番外編
恋を知った日 side麻璃亜
小説家になろう様で1万PV達成しましたので、その記念としまして、番外編を書こうと思います。
またお付き合い頂けると嬉しいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私がいつから彼女に恋をしていたのかは分からない。
ただ、明確に彼女に恋をしていると自覚したのは中学1年生の時だという事だけは分かる。
当時の美琴は、いつも暗い顔をしていた。家族との関係に悩み、どうしたら愛してもらえるのか、どうしたら褒めてもらえるのかといろいろ頑張っていた小学生の頃はまだ良かった。
しかし、中学に入ってからはそれら全てを諦め、他者からの愛情を求めないようになった。
それからの彼女は、いつかふとした瞬間に消えてしまうような、蜃気楼のような感じがした。
私はそんな彼女を友達として、幼馴染として支えたいと思い、彼女とこれまで以上に関わるようにした。
どうしたら美琴が喜んでくれるのか、美琴を少しでも笑顔にしてあげたい。そんな風に、常に美琴のことを考えて行動していたからか、気づいた時には私は自然と彼女を視線で追うようになっていた。
そして、明確に恋だと自覚したのは、彼女が私の料理を美味しいと笑顔で言ってくれた時だ。
当時の私は料理を覚えたばかりで、とても上手に作れたと言えるものではなかったが、それでも私が見たかった笑顔で彼女は美味しいと笑ってくれた。
それがとても嬉しくて胸が高鳴った。この時に私は気づいたのだ。自分が彼女に抱いている気持ちは友愛ではなく恋愛なのだと。
しかし、彼女に恋をしたからといってすぐに何かした訳ではない。
なぜなら私たちは同性で、世間一般から見れば恋人になることはおかしな事だ。それに、美琴は肉親である両親からも愛情をもらえなかったから、他者からの愛情というものを信じていない。
そんな時に私が好きだ、愛していると言っても信じてもらえず、彼女は私の前から消えてしまうだろう。
だから私は自身の気持ちを伝えることは諦め、彼女の友人であり幼馴染として彼女と一緒に生きていこうと決めた。
私が美琴への恋心を自覚してから一年がたち、中学2年生になったころ、私が一番聞きたくなかった話を友達が話してきた。
「麻璃亜。そういえばあんたの幼馴染、今度告白されるらしいよ」
「……え?」
「隣のクラスに佐伯君っているじゃん?サッカー部のイケメン君。その人が今度、あんたの幼馴染に告白するって話を廊下でしてるの聞いちゃったんだよね」
その後の会話はあまり覚えていない。ただ今度、美琴が隣のクラスの男の子に告白されるかもしれないという事を知り、私はなんともいえない気持ち悪さを覚える。
「ねぇ、美琴ちゃん。美琴ちゃんは誰かに告白されたらどうする?」
私は、彼女が仮に告白された場合にどうするのかを知りたくて、お昼休みの時に彼女に聞いてみた。
「んー?もちろん断るよ。どうせその好きって感情も気の迷いかなんかだろうし、長続きしないよ。なら最初からそんなものを抱くような関係を築かない方がいいでしょ?」
彼女はそう言いながら、少し自虐的に笑う。おそらく、両親にも愛されない自分が、他者から愛されるわけがないと思っているのだろう。
彼女は自分では分からないようだが、とても整った顔立ちをしている。中学2年生ながらも他の女の子より背が高く、いつも人とあまり関わろうとしないためかクールな印象を受ける。
その雰囲気が逆に彼女を引き立て、彼女の魅力となっていた。
(美琴ちゃんが告白される)
その事実が受け入れられなかった私は、その日は美琴と一緒に帰ることはなく、一人で家に帰った。
部屋に着いてからも私は、美琴が告白されると聞いた時のことを考えていた。
「でも、美琴ちゃんはかっこいいし、いつかはこういう日が来るとも思ってた。…思ってはいたけど、やっぱり無理だよ。受け入れられる訳ない」
美琴と知らない誰かが付き合い、私の居場所に他者が割り込んでくる未来を想像しただけで気持ち悪くなってくる。
「美琴ちゃんは私のなんだ。彼女の隣にいていいのは私だけで、私以外がいちゃいけない。そもそも、彼女のことを何も知らない奴らなんかに彼女を渡せるわけがない」
この時から、私が美琴に向ける愛情の重さが変わった。今までは一緒にいるだけで幸せで、満たされる一般的な恋愛感情だった。だが、今は彼女を私だけのものにしたい、私以外に触れさせたくないという独占欲と嫉妬に満ちた狂愛になった。
それから私はいろいろなことをした。まずはいつも一緒にいる美琴より私に意識が向くよう自分を磨いた。
メイクについて勉強したり、男が好きそうな仕草や言葉を学んだり、とにかく美琴より私を印象付けるように行動する。
結果、美琴の事が気になっていた男たちのほとんどが私を意識するようになり、告白してくるようになった。
ただ、それでも多少は美琴の事が本気で好きで私に靡かず、告白しようとする奴らもいたが、私が妨害してその機会を悉く奪った。
美琴に対しては、私がたまに作る料理に私の髪を入れたり、毎朝私の血液を混ぜた飲み物を飲ませたりした。
最初はそれらの行為に抵抗もあったが、続けていくうちに私の一部が彼女の一部となり、彼女を構成しているのだと思うと幸福感で満たされて止める事が出来なくなった。
そんな感じで中学2年生が終わり、3年生になる頃には、美琴に告白しようとする奴らはいなくなり、彼女の周りは私と数人の友人たちだけになった。
そして、3年生になればいよいよ進路を決めなくてはいけなくなる。私は美琴と同じ高校に行くつもりだが、私よりも美琴の方が成績は良いため、彼女が目指す高校次第では、私はかなり頑張らなくてはいけなくなる。
「美琴はどこの高校に行くの?」
「んー?凌舞高校かな」
美琴が言った凌舞高校は、私たちの家から少し距離はあるが、比較的新しくできたばかりの高校で、制服が可愛く、偏差値もそれなりに高い高校だ。
ただ幸い、頑張れば私も十分狙える高校だったため、これからの勉強を頑張ることに決めた。
季節は巡り冬になり、私たちは高校受験のため試験会場に来ていた。
凌舞高校を受験すると決めてから、私は美琴に教えてもらいながら勉強を頑張った。
ふと、一緒に試験会場に来ている美琴を見てみるが、彼女は特に緊張した様子もなくいつも通りの表情だった。
反対に私は、緊張のせいか寒さのせいか指先が冷たくなり、僅かに震えている。
しかし、そんな私の手をそっと握ってくれる人がいた。
「大丈夫だよ、麻璃亜。あんなに一緒に勉強したんだし自信持っていこう?そんなに緊張していたら、解る問題も解らなくなるよ?」
そう言って優しく微笑んでくれた彼女の手は、私と一緒で僅かに震えていた。
(美琴も緊張してるんだ)
自分も緊張しているのに、私に優しく声をかけてくれる美琴。そんな彼女の優しさがとても嬉しくて、私も彼女の手を握り返す。
「ありがとう、美琴ちゃん。もう大丈夫だよ」
「よかった」
そう言ってまた微笑んでくれる彼女は、繋いだ手を離さずに前を向く。
私はそんな彼女の横顔を眺めながら、改めて自分を鼓舞する。
(これまで頑張ってきたのは、大好きな美琴ちゃんと離れないためだ。なら、こんなところで躓いている場合じゃない。それに--)
私は、彼女と離れたくない以外のもう一つの理由も込めて彼女を見た後、私も前を向いて試験会場に入った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
『人気者の彼女を私に依存させる話』
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