平行世界23日目にゃ~


 かわいいかわいいエリザベスを奪いに来たジュマルの首根っこをわしは掴んで引きずり、リビングで楽しく喋っているララの前に投げ捨ててやった。


「怒ってるみたいだけど、お兄ちゃん、なんかやらかした?」


 わしのとぼけた顔を見て怒っていると気付くとは、さすがは元女房。半分ぐらいは「よくわかるよね~?」とか言っているけど無視だ。


「こいつ、エリザベスと結婚したいとか言い出したんにゃ~」

「「「「「えっ!?」」」」」

「あっちゃ~……」


 事情を説明したら、リータたちは驚きの表情。でも、リータたちはわしと結婚してるのに、その顔はなに? ベティとかならわかるんじゃけど……

 リータたちとは違い、ララは何かわかっているような顔をしているので話を聞いてみる。


「あっちゃ~って、前にも猫に求婚してたにゃ?」

「そうなの。最近はなくなってたんだけど、昔は近所の野良猫に飛び乗って大変だったのよ」

「そんなことしたら、引っ掻かれるに決まってるにゃろ~」

「それがね……ちょっとこっち来て」


 ララはわしを部屋の隅に連れて行くので、ジュマルには聞かれてくない話だと気付いて念話に切り替える。


「お兄ちゃん、子供の頃は猫と喋れたの」

「マジにゃ?」

「うん。5歳ぐらいまでかな? 猫と『にゃ~にゃ~』言い合っていたから何してるか聞いてみたら、猫の気持ちを通訳してくれたの。その辺りから喋れなくなって、その記憶も忘れているから助かってるけど……」

「下手に刺激すると思い出すかもしれにゃいと……」

「ええ。エリザベスちゃんはあまり見せないほうがいいかも?」

「だったら帰れにゃ~」


 このままではジュマルの猫化が進み兼ねないのに、ララはテコでも動かない。ジュマルもわしの足に絡みついて来て「妹さんをください」とか言って来たので蹴飛ばした。

 ちょっと強く蹴りすぎてしまったが、ジュマルは人間とは思えないぐらいの反射神経と運動神経を持っているのできっちり受け身を取っていたから、気絶で留まっていた。


 ジュマルが寝ているうちにエリザベスの元へ行って、事の顛末を説明。ルシウスと玉藻にもエリザベスを守るようにお願いしておいた。


「そちはシスコンだったんじゃな」

「そりゃ、かわいいエリザベスをどこの馬の骨かもわからんヤツにやれないにゃ~。にゃ? へぶしっ!?」


 玉藻がからかって来てもわしは通常運転でエリザベスを抱き締めようとしたら、しばかれた。たぶん照れているのだろう。


「シャーーーッ!」

「嫌われておるみたいじゃな……」

「照れてるだけにゃ~」


 エリザベスはめっちゃ歯を剥いているけど、わしが猫型に戻って幾度も放たれたネコパンチを乗り越えてスリ寄ったら、「モフモフ~!」っと陥落。ルシウスと一緒にスキンシップを楽しむわしたちであった。



 それからルームサービスが届いたと呼びに来たララにわしはモフられ、エリザベスたちの食べ物は寝室に運び込み、楽しい夕食が済んだころで、そういえばララの持ち物を預かったままだったと思い出した。


「この大荷物ってどうするにゃ?」

「あ、そうだ。着替えも入ってたんだったわ」

「これ、丸々着替えにゃの!?」

「違うわよ。ほとんど食べ物。いっぱい作って来たから、元の世界に帰ったら食べてね」

「ひょっとして……」


 その先は言わないわし。ララは気を遣ってわしの好物を作って来てくれたと気付いたのだ。なので、コリスにバレないように山程あるタッパーを次元倉庫にしまうわしであった。



 ララがわしを洗いたいとうるさいので猫型で洗われ、エリザベスたちと一緒にぐっすり眠った翌日、平行世界23日目は郊外に足を伸ばしてみる。

 移動は大型バス。高速道路を走り、窓からの景色を見ながらわしと玉藻は喋っていた。


「この辺は背の高い家が少ないんじゃな」

「住宅街だからにゃ~」

「なるほど……仕事をする場所と寝る場所は別ってことか」

「交通網がしっかりしてるから、できるわざにゃ~……てか、さっちゃんも話を聞けにゃ~」


 せっかく町作りの話をしているのに、さっちゃんはララたちと「イエーイ!」とかやってる。ララのせいで皆がパリピになりつつあるから不安だ。

 ちなみにジュマルも乗り込んでいるが、ララ専属カメラマンをしているので、いまのところエリザベスに被害は行っていない。まぁ猫兄弟はコリスに埋もれているから、見付けるのも難しいだろう。


 バスはしばらく走り、やって来たのは……


「「「「「おっきいにゃ~」」」」」


 某・公園。巨大でヘンテコなオブジェを真下から見た皆は、空に吸い込まれそうなぐらい見入っている。


「シラタマちゃん。ネコゴン出して戦わせて!」

「あいつは動かないにゃ~」


 しかし、復活したさっちゃんは怖い。ネコゴンなんか出したら新しいオブジェにされそうだから、絶対に出すか!

 皆もなんかうるさくなったので、「もっと面白い物があるから」と落ち着かせて、ヘンテコなオブジェの中に入って行くのであった。


 ヘンテコなオブジェの中は気持ち悪いオブジェばかりであったが、館長から聞く生命の進化の話は皆に好評。わしは約60年振りに入ったので、懐かしい顔で見ている。ベティも来たことがあったのか、2人で思い出話に花を咲かせた。

 そんななか、ララはテンション高くジュマルと動画撮影。わしと一緒に来たことがあるから同じ気持ちになってもいいはずなのにと思っていたら、中学生の頃に来ていたそうだ。だから、感動よりも撮影に一生懸命になってるっぽい。



 オブジェの中の鑑賞が終わったら、リータたちは体を動かしたいとのこと。久し振りに広い場所に来たから解放感があるそうだ。

 まぁランニングぐらいならいいかなと軽く許可を出し、動きやすい服に着替えたら、全員爆走。あっと言う間に見えなくなった。


「さっちゃんはどうするにゃ?」

「子供たちと待ってようと思ったけど、イサベレも行っちゃったからどうしよう?」

「ああ~。エミリじゃちょっと不安だにゃ……もっといい景色のとこに行こうにゃ。ララちゃん、にゃんか子供が楽しめそうなところに連れて行ってにゃ~」


 護衛が仕事を放棄してしまっていては仕方がない。わしが残ってさっちゃんたちの護衛をする。

 とりあえず次元倉庫から出したわしのバスにさっちゃんたちを乗せ、呆気に取られているテレビクルーを積み込み、ジュマルとララは前の席で道案内させる。


「確かあっちでスワンボートをやってたはずよ」

「んじゃ、そっちに向かうにゃ~」


 バスを出発させてノロノロと走っていたら、ララの質問が来る。


「それにしても、王妃様だと言うのにみんな走るの速いわね。いえ、速いなんてものじゃないわ」

「そりゃ、ほとんど人間やめてるんにゃもん」

「奥さんが人間じゃないって……てか、合流はどうするの?」

「誰か来たら捜しに行くにゃ~」

「ノープランで猛獣を解き放ったんだ……」

「話も聞かずに行ってしまったんにゃから、仕方がないにゃろ~」


 コリスと猫兄弟と玉藻はいちおう獣だから言い訳のしようがない。リータたちは猛獣より猛獣らしく獣と戦っているから、これも言い訳のしようがない。ノルンだけは妖精だから言い訳をしてやってもよかったのだが、面倒だからもういいや。


 ララと喋っていたら人工池に着いたのだが、船頭さんも係の者もいないので、スワンボートに乗れそうにない。


「こんにゃもんかにゃ?」

「いやいや。なに勝手に作っているのよ。白鳥の顔もブサイクだし……」


 というわけで、土魔法でチョチョイのチョイで製作。ララのツッコミを無視してちょっと試乗したら上手く進んだので、あまり白鳥に見えないスワンボートを人数分作ってあげた。


「お前も乗るんにゃ……」

「当然! える~!!」

「ブサイクって言ってたにゃろ~」


 ララとジュマルもスワンボートに乗って岸から離れて行ったので、わしはどうしようかと考えていたら、テレビクルーに後ろから肩を叩かれた。


「皆さんの楽しむ絵を、もっと近くで撮りたいな~?」

「わしの作った船に乗りたいだけじゃにゃい??」

「「「「「いえいえいえいえ」」」」」


 明らかにこいつらは嘘を言っているが、撮れ高が少ないとか泣き付いて来たので、5人乗りぐらいの手漕ぎのボートを作製。テレビクルーが乗り込むとオールがないので首を傾げていたが、次の瞬間にはどうでもよくなった。


「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」

「ちょっと静かにしてくんにゃい?」


 水魔法で動いているからだ。その声は、わしのビデオカメラにも乗っている。岸に残ったテレビクルーもめっちゃうるさい。

 なので、静かにしないともう乗せないと脅して、ボートはさっちゃんたちの近くへ。楽しくペダルを漕ぐ子供たちと共にカメラやビデオカメラに収めてあげた。


 さっちゃんはちょっと疲れたら自分の風魔法を使い、エミリもマネしていたが、バランスを崩して転覆しそうになっていたので、水魔法を使って救出。

 しかし、「その方法があったか~!」とさっちゃんが叫び出したので、ここからは全艘、わしの水魔法で遊覧だ。


 あまり速度を出しすぎると酔い兼ねないので、池をゆっくりと大回りに1周。誰が1位かモメていたので、次の周回はキッチリ同点。

 岸に残るテレビクルーからブーイングが上がっていたので乗組員を変えて、もう2周回ったら岸に戻るわしたちであった。



 岸に帰ったら、スワンボート等を吸収魔法で吸い取り完全に消滅。ララやテレビクルーは残して欲しそうだったが、誰かが「グフグフ」笑っていたから消したほうが無難だろう。絶対商売に使おうとしてたんじゃもん!

 そんなことをしていたら、爆走していたベティとノルンを発見。取っ捕まえて、さっちゃんたちの元へ連れて来た。


「いい感じで走ってたのに、なによ~」

「もうじきお昼にゃろ? みんにゃも捕まえて来るから、さっちゃんの護衛してくれにゃ~」

「イサベレ様は??」

「ベティのほうが詳しいにゃろ~」


 どうやらベティはついて行くのがやっとだったので、自分のペースで走っていたとのこと。何度かイサベレたちとも擦れ違ったらしいが、たまに飛んでいたからどこにいるかわからないそうだ。

 やはりわしが捕まえに行ったほうが早そうなので、ベティたちは芝生で待機。レジャーシートを敷いてお茶やジュースを出したら、わしは消えるように移動するのであった。



 探知魔法を駆使して爆走している皆を追い回し、全員お縄にしたら、芝生でランチ。昨日買っておいたお弁当や猫の国弁当を山ほど並べてモリモリ食べる。

 お腹いっぱいになったら、わしはゴロン。まだ暑い季節だが、今日は心地いい風が吹いているのでそのまま眠りに就くわしで……


「にゃに~??」


 いや、リータたちに雑に撫で回されて起こされたので理由を聞いたところ、武器を寄越せと言われた……


「いや、危にゃいから……」

「「「「「出せ……」」」」」

「模擬刀だからにゃ~?」


 リータたちが変なスイッチが入っていたので、わしは怖くなって殺傷力の低い武器を配るのであった。


「「「「「喰らえ~~~!!」」」」」

「全員でわしを襲うにゃ~~~!!」


 それなのにリータたちが暴力を振るうので、わしも訓練に付き合わされるのであったとさ。

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