猫歴15年

猫歴15年、平行世界に行くにゃ~


 我が輩は猫又である。名前はシラタマだ。17歳になったけど学校に通っていないのは、グレているとかではない。


 猫歴15年は、わしの待ってましたの年……

 我慢できずに試し乗りとか言って月に行って魔力を無駄遣いしてしまったので、ちょくちょく自分の魔力を補充して早くしようと頑張ったら、ついに神々の乗り物、次元船の魔力が満タンになったのだ~~~!!


 というわけで、さっそく皆の長期休暇を合わせ、やって来たのは第三世界。その世界の地球に異世界転移してやった。


 この見た目はUFOにクリソツな乗り物の搭乗員は、猫の国から王様のわしと、王妃のリータとメイバイ。王女のコリスとオニヒメ。実子の猫娘と猫息子。それと、ノルンを頭に乗せた転生者のベティ17歳とその娘で側室のエミリ。

 定員はなんとかなるのだが、王族全員が国を空けるのはどうかと思い、お春には残ってもらった。つゆは……連れて行くと機械を分解しそうだから、旅に出るとしか言ってない。居候いそうろうのワンヂェンもだ。


 東の国からはすったもんだあったけど、次期女王のさっちゃん。その娘と息子。護衛にイサベレとわしの娘でもある猫耳娘。もひとつ護衛かどうかわからない、わしの兄弟の白猫エリザベスとルシウスだ。


 日ノ本からは、九尾のキツネ耳巨乳美女、玉藻。玉藻は月旅行に誘わなかったので、わしが秘密裏に何かやろうとしていると知ったら飛んで来て、どうして誘わないかとクドクド言われた。

 元々連れて行く予定だったのに、早とちりしやがって……


 ちなみに服装は、猫の国組は和装が多く、コリスは裸で大きな赤いリボン。ベティ親子はドレス。東の国組は全員お高そうな洋装。玉藻は公家装束だ。


 総勢……人間以外もまざっているから計算しづらいので、全員人換算で18人と多いけど、UFOは外から見たより中は広いので、快適に東京の遙か上空に浮かんでいる。


 しばし皆が驚いている間にわしの元へ、この第三世界を統べるアマテラスノオオミカミから連絡が来たけど、スサノオノミコトから渡航券は貰っていたので、歓迎と注意事項だけで解放された。


「キャプテンベティ……飛行機には注意しろにゃ~?」

「わかってるわよ」

「まだ誰にも見付からないようにしろにゃ~?」

「わかってるって言ってるでしょ。そんなに信用ないなら自分で操縦しなさいよ」

「わしは習ってにゃいもん!」

「だったら黙ってろ!」

「ノルンちゃんのマスターは、とうとう教えてと頼みに来なかったんだよ……」


 UFOの操縦士は、やりたがっていたベティ。ノルンがいるから習う必要ないのでわしは人任せ。なのに、小姑かってくらい言っていたら、二人に叱られた。


 でも、子供の前ではやめてほしかったな~。


 それから子供たちには、わしは王様の仕事で忙しかったと威厳を保とうとしたけど、いつも一緒に遊んでいたからすぐに嘘はバレた。リータたちもそれに乗っかってしまったので、威厳はどこ吹く風。


 今回は子育てに参加したかったんじゃ……前世では、仕事が忙しくて子供の成長を何度も見逃していたから……女房や娘にそのことで小言を言われ続けたから、あとが怖いってのもある……


 わしが前世の失敗を挽回しようとしていたと説明してみたけど、皆は聞いていない。


「「「「「うわ~~~」」」」」


 UFOの真下には、大東京の姿が現れたからだ。


「おお~。透明にしてくれたんにゃ」


 このUFOには、外の景色を360度どころか全てを透明にする機能があるので、ベティが気を遣ってくれていたようだ。


「なにアレ!? 東京タワーより高いわよ!!」


 いや、およそ40年振りに戻って来たので、自分が見たかったっぽい。


「アレはスカイツリーにゃ~。たしか武蔵……634メートルだったかにゃ? 東京タワーより倍も高い電波塔にゃ~」

「すっご……」


 わしがガイドすることで、皆は質問の嵐。子供たちもいっぱい質問してくれるので、父の威厳も復活だ。

 そんななか、いい大人になっているのにさっちゃんも「聞いて聞いて」とうるさいから相手してあげる。


「キャットタワーより高い建物だらけ……アレって何階あるの?」

「タワーマンションかにゃ? だいたい20階から30階が主流だと思うけど、もっと高い建物もあるにゃ~」

「そんなに!? シラタマちゃん……」

「にゃに??」

「私の女王即位に合わせて作って~~~」

「にゃんでうちより倍も高い建物を作らないといけないんにゃ~~~」


 さっちゃんがおねだりモードに入ったので、子供たちもおねだりモード。イサベレはさっちゃんの味方に付いて、娘を使わないでくれる?

 さすがに今の文化レベルではそこまで高い建物は不釣り合いなので、わしは断固として首を縦に振らないのであった。


「「「パパ~~~」」」

「しょうがないにゃ~。帰ってから考えるにゃ~」

「「「やったにゃ~~~!!」」」

「「「「「甘々にゃ~」」」」」


 いや、子供に弱いわしは縦に振っちゃったので、皆から甘いと言われるのであったとさ。



 それからも「にゃ~にゃ~」やっていたらノルンが時間を教えてくれたので、さっそくレコードの準備。ベティもUFOの機能で外に音を出す呪文を唱えていたら、リータが邪魔をする。


「本当にそれを流すのですか?」

「にゃんで~?」

「だって、私たちは宇宙人じゃないじゃない。嘘つきだと思われますよ」

「そうにゃけど、いきなり平行世界人って言われるほうがついていけないと思うんだよにゃ~」


 わしたちの登場シーンは、わしとベティの合作。次元船はUFOその物に見えるのだから、宇宙人でゴリ押ししたほうが平和的にすんなりと受け入れられると思っての配慮だ。

 でも、「ワレワレは宇宙人ダ」とか喉を震わせて録音したからには、リータたちが不安に感じてわしをモフっていた。これはベティの案なのに……


 時間になったら、皇居上空でUFOの迷彩機能を解除。そして地上を拡大鏡で見て騒ぎ出したのを確認したら、ぶっつけ本番の放送だ。


『ワレワレは、宇宙人ダ。敵意はナイ。ワレワレは、宇宙人ダ。敵意はナイ」

『先程の通り、我々に敵意はありません。武装は解除してください。なお、いまより一時間後の正午に、UFOは皇居外苑に着陸します。我が王は天皇陛下との接見を希望し、昼食をご一緒して友好を深めたいと仰っております。お騒がせして申し訳ありませんが、着陸までもうしばしお待ちください』


 喉を振るわせて発音しているような片言のわしの声と、リータの流暢りゅうちょうな日本語のメッセージが地上に流れると、わしたちは固唾を飲んで四方八方を確認している。


「全員目を離すにゃよ? ベティは、戦闘機が来たらすぐに撤退するからにゃ」

「わかってるわよ」

「地上班は、人々の行動に注意してくれにゃ」

「「「「「にゃっ!!」」」」」


 こんな未確認飛行物体が急に現れたら宇宙人が攻めて来たと思われる可能性が高いので、いつ撃ち落とされるかわからない。わしたちはしばし緊張してその時を待つしかない。


 そうしてレコードがエンドレスに流れてどれぐらい経ったであろうか……


「あっ! みんなの動きが変わったニャー!!」


 メイバイの発言から地上を映しているモニターに目をやると、焦って移動していた人々は足を止め、四角い板を空に向けていた。


「レーダーにもまったく反応なしだよ。向かって来る飛行物体はなかったんだよ」


 ノルンが見ていたモニターにも目をやるが、わしはため息が出てしまう。


「はぁ~……どんだけ平和ボケしてるんにゃ……」

「ホントね……日本はこれで大丈夫なのかしら」


 そのため息にベティも不安に思い、せめて戦闘機を待機させろとか地対空ミサイルを用意しろとか「にゃ~にゃ~」文句。だが、だからこそ日本を選んだってのもあるので、無事着陸できそうだと胸を撫で下ろした。


「さってと……時間だにゃ。降下開始にゃ~」

「「あいあいにゃ~!」」

「二人して馬鹿にしてるにゃ?」


 わしの指示でベティ&ノルンが敬礼してくれるのはいいのだが、変な言葉を言わないでほしい。リータたちが猫軍に取り入れたり子供たちがマネするんじゃ。


 2人に「にゃ~にゃ~」わしが苦情を言いながら、UFOは自衛隊の装甲車が並ぶ皇居外苑に着陸したのであった。



「じゃあ、行って来るにゃ~」


 顔出しのトップは、一番見た目がマシなリータかさっちゃんに頼みたかったのだが、国相手の交渉なんだからと皆がわしを押すので渋々わしから降りる。

 UFOから外に出ようとするとカメラのフラッシュが凄かったが、わしの全身が現れるとピタリと止まった。宇宙人が出て来ると思っていたところに歩く白猫が現れたのでは、気持ちはわからんこともない。「猫、猫」言ってるし……

 そんな騒ぎは慣れっこと言いたいところだが、こんなにカメラが向けられていては緊張が勝る。とりあえず、緊張を解すために適当な女性アナウンサーを指差して、ジェスチャーで体を動かす。


 そして懐から出したマイクを握り、肉球を見せて指を折ってカウントダウン。わしの第一声が響き渡る。


『我が輩は猫であるにゃ。名前はシラタマにゃ。宇宙人ではにゃい。本当は平行世界人にゃ。騙して悪かったにゃ~。ドッキリ大成功にゃ~。にゃはははは』


 しばし大音量のわしの笑い声が響くが、全員ポカン。猫が日本語を喋っているのだから、これもわからんでもない。

 少し時間を置くと怒声が聞こえて来たのでもう大丈夫かと思い、わしが尻尾で合図を出したら、UFOから次々と降りて来る。


 1人目はコリス。猫が降りて来ると思っていたら巨大リスが現れたので、皆は困っているっぽい。

 2人目はメイバイ。やっぱり異世界と言えば猫耳だろうと配慮してあげた。

 3人目はオニヒメ。鬼も異世界の醍醐味かと思っての配慮だ。

 4人目はイサベレ。王妃のリータにお願いしたのに、同じエルフなら美人のほうがいいと泣き付いて来たので負けた。

 次は一気にエルフを3人。リータ、エミリ、ベティだ。あ、妖精ゴーレムのノルンもいるから4人だった。

 次も一気に3人。わしの実子の猫娘と猫息子と猫耳娘。皆、大勢にカメラを向けられて怖いのか、お母さんの元へ走って行った。

 オオトリの前に、九尾の狐、玉藻。二番目でもよかったが、変わった見た目の最後に持って来てあげた。

 ラストは、普通の見た目の者たち。さっちゃんと娘と息子。白猫エリザベスとルシウス。皆からガッカリされるかと思っていたけどそれまでがおかしずぎたので、けっこう騒ぎが凄い。


 これで全員揃ったので、わしは一歩前に出てさっき指差した女性アナウンサーに手招きし続けたら、テレビクルーと自衛官を引き連れてノコノコやって来てくれた。


「呼び出して悪かったにゃ~。日本政府の許可をもらうの大変だったにゃろ?」

「いえ、まぁ……はい」


 わしが普通に話し掛けたらアナウンサーはどうしていいかわからず固まった。しかしディレクターにつつかれて動き出した。


「あ、あの……まず何から聞いたら……あ、そうですね。率直なことを聞きます……猫??」

「アイムキャットにゃ~。にゃはははは」


 わしはどんな質問が来るかとドキドキしていたが、いつも通りの質問が来たので、世界中の人にわかりやすいように英語で答えたのであった……

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