振られたら秒でヤンデレ美少女にロックオンされた

ぐうのすけ

第1話 

『ねえ、これからの事、考え直したいの』


 放課後の教室で俺はスマホの声を聴き、手が震えた。

 俺、松本 樹 マツモト イツキは彼女に振られた。


 俺が付き合っている保母 渚ホボ ナギサは俺の3つ年上で美容師の専門学校を卒業する。

 そしてナギサは美人で性格もいい。

 美容学校と言えばおしゃれでイケメンが多い。

 嫌な妄想が俺を支配する。

 

「そう、だな。悪かった。俺が、俺が努力していれば、いや、悪い。別れよう。今まで、あ、ありがとう」


 これでいいんだ。

 ナギサが悪いわけじゃない。


 俺がもっと努力すれば良かったのか?

 俺の内面に問題がある事は分かっていた。

 美人で性格が良くて気を使うナギサと俺じゃ釣り合わない。

 

 俺は背が178センチあり、たまにワイルド系だと言われる。

 でも中身は全然違う。

 陰キャで、休日だけではなく平日の放課後ですらバイトを挟んでいた。

 リフォームのバイトをしていたせいか筋肉はそこそこあって挨拶だけは元気なせいかよく勘違いされるんだ。


 ワイルドに見えるのは見た目だけでただの根暗、それが俺なのだ。

 努力以前に釣り合わなかった。

 でも、出来る事はもっとあった気がする。


「すーー。はあああああああ」


 大きく息を吸い込んでため息をつくと、放課後の教室に残っていたみんなが俺を見ていた。

 人の目を、完全に忘れていた。


「あ、悪い」

「イツキ、一旦座ろう。顔色が悪い」


 俺の親友、田中 優太タナカ ユウタが俺を座らせる。

 ユウタはイケメンで女性人気が高い。

 そして俺と違いリア充気質だ。

 俺はユウと呼んでいる。


 横の席に座るユウが俺を気遣うように見る。


「ユウ、気にするな」

「気にするなって、手が震えているよ。昨日もバイトであまり寝てないじゃないか。イツキ、深呼吸だ」

「そうだな。すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー」


 心を制御するのは難しい。

 その為瞑想して体を制御し、心を落ち着かせる。




 目を開けるとさっきいたクラスメートが全員残って俺とユウの話に耳を傾ける。


「落ち着いた?」


 そう言ってユウが笑う。


「ああ、少し、落ち着いた」

「イツキ、元気出せよ!」


 他の男子が近づいて来て俺の制服を掴んで揺さぶる。

 揺さぶりが強い、強い強い!


 こいつはナギサの事が好きだ。

 ナギサは美人で有名だ。

 俺に嫉妬の気持ちがあったんだろう。

 だがもう別れた。

 俺に嫉妬する必要はない。


 もう別れたのだから。




 振りが、収まらない。

 ……やめないのか?

 さすがにイラっとする。


「やめろ!」



 俺を揺さぶるのをやめた瞬間、制服のボタンが1つ床に落ちた。


「はあ、お前なあ」

「わ、悪い」

「いいから、もう帰ってくれ。周りで聞き耳を立てている皆、これ以上のことは言わない」


 教室にいた何人かが焦って出て行く。

 俺とユウは座ったまま少し黙る。

 他の生徒も気まずくなって徐々に教室からいなくなる。


 ユウが口を開いた。


「今日は色々とついてないね」

「ボタンはどうでもいいけど、厄日ってより、俺じゃナギサと釣り合わなかっただけだ」

「そんな事は無いと思うけど、何で別れたんだい?」

「言わない。まだ聞き耳を立ててるやつがいるからな。ここじゃ何も言わない」


 その言葉で更に生徒が教室から出る。


「確かにここじゃなんだね。今日は帰る?それとも、もし良ければ奢るよ」

「ドリーム(喫茶店)か。やけ食いしてもいいか?マジで」

「食欲無いよね?」


 ユウがそう言って苦笑した。


「だな」

「でも、良いよ。僕が奢るよ」

「悪い」


 俺が小さくため息をつくと、ユウは苦笑した。


「……」

「……」


「ねえ、私が縫うよお」


 俺の前の席に座っていた新妻 鞘ニイヅマ サヤが振り返り、笑顔で話しかけてきた。

 俺はみんなに帰れアピールをしてきたが、新妻だけが残っていた。

 ハートが強い。

 いや、天然な所があるからか?


 いつもと違い満面の笑みを浮かべているように見える。 

 またネガティブが顔を出してきて引っ込めた。

 落ち込んでいる人間に暗い顔をするのは良くない。

 暗い人間にこそ笑顔で接する事で笑顔が伝染する。

 新妻は悪い事をしていない。


 新妻結は学校で人気があり、男子の告白を13回連続で振ったと男子が話していた。 

 誰とも付き合っていないらしい。

 告白だけで13回なら、連絡先の交換は3桁単位で断っているのかもしれない。

 身長は140センチ台で小さいがスタイルが良く、美人でいつも笑顔だ。

 更に成績優秀、スポーツ万能、ま、高嶺の花ってやつだ。 


「新妻、いいよ。後で自分でやるから」


 新妻が俺の顔をじっと見る。


「遠慮してる?なら私が縫うよ」


 そう言って両手を俺に差し出す。


「脱いで」

「お、おう」


 俺がブレザーを脱いで手渡すと新妻は両手で抱きしめるように優しく受け取り、机に置くと、また手を出した。


「ああ、金か」

「イツキ、お金じゃなくてボタンを渡して欲しいんだよ。今日はよく食べてすぐ寝よう。疲れてるんだ」

「わ、悪い」


 俺は失礼な事を言ってしまい謝った。


「いいよいいよ。ボタンって言えば良かったよね」


 新妻は俺の手を両手で包み込むように握ってボタンを受け取る。

 俺はびっくりして咄嗟に手を少し引っ込める。


「女の人は苦手かな?」

「そ、そうだな。美人は得意じゃない」

「あう」


 新妻の顔が赤くなった。

 また変な事を言ってしまった。


「う、うん、私は集中するから少し待っててね」


「お、おう」


 俺とユウは話を続ける。


「所で、新しい彼女、作らないの?」


 その瞬間新妻の背中がビクンと跳ねた気がした。

 だが糸を使っているから気のせいだろう。

 ユウはそんな新妻を観察するように見ているような気がした。

 ユウの観察するような目も気のせいだろう。


 俺は振られて気分が落ち込んでいる。

 落ち込んでいるせいか、いつもなら振られた直後に『彼女、作らないの?』とかユウなら普段そんな事は聞かないよなとか色々考えてしまう。

 ユウの言う通り、今日は食べて、早めに眠ろう。

 俺はネガティブになっている。


「お前と一緒にすんな。すぐ出来るもんじゃない」

「僕もいないよ。イツキならすぐに出来るよ。何日かたっぷり寝て起きて、それから考えて見たら?」

「……数日、経ったらな」


「出来たよ」

「サンキュ。新妻はいい嫁になるな」


 新妻が一瞬驚いてまた俺に笑顔を向けた。

 ブレザーを着る。

 ボタンがしっかり縫い付けられていた。


「僕はトイレに行って来るよ」

「ドリーム前で合流な」


 喫茶店・ドリームは俺とユウ行きつけの場所で、ユウのおじいちゃんとおばあちゃんが運営している店だ。


「そうだね」


 ユウが手を振って教室を出て行く。

 教室には俺と新妻だけが残された。

 笑顔を向ける新妻が天使に見えた。



「新妻のブレザー、ボタンが取れてるぞ?」


 俺は違和感を覚えた。

 さっきは、取れていなかった気がする。


 そうか、俺は疲れている。





 あとがき

 お読みいただきありがとうございました。

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 やる気が上がります!

 ではまた!

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