?何がいいかな」

 その時、窓の外を蝶がひらりと飛んだ。

「ちょうちょとか」

 百山はくすりと笑った。

「いいね」

「百山、主旋律でいいよ」

「わかった」

 それで軽く目で合図を送り、ダウンから始める。

 2匹の蝶が、ひらり、ひらりと、春の暖かな日差しの中を飛ぶ。時に追いかけあい、時にもつれるように。

 まずは簡単な旋律で1回終えると、今度はそれに複雑に音を挟んで弾く。同じ曲でもずいぶんと修飾されて、モンシロチョウがルリアゲハチョウになったようだ。次は副旋律をもっと別の音階を使って弾くと、ぐっと豪華な感じに聞こえる。

 そうやって遊んでいると、パンパンと手が叩かれ、弓を止めた。

 顧問の教師と部長が並んで立っていた。

「初めまして。顧問の中西雄太です。経験者も未経験者もいると思いますが、みんなで練習して、音楽を楽しみましょう!」

 明るそうでがっちりとしており、まだ若い。そして声が大きい。

「見学に来てくれた人には言いましたが、部長の友田基也です」

 反対にこちらはクールな感じで、中西先生とのギャップが凄い。

 それから2、3年生と経験者の1年生とで軽く『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を演奏したが、経験者と一言で言ってもピンからキリまでの腕だった。

 その後は未経験者は楽器に触れて体験してみることになり、新1年生の経験者は集められた。

 ここで百山がビオラに転向したいと言えば、ほとんどがバイオリンなのですんなりと叶い、ほかの数人もビオラにまわり、残りの者を、第一バイオリンと第二バイオリンに振り分けられた。

 先ほどの合奏で見ていたらしい。

 俺は第一に振り分けられた。

「蒔島柊弥君か。コンクールに出なくなったから、やめたのかと思ってた」

 部長がぽつんと言って俺は驚いたが、ほかの新1年生も驚いた。

「蒔島柊弥?蒔島春弥の双子の兄ってお前が!?うそだ!」

 驚くところがそこか。

「よく言わるけど、二卵性なので」

 何人かがそれでも、文句を言う。

「サギだろう、それは」

「いや、そう言われても。はは」

 言っている間も三枝と思われる視線が横顔に突き刺さっており、俺はどうにも落ち着かない気分だったが、初回はこの程度で活動は終了した。

 やれやれ。




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