平行世界1日目その2にゃ~


 わしたちの世界のアルバムを見ていた玉藻と皇太子殿下の元へ向かう前に、わしは先に宿泊場所を確保したい。最悪、皇居の庭でもいいからとお願いしてみたら、外務省から付いて来ていた七三分けのメガネがホテルを確保してくれるみたいだ。

 なのでついでに七三メガネに頼みごと。金塊を見せてお金に変えたいと言ってみたら、なんかメガネにヒビが入った。100キロはやりすぎたみたいだ。


 え? 違う? どこから出したか?? 見てたじゃろ?? 懐からじゃ。


 わしの懐からドデカいスーツケースが出て来たから驚いたっぽい。とりあえず七三メガネには、わしのお願いを先に片付けるように走らせたら、皇太子殿下の元へと戻った。


「にゃ? さっきのどこから出したかにゃ?? 魔法にゃ」

「魔法?? またまた~」

「まだ説明してなかったんにゃ~」


 皇太子殿下は驚きすぎてフレンドリーになってくれているので、魔法は玉藻の代わりにわしが見せてあげる。


「ほいほいほいっとにゃ」


 火の玉、水の玉、土の玉を浮かせたら、そのままゆっくり回転させてキープ。


「魔法だ……手品の線は……」

「どっちでも好きにゃほうで呼んでくれにゃ。ちにゃみにわしたちは、この力を使って狩りをしてるにゃ。ヤマタノオロチだって倒したんにゃよ~? あ、このドデカいアンコウがヤマタノオロチにゃ」

「なんじゃこりゃ~~~!!」


 皇太子殿下、厳かな態度が崩れる。そりゃ、全長300メートルを超えるアンコウの写真を見たら驚くわな。なんかSPたちも職務を忘れて見せろ見せろと寄って来てるもん。


「危にゃいから! もう一冊出すから殿下に近付くにゃ!!」


 立場は逆。魔法も出しっぱなしだったのでわしは慌てて消して、皇太子殿下を守るのであった。



「えっと……にゃんとにゃくだけど、うちとここの世界の違いがわかってくれたかにゃ?」


 ある程度説明が終わったので確認を取ってみたら、皇太子殿下は疲れた顔をしてる。


「な、なんとか……ところでなんですけど、シラタマ王が刀で大きな獣と戦っている写真がありましたが、国王なのに狩りをしているのですか?」

「うんにゃ。わし、ハンターって職業も兼業してるからにゃ。こう見えて……どう見ても猫のぬいぐるみにしか見えないだろうけど、わしが一番強いハンターなんにゃ。にゃんだったら、魔王って呼ばれるぐらいにゃ~。にゃははは」


 わしが笑っているのに、皇太子殿下の顔色が悪い。


「例えばの話ですが、SPがシラタマ王に襲い掛かった場合、どうなりますか?」

「わしに触れることもできずに空を飛ぶかにゃ?」

「銃を使った場合は……」

「撃つ前に空を飛ぶかにゃ? 当たったとしても、痛くも痒くもないにゃ」

「その……さっきから言っている空を飛ぶというのは……」

「言葉の通りにゃ。この建物の天井という天井を全て突き破って、空を飛ぶんにゃ。って、言っても信じられないだろうにゃ。玉藻、ちょっと手伝ってにゃ~」


 皇太子殿下にわかってもらおうと、ちょっとした実演。玉藻と一緒に金塊の入ったスーツケースでキャッチボール。

 片手どころか尻尾まで使ってポイポイし、「実は軽いんじゃね?」って言っていたゴツイSPにもパス。山なりに投げたから受け取ってくれると思ったけど、避けやがった。


 もしも本当に100キロもあったらと、死が頭によぎったそうだ。


 ただし、このまま落とすと床に穴が開くので、わしが素早く移動してキャッチ。SPはわしが急に目の前に現れたから驚いていた。

 ここでSPにスーツケースを持たせたら持ち上げられず。スーツケースも金属製だから、100キロじゃ済まないもん。そのせいで「殺す気か!」と怒鳴られたけど、疑うから悪いんじゃ。


 いちおう「ゴメンね~」とニヤニヤしながら謝ったら、わしが振り向いた瞬間にSPの一人が飛び掛かって来た。


「なっ……」

「わしを軽く押さえるつもりだったみたいにゃから、それで勘弁してあげるにゃ~」


 不意討ちは、侍の勘を使っての、先の先で対応。襲い掛かったSPには、わしが消えたように見えたであろう。


「キャーーー!!」


 あと、爪で服を斬り裂いてパンイチにしてあげたので、悲鳴があがった。


「そっちの人だったんにゃ……にゃんかゴメンにゃ~」


 胸を両手で隠すゴツイ男から甲高い悲鳴があがったので申し訳なさすぎる。


「謝罪に一芸見せてあげるから、許してにゃ~」

「銃……いつの間に!? か、返せ!!」


 脇に装備していた銃は、爪で服を斬った時についでに奪っていた物。さすがに銃を奪われていたのでは、裸のSPは職務優先で男に戻った。けど、銃口を向けたら内股になった。


「「「「「ありえない……」」」」」


 銃自体は横を向いているのに、銃口だけがSPたちに向いているからだ。


 もちろんわしが、力業ちからわざでぐにゃっと曲げただけ。ついでに銃弾が暴発しても周りが大丈夫なように気を付けながら丸めて行く。

 わしの手の中で鳴っていた「パンパン」と弾ける音がなくなると、真ん丸の鉄の塊が完成。これを軽く投げて、袖元に開いた次元倉庫から出した刀で真っ二つに……


「はいにゃ~。片方は記念に君にあげるにゃ。こっちは殿下にあげるにゃ~」


 さっきまで銃だった物の輪切りをSPの手に乗せたら、断面に吸い込まれそうなぐらい凝視している。皇太子殿下にも渡したら足がガクガクしていたので、イスに座ってもらった。



「どうかにゃ? わしの化け物っぷりは伝わったかにゃ??」

「化け物……手に怪我は……」

「この通り、無傷にゃ~」


 皇太子殿下に両手を開いて見せてあげたけど、肉球はプニプニしないでください。こちょばいんじゃ。


「ちなみに、皆さんこんなことできるのでしょうか?」

「ここまでは……玉藻とコリスぐらいかにゃ? ま、ほとんど銃に対応できるから、あんまり向けないほうがいいかもにゃ。勢い余ってにゃんてあるかもしれにゃいし……」

「き、聞いていたな!?」


 わしが脅すように言ったら、皇太子殿下がこう言う始末。SPたちも急に怒鳴られたからか、わしが怖いのか、首を高速で縦に振っていた。


「ちょっと余興に時間を使いすぎちゃったにゃ。そんじゃあ殿下……聞きたいことがあったら、なんにゃりと質問してくれにゃ~」

「は、はい……」


 ようやく本題。皇太子殿下は緊張してしまっているので、わしはできるだけ楽しませるように、わしたちの世界の話を聞かせてあげるのであった。



「有意義なお話、誠に感謝いたします」


 時刻は夕刻に迫ると、皇太子殿下もわしの話が面白かったのか笑顔を見せてくれた。


「まだまだ聞き足りなくにゃい?」

「正直に言いますと、シラタマ王と玉藻様といくらでもお話していたいです。しかし、私だけ聞くのも国民に悪いので、そろそろ外に出られたほうがよろしいかと」

「にゃはは。謙虚だにゃ~。そんにゃ天皇家には、これを進呈するにゃ~」


 わしが笑いながら本を山積みにすると、皇太子殿下は首を傾げる。


「これは?」

「わしが平行世界の地球を旅した冒険記にゃ。わしたちの世界でめちゃくちゃ売れてるんにゃよ」

「それはまた結構な物を……楽しみに読ませていただきます」

「読むだけでなく、出版してくれにゃ」

「え?」

「これだけ日本を騒がせたんにゃ。慰謝料として受け取ってほしいんにゃ」


 わしのお願いは皇太子殿下にいまいち伝わっていないので、もう少し詳しく説明する。


「これを翻訳して世界中で売れば、百万どころか一千万……いや、にゃん億冊も売れるにゃろ。その著作権を、天皇家に献上すると言っているんにゃ」

「そ、そんな……」

「まぁ、日本政府に聞かないといけないにゃろうから、わしがゴリ押ししておくにゃ。だから、今後の天皇家存続のために使ってくれにゃ。んで、たまには国民のお金から離れて豪遊してやれにゃ。にゃはははは」


 わしが冗談めかして言っても、皇太子殿下はそれは受け取れないみたいだ。


「いえ、このお金は、未来に起こる災害の費用に充てたいと思います。この用途で受け取るわけにはいかないでしょうか?」

「真面目すぎるにゃ~。玉藻だって、たんまりヘソクリ隠してるんにゃよ~?」

「これ! わらわは天皇家にもしものことが起こった場合に備えて残しておるだけじゃ。変な言い方をするな」

「本当かにゃ~?」

「事実に決まっておろう! そちのような守銭奴と一緒にするな!!」

「わしのどこが守銭奴にゃ~」


 確かにわしは儲け話になったら悪い顔で笑っているけど、アレはただのノリで、お金の使い方は超真っ当だ。なのに玉藻がわしの貯金をバラすので、「にゃ~にゃ~」ケンカ。

 でも、皇太子殿下が微笑ましくわしたちのケンカを見ているので、毒気を抜かれてしまった。


「まぁわしたちのスケジュールはこの資料に書いてある通りにゃから、次は天皇陛下とお会いできることを期待しているにゃ~」

「ええ。次回は宮内庁を叱責してでも陛下の意見を通してみせます。どうぞこの日本を隅々まで見て、陛下に感想をお聞かせください」

「にゃはは。天皇家からの日本渡航許可、有り難く頂戴するにゃ~」


 わしと玉藻と皇太子殿下はにこやかに握手を交わし、春秋の間を離れるのであっ……


「「「「「もうちょっと~~~」」」」」


 いや、アニメを見ていた皆がまったく動こうとしないので、説得に時間が取られるのであったとさ。



 アニメを見ていたタブレットは借りられるようになったので、続きはホテルで。子供たちは「わいふぁいわいふぁい」とか謎呪文を唱えていたので、七三メガネに丸投げ。

 わしはまだやらねばならないことがあるので、アニメの脅威を知らない玉藻と一緒に報道陣の前に顔を出した。


「出て来ました!」

「中でどのようなお話を!?」

「猫ですか!?」

「背中にジッパーはありますか!?」

「尻尾を触らせてください!!」


 すると、カメラとマイクを向けられて大騒ぎ。でも、質問が着ぐるみ問題になってる?


「えっと。今日は質疑応答はなしにゃ。騒ぐにゃ! 聞けにゃ! その代わり、みんにゃが質問しそうにゃことは、この資料に記入しているにゃ。順番に渡すから、並んでくれにゃ~。足りなくにゃったら、コピーでもにゃんでもしていいから、世界中に広く伝えてくれにゃ~」


 こんなこともあろうかと……てか、喋るのが面倒なので用意しておいたわしたちの世界をつづった写真付きの資料を配り終わり、頼みごとも終わったら、少しは相手してあげる。


「ま、これで解散ってのも、そちらも納得がいかないにゃろ? だから一芸を見せてやるから、今日のところは勘弁してくれにゃ~」


 玉藻と一緒に報道陣を引き連れてUFOの元へ戻ると、わしたちは向き直って撮影の開始を宣言する。


「にゃあにゃあ、少年少女よ刮目しろにゃ。これがかの有名にゃ、アイテムボックスにゃ~!」

「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」


 わしが両手を広げてUFOを次元倉庫に入れたら、放送中なのに報道陣から驚きの声が響き渡る。


「そしてこれが、剣と魔法のファンタジー世界にゃ~~~!!」


 わしは刀を抜いて、玉藻は扇の二刀流。お互い人間に見える程度で素早く動き、刃のない武器を激しくぶつけての演武。さらに攻撃魔法を同じ威力でぶつけ合い、派手さをプラス。


「最後に、ここに御座す方をにゃんと心得る。の平安時代に実在した、九尾の狐、玉藻前様にゃ~~~!!」

「コ~~~ン!!」


 ラストは、変化へんげの術を解いた白い巨大キツネの登場。出会った頃より大きくなって8メートルぐらいあるので、報道陣の中には腰を抜かす人もいた。


「にゃははは。よきにはからえにゃ~。にゃははは」

「コ~ンコンコンコン」


 その中を、わしは玉藻の頭に乗ったら、笑いながら退場するのであった。

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