元異世界勇者、現実で見返してやるってよ。(Part D)
中倉駅のペデストリアンデッキでスマホを開くと、泉さんからの着信履歴が数件残っていた。ダメ元で電話してみると、ワンコールで繋がった。
『二島さん、良かった。もう、どうして出てくれないんですか!』
強めの言葉が耳元で飛んできて反射的に「さーせん」と頭を下げる。今日はいつにもまして低姿勢だな、ボク。
「今日はすいませんでした。泉さんは帰宅できました?」
『帰るわけないでしょう。今、中倉駅改札口の前です』
「え?どうして」
『探し回ってくれている二島さんを置いていけるほど、私は薄情じゃありません』
少し不満そうな声音の泉さんが恋しかった。ボクは「すぐに行きます」と言って通話を切り、最後のダッシュを決行した。
階段を駆け上がり、改札口前のホールで泉さんを見つける。彼女もボクに気づいてくれたが、すぐに顔をぎょっとさせた。
「二島さん、ステッキ持ったままじゃないですか!よく職質されませんでしたね!いや、そうじゃなくて!ステッキ、どうやって」
「え?ああ。確かに職質レベルですね。全然気になりませんでした。ステッキは女の子に取られちゃってたんですけど、どうにか取り返しました」
エメラルドグリーンの指輪のことは伏せておく。泉さんに話したら恐縮してしまうかもしれない。
ステッキのハートの内側は、前と変わらずピンク色と赤黒い色が半々といったところだ。ステッキを泉さんに渡すと、彼女は何かを堪えるように歯を食い縛っていた。
「……教えて下さい。どうしてステッキを探してくれるんですか。私たち、まだ知り合ったばかりですし。私、敵と戦う魔法熟女ですし。物の扱い雑ですし」
「永遠に17歳なら、魔法少女ですよ」
「そうじゃなくて!」
泉さんはステッキを強く握りしめ、上目遣いでボクを見つめた。異世界で何人ものヒロインと似たような雰囲気になったけど、こんなに声が震えそうなのは初めてだ。
周囲の喧噪がゆっくりと閉じていく。ボクの全てが泉さんに収束していく。今だけは、現実世界で主人公になっても許されるだろうか。
でも、言葉が喉の手前で引っかかっている。あともう少しなのに。こんなだからボクは変われないんだ。
「泉さんと一緒にいたいからです」
意気地なし。好きの一言も言えないなんて。
ボクが自己嫌悪に陥りかけたところで、泉さんが一歩踏み出した。目の前にいる美女はステッキをそっと一振りする。
「コントロールエル」
泉さんをポカンと見てしまう。一般魔法にエルは存在しない。そもそも魔法の系統も異なるはずだ。彼女は諸々の意図を知ってか、「頭が固いですね」とまた吹き出した。
「二島さんにしか使わない特殊魔法です。今のは大ヒントですよ」
ボクは魔法少女の悪戯っぽい笑みから目が離せなくなる。今まで受け止めた中で、一番強い魔力だった。
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